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第1話:ゴミスキルと追放宣告
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「――以上だ。アルノ・アードラー、貴様は本日をもって、このパーティ『太陽の剣』から追放する」
古代迷宮の深く、湿った空気の中、勇者レイド・グランヴェルの冷酷な声が響き渡った。
その言葉は、まるで鋭い氷の刃のように俺の胸に突き刺さる。
俺、アルノ・アードラーは、Sランクパーティに所属する鑑定士だ。
目の前で腕を組み、俺を見下している男が、このパーティのリーダーである勇者レイド。金の髪を輝かせ、誰もが見惚れるような美貌を持つ彼は、しかしその内面に底知れない傲慢さを飼っている。
「おいアルノ! さっきから何をもたもたしている! こいつの弱点くらいさっさと鑑定しろ!」
先程の戦闘中、レイドはそう叫んだ。
俺が敵の行動パターンと三秒後に放たれるカウンター攻撃の軌道を読み、回避指示を出そうとした。まさにその瞬間のことだった。
「今は弱点より危険な攻撃が来ます!」
「うるさい! 言い訳はいい! アイテム鑑定しかできないゴミスキルが! 役立たずめ!」
レイドは俺の忠告を無視して突撃し、案の定、強力な一撃を食らって吹き飛ばされた。
幸い、致命傷にはならなかったが、彼のプライドはひどく傷ついたらしい。
その怒りの矛先が、すべて俺に向けられたのだ。
「レイドの言う通りね。アルノがいると、どうも戦闘のテンポが悪くなるわ」
そう言ってため息をつくのは、聖女セラフィナ。
慈愛の笑みを浮かべているが、その瞳は冷え切っている。
「僕も同感だ。君の鑑定は、僕の魔法の触媒選びには役立ったが、戦闘では正直、いてもいなくても変わらない」
眼鏡を押し上げながら冷静に分析するのは、賢者グレン。
誰一人、俺を庇う者はいない。
パーティ結成から今まで、苦楽を共にしてきたはずの仲間たちの、これが本心だった。
俺のスキル【鑑定】は、表向きはアイテムの詳細を見る程度にしか思われていない。
だが、その真の名は【万物鑑定】。
物や人のステータスはもちろん、その真価、隠された能力、未来の可能性、最適な活用法まで、文字通り万物を見通せる。
罠の起動条件、敵の行動パターンの数秒先の未来予測、ダンジョンの構造に隠された安全なルート、仲間が持つ武具の最適なメンテナンス方法――俺は、その力のすべてを、このパーティのために捧げてきた。
戦闘前に敵の弱点を伝えれば「そんなことは見ればわかる」と一蹴され、罠の存在を知らせれば「お前がもたもたするからだ」と罵倒される。
俺の貢献はあまりにも地味で、派手な力こそが正義と信じる彼らには、決して理解されなかった。
伝えても信じてもらえない。
その繰り返しに、俺の心はとっくにすり減っていた。
「わかった。追放を受け入れよう」
俺が静かにそう答えると、レイドは鼻で笑った。
「物分かりが良くて助かる。だが、ただで辞めさせるわけにはいかないな。お前をここまで連れてきてやった手間賃として、装備一式は置いていけ。慈悲で着の身着のままにはしてやる。あと、食料もだ。ほら、これをくれてやる」
レイドが足元に放り投げたのは、黒く硬くなったパンが一つと、濁った水の入った水袋だけ。
Sランクパーティが、命の恩人とも言える仲間にやる仕打ちがこれか。
俺は黙ってそれを拾い、背負っていたリュックサックを降ろす。
中には、俺が調合した特製のポーションや解毒薬、ダンジョン攻略用の地図がぎっしりと詰まっていた。
これらも、もう彼らのためには使えない。
「じゃあな、ゴミ鑑定士。迷宮の魔物にでも食われて死ぬんだな」
吐き捨てるようにそう言って、レイドたちは背を向けた。
聖女も、賢者も、一度も振り返ることなく迷宮の闇へと消えていく。
一人、深層に取り残された俺は、しばらくその場に立ち尽くしていた。
悲しみか? 怒りか?
