9 / 23
第8話:一方、転落していく勇者たち
しおりを挟む
アルノが辺境の村で穏やかなスローライフの基盤を築き、新たな家族を得ていた頃。
Sランクパーティ『太陽の剣』は、次なる攻略対象である『怨嗟の砦』に挑んでいた。
「ちっ! またかよ!」
リーダーである勇者レイドは、派手に作動した落とし穴のトラップの底で悪態をついた。
幸い、底に槍衾はなかったが、パーティはこれで三度目の足止めを食らっていた。
「レイド、あなた少し慎重さに欠けるわ。前はもっとスムーズだったじゃない」
聖女セラフィナが、イラついた声で言う。
彼女の額には、らしくない汗が滲んでいた。
「うるさい! 俺のやり方に口を出すな!」
レイドは怒鳴り返すが、内心では焦っていた。
アルノがいた頃は、こんな初歩的な罠にかかることなど一度もなかった。
彼はいつも、戦闘の合間に「この先の通路、右側は床が脆いので左に寄ってください」などと、的確なアドバイスをくれた。
あの時は「いちいち細かい奴だ」と鬱陶しく思っていたが、今思えば、あれがどれだけ有益だったか、身に染みてわかっていた。
「くそっ、MPがもう残り少ない……!」
賢者グレンが、ぜえぜえと息を切らしながら言う。
「どうしたのグレン、あなたらしくないわ。回復が追いつかないじゃない!」
「仕方ないだろう! いつものように補助魔法の触媒を選んでくれる者がいないんだ! 汎用品では、魔力の変換効率が悪すぎる!」
グレンが叫ぶ。
アルノはいつも、ダンジョンの特性や敵の属性に合わせて、最適な触媒やポーションの素材を選んでくれていた。
そのおかげで、聖女の回復魔法は常に最大限の効果を発揮し、賢者の攻撃魔法は少ないMPで絶大な威力を誇っていたのだ。
だが、その補助がない今、彼らの魔法の効果は半減どころか、三分の一以下に落ち込んでいた。
無駄な消耗が続き、パーティ全体の継戦能力は著しく低下していた。
「聖剣の切れ味も、なんだか鈍いような気がする……」
レイドは、自慢の聖剣を見つめて呟く。
これも、アルノがいなくなった影響だった。
彼は毎日のように、特殊なオイルと魔力を込めた布で、レイドの聖剣をメンテナンスしていたのだ。
【万物鑑定】で聖剣の状態を完璧に把握し、常に最高のコンディションを保っていたのである。
その恩恵を、レイドは「俺の力が強いからだ」と勘違いしていた。
「もう……なんなのよ! なにもかもうまくいかない!」
セラフィナがヒステリックに叫び、仲間同士で責任をなすりつけ合う。
「レイドが脳筋だからだ!」
「セラフィナの回復が遅いからだ!」
「グレンの魔法がしょぼいからだ!」
かつてのSランクパーティの威厳は、そこにはなかった。
あるのは、些細なことで言い争いを続ける、ただの仲の悪い冒険者たちの姿だけ。
彼らは気づいていない。
自分たちの力が、実はアルノという土台の上に成り立っていた、砂上の楼閣であったことに。
いや、心のどこかでは気づき始めていたのかもしれない。
あの「ゴミスキル」の鑑定士を追放してから、すべてが狂い始めたことに。
しかし、傲慢な彼らがそれを認めることは、まだできなかった。
『太陽の剣』の転落は、まだ始まったばかりだった。
Sランクパーティ『太陽の剣』は、次なる攻略対象である『怨嗟の砦』に挑んでいた。
「ちっ! またかよ!」
リーダーである勇者レイドは、派手に作動した落とし穴のトラップの底で悪態をついた。
幸い、底に槍衾はなかったが、パーティはこれで三度目の足止めを食らっていた。
「レイド、あなた少し慎重さに欠けるわ。前はもっとスムーズだったじゃない」
聖女セラフィナが、イラついた声で言う。
彼女の額には、らしくない汗が滲んでいた。
「うるさい! 俺のやり方に口を出すな!」
レイドは怒鳴り返すが、内心では焦っていた。
アルノがいた頃は、こんな初歩的な罠にかかることなど一度もなかった。
彼はいつも、戦闘の合間に「この先の通路、右側は床が脆いので左に寄ってください」などと、的確なアドバイスをくれた。
あの時は「いちいち細かい奴だ」と鬱陶しく思っていたが、今思えば、あれがどれだけ有益だったか、身に染みてわかっていた。
「くそっ、MPがもう残り少ない……!」
賢者グレンが、ぜえぜえと息を切らしながら言う。
「どうしたのグレン、あなたらしくないわ。回復が追いつかないじゃない!」
「仕方ないだろう! いつものように補助魔法の触媒を選んでくれる者がいないんだ! 汎用品では、魔力の変換効率が悪すぎる!」
グレンが叫ぶ。
アルノはいつも、ダンジョンの特性や敵の属性に合わせて、最適な触媒やポーションの素材を選んでくれていた。
そのおかげで、聖女の回復魔法は常に最大限の効果を発揮し、賢者の攻撃魔法は少ないMPで絶大な威力を誇っていたのだ。
だが、その補助がない今、彼らの魔法の効果は半減どころか、三分の一以下に落ち込んでいた。
無駄な消耗が続き、パーティ全体の継戦能力は著しく低下していた。
「聖剣の切れ味も、なんだか鈍いような気がする……」
レイドは、自慢の聖剣を見つめて呟く。
これも、アルノがいなくなった影響だった。
彼は毎日のように、特殊なオイルと魔力を込めた布で、レイドの聖剣をメンテナンスしていたのだ。
【万物鑑定】で聖剣の状態を完璧に把握し、常に最高のコンディションを保っていたのである。
その恩恵を、レイドは「俺の力が強いからだ」と勘違いしていた。
「もう……なんなのよ! なにもかもうまくいかない!」
セラフィナがヒステリックに叫び、仲間同士で責任をなすりつけ合う。
「レイドが脳筋だからだ!」
「セラフィナの回復が遅いからだ!」
「グレンの魔法がしょぼいからだ!」
かつてのSランクパーティの威厳は、そこにはなかった。
あるのは、些細なことで言い争いを続ける、ただの仲の悪い冒険者たちの姿だけ。
彼らは気づいていない。
自分たちの力が、実はアルノという土台の上に成り立っていた、砂上の楼閣であったことに。
いや、心のどこかでは気づき始めていたのかもしれない。
あの「ゴミスキル」の鑑定士を追放してから、すべてが狂い始めたことに。
しかし、傲慢な彼らがそれを認めることは、まだできなかった。
『太陽の剣』の転落は、まだ始まったばかりだった。
92
あなたにおすすめの小説
魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた
黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。
名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。
絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。
運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。
熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。
そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。
これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。
「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」
知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜
双葉 鳴
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。
勇者としての役割、与えられた力。
クラスメイトに協力的なお姫様。
しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。
突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。
そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。
なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ!
──王城ごと。
王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された!
そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。
何故元の世界に帰ってきてしまったのか?
そして何故か使えない魔法。
どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。
それを他所に内心あわてている生徒が一人。
それこそが磯貝章だった。
「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」
目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。
幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。
もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。
そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。
当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。
日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。
「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」
──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。
序章まで一挙公開。
翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。
序章 異世界転移【9/2〜】
一章 異世界クラセリア【9/3〜】
二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】
三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】
四章 新生活は異世界で【9/10〜】
五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】
六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】
七章 探索! 並行世界【9/19〜】
95部で第一部完とさせて貰ってます。
※9/24日まで毎日投稿されます。
※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。
おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。
勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。
ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。
家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。
希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。
手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。
「このまま死ぬのかな……」
そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。
そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。
試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。
「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」
スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。
たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。
※本作は小説家になろうでも投稿しています。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」
チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。
だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。
魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。
だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。
追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。
訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。
そして助けた少女は、実は王国の姫!?
「もう面倒ごとはごめんだ」
そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる