ゴミ鑑定だと追放された元研究者、神眼と植物知識で異世界最高の商会を立ち上げます

黒崎隼人

文字の大きさ
13 / 15

第12話「英雄の誕生と新たなギルド」

しおりを挟む
 厄災の刻が過ぎ去った街には、復興の槌音と人々の活気が戻りつつあった。
 あの一件で、俺の名声は揺るぎないものとなった。街を救った英雄、そして天才錬金術師。誰もが俺に敬意を払い、信頼を寄せてくれた。
 約束通り、「紅蓮の牙」の全資産は俺、相川慧に譲渡された。かつて俺が追い出された、あのギルドハウスの執務室。そのマスターの椅子に、今、俺が座っている。なんとも不思議な気分だ。

「まさか、俺がギルドマスターになるなんてな……」
 隣に立つエマとゴードンに、思わず苦笑いを漏らす。

「師匠なら当然です! きっと、素晴らしいギルドになりますよ!」

「うむ。お前さんなら、冒険者たちの気持ちが分かるマスターになれるだろう」
 二人が、温かい笑顔で俺を励ましてくれる。
 俺は、「紅蓮の牙」を解体し、全く新しいギルドとして再出発させることにした。その名も、『アイカワ冒険者相互扶助組合』。通称、『アイカワギルド』だ。
 営利目的ではなく、冒険者の生活と安全を第一に考える互助組織。それが、俺の目指すギルドの形だった。
 まずは、ギルドのポーションを全てアイカワ商会の高品質なものに入れ替えた。さらに、クエストの報酬体系を見直し、危険な依頼には相応のボーナスが出るようにした。装備の修理工房を誘致し、訓練施設も拡充した。
 俺の改革は、冒険者たちから熱烈に歓迎された。他の街からも噂を聞きつけた腕利きの冒険者たちが、次々と移籍してくるようになった。
 かつてダリオの悪政で寂れていたギルドは、俺がマスターになってからわずか数ヶ月で、大陸でも有数の活気あふれるギルドへと生まれ変わったのだ。
 ある晴れた日の午後。俺はギルドのテラスで、復興が進む街並みを眺めていた。

「ケイさん、ここにいたのか」
 声をかけてきたのは、アルフォード辺境伯だった。彼は今や、友人として気兼ねなく俺に会いに来てくれる。

「領主様。ええ、少し休憩を」

「君のおかげで、街はすっかり元気を取り戻したよ。アイカワギルドの評判も、王都にまで届いている」
 アルフォード卿は、満足そうにうなずいた。

「それでな、今日は君に一つ提案があるんだ」

「提案、ですか?」

「うむ。君を、我が辺境伯家の食客、いや、筆頭錬金術師として正式に迎え入れたい。男爵位も用意しよう。どうだろうか?」
 貴族への誘い。それは、この世界で生きていく上でこの上ない名誉だろう。
 だが、俺は穏やかに首を横に振った。

「お気持ちは大変ありがたいのですが、俺は、この街で、このギルドでみんなと一緒に生きていきたいんです。商人として、ギルドマスターとして、やるべきことがまだたくさんありますから」
 俺の答えを聞いて、アルフォード卿は少し驚いた顔をしたが、すぐに納得したように優しく微笑んだ。

「……そうか。君らしい答えだな。分かった。だが、これからも友人として、この街の盟主として、君の力を貸してほしい」

「もちろんです」
 俺たちは、固い握手を交わした。
 権力や名誉よりも、大切なものがここにはある。信頼できる仲間たちと、穏やかで充実した毎日。それこそが、俺が本当に求めていたものだった。
 追放された時は全てを失ったと思った。だが、あの経験があったからこそ、俺は自分の力の本当の意味を知り、かけがえのない仲間たちと出会えた。
 ふと見ると、ギルドの酒場ではエマが冒険者たちに薬の調合を教え、ゴードンが若者たちの剣の稽古をつけてやっていた。その周りには、たくさんの笑顔が溢れている。
 それが、俺が作りたかった場所。俺の居場所だ。
 元植物学者の俺が異世界で手に入れたのは、最強の戦闘能力でも、世界を支配する力でもなかった。
 それは、誰も見向きもしなかったガラクタから無限の価値を生み出す知識とスキル。そして、人と人との絆だった。
 大陸一の大商人にして、最高のギルドマスター。
 俺の成り上がりは、まだ始まったばかりだ。
 この穏やかで豊かなスローライフを守るため、そして、まだ見ぬ未知の素材への探究心を満たすため、俺の挑戦はこれからも続いていく。
 異世界の空は、どこまでも青く澄み渡っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。

國樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。 声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。 愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。 古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。 よくある感じのざまぁ物語です。 ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

弟が悪役令嬢に怪我をさせられたのに、こっちが罰金を払うだなんて、そんなおかしな話があるの? このまま泣き寝入りなんてしないから……!

冬吹せいら
恋愛
キリア・モルバレスが、令嬢のセレノー・ブレッザに、顔面をナイフで切り付けられ、傷を負った。 しかし、セレノーは謝るどころか、自分も怪我をしたので、モルバレス家に罰金を科すと言い始める。 話を聞いた、キリアの姉のスズカは、この件を、親友のネイトルに相談した。 スズカとネイトルは、お互いの身分を知らず、会話する仲だったが、この件を聞いたネイトルが、ついに自分の身分を明かすことに。 そこから、話しは急展開を迎える……。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

小石だと思っていた妻が、実は宝石だった。〜ある伯爵夫の自滅

みこと。
恋愛
アーノルド・ロッキムは裕福な伯爵家の当主だ。我が世の春を楽しみ、憂いなく遊び暮らしていたところ、引退中の親から子爵家の娘を嫁にと勧められる。 美人だと伝え聞く子爵の娘を娶ってみれば、田舎臭い冴えない女。 アーノルドは妻を離れに押し込み、顧みることなく、大切な約束も無視してしまった。 この縁談に秘められた、真の意味にも気づかずに──。 ※全7話で完結。「小説家になろう」様でも掲載しています。

処理中です...