いや、違う。
俺の心を占めていたのは、不思議なほどの解放感だった。
「……もう、いいんだ」
誰かのために遠慮する必要はない。
誰かに罵倒されることも、信じてもらえないことに心を痛める必要もない。
これからは、自分のためだけに生きる。
自分のためだけに、この力を使う。
俺はゆっくりと顔を上げた。
その瞳には、絶望ではなく、静かな決意の光が宿っていた。
さあ、始めよう。
俺だけの、新しい人生を。
古代迷宮の深く、湿った空気の中、勇者レイド・グランヴェルの冷酷な声が響き渡った。
その言葉は、まるで鋭い氷の刃のように俺の胸に突き刺さる。
俺、アルノ・アードラーは、Sランクパーティに所属する鑑定士だ。
目の前で腕を組み、俺を見下している男が、このパーティのリーダーである勇者レイド。金の髪を輝かせ、誰もが見惚れるような美貌を持つ彼は、しかしその内面に底知れない傲慢さを飼っている。
「おいアルノ! さっきから何をもたもたしている! こいつの弱点くらいさっさと鑑定しろ!」
先程の戦闘中、レイドはそう叫んだ。
俺が敵の行動パターンと三秒後に放たれるカウンター攻撃の軌道を読み、回避指示を出そうとした。まさにその瞬間のことだった。
「今は弱点より危険な攻撃が来ます!」
「うるさい! 言い訳はいい! アイテム鑑定しかできないゴミスキルが! 役立たずめ!」
レイドは俺の忠告を無視して突撃し、案の定、強力な一撃を食らって吹き飛ばされた。
幸い、致命傷にはならなかったが、彼のプライドはひどく傷ついたらしい。
その怒りの矛先が、すべて俺に向けられたのだ。
「レイドの言う通りね。アルノがいると、どうも戦闘のテンポが悪くなるわ」
そう言ってため息をつくのは、聖女セラフィナ。
慈愛の笑みを浮かべているが、その瞳は冷え切っている。
「僕も同感だ。君の鑑定は、僕の魔法の触媒選びには役立ったが、戦闘では正直、いてもいなくても変わらない」
眼鏡を押し上げながら冷静に分析するのは、賢者グレン。
誰一人、俺を庇う者はいない。
パーティ結成から今まで、苦楽を共にしてきたはずの仲間たちの、これが本心だった。
俺のスキル【鑑定】は、表向きはアイテムの詳細を見る程度にしか思われていない。
だが、その真の名は【万物鑑定】。
物や人のステータスはもちろん、その真価、隠された能力、未来の可能性、最適な活用法まで、文字通り万物を見通せる。
罠の起動条件、敵の行動パターンの数秒先の未来予測、ダンジョンの構造に隠された安全なルート、仲間が持つ武具の最適なメンテナンス方法――俺は、その力のすべてを、このパーティのために捧げてきた。
戦闘前に敵の弱点を伝えれば「そんなことは見ればわかる」と一蹴され、罠の存在を知らせれば「お前がもたもたするからだ」と罵倒される。
俺の貢献はあまりにも地味で、派手な力こそが正義と信じる彼らには、決して理解されなかった。
伝えても信じてもらえない。
その繰り返しに、俺の心はとっくにすり減っていた。
「わかった。追放を受け入れよう」
俺が静かにそう答えると、レイドは鼻で笑った。
「物分かりが良くて助かる。だが、ただで辞めさせるわけにはいかないな。お前をここまで連れてきてやった手間賃として、装備一式は置いていけ。慈悲で着の身着のままにはしてやる。あと、食料もだ。ほら、これをくれてやる」
レイドが足元に放り投げたのは、黒く硬くなったパンが一つと、濁った水の入った水袋だけ。
Sランクパーティが、命の恩人とも言える仲間にやる仕打ちがこれか。
俺は黙ってそれを拾い、背負っていたリュックサックを降ろす。
中には、俺が調合した特製のポーションや解毒薬、ダンジョン攻略用の地図がぎっしりと詰まっていた。
これらも、もう彼らのためには使えない。
「じゃあな、ゴミ鑑定士。迷宮の魔物にでも食われて死ぬんだな」
吐き捨てるようにそう言って、レイドたちは背を向けた。
聖女も、賢者も、一度も振り返ることなく迷宮の闇へと消えていく。
一人、深層に取り残された俺は、しばらくその場に立ち尽くしていた。
悲しみか? 怒りか?
いや、違う。
俺の心を占めていたのは、不思議なほどの解放感だった。
「……もう、いいんだ」
誰かのために遠慮する必要はない。
誰かに罵倒されることも、信じてもらえないことに心を痛める必要もない。
これからは、自分のためだけに生きる。
自分のためだけに、この力を使う。
俺はゆっくりと顔を上げた。
その瞳には、絶望ではなく、静かな決意の光が宿っていた。
さあ、始めよう。
俺だけの、新しい人生を。
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