防御力ゼロと追放された盾使い、実は受けたダメージを100倍で反射する最強スキルを持ってました

黒崎隼人

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第1話「防御力ゼロの盾使い」

「おい、アッシュ! また避けきれなかったのか! この役立たずが!」

 ゴッと鈍い音が響き、俺の背中に激痛が走った。リーダーである剣士ガリウスの蹴りだった。体勢を崩した俺は、迷宮の冷たい石の床に無様に転がる。

「す、すまない……」

「謝って済むか! お前のせいで俺の剣が傷んだだろうが!」

 理不尽な怒声が頭上から降り注ぐ。俺の名前はアッシュ。【盾使い】という、パーティーの壁となるべきクラスだ。だが俺の持つスキル【不動の誓い】は、これまで一度も発動したことがない。

 どんな攻撃も防げず、ただその身に受けるだけ。それが俺の現実だった。

 仲間からは「防御力ゼロの盾使い」「歩く的」と罵られ、戦闘のたびにこうしてガリウスから暴力を振るわれるのが日常だった。

「ガリウス、そのくらいにしてあげて。アッシュもわざとじゃないんだから」

 柔らかな声が響いた。声の主は、治癒師のミリア。俺がずっと想いを寄せている女性だ。彼女の白い手が俺の背中に触れると温かい光が灯り、蹴られた痛みが和らいでいく。

 ミリアは優しいなと感謝したのも束の間、彼女は冷たい声でこう続けた。

「でも、本当に危なかったわ。あんな雑魚ゴブリンの攻撃一つまともに受けられないなんて、盾使いとしてどうなの?」

 その言葉は癒されたはずの背中よりもずっと深く、俺の心を抉った。彼女の瞳には、優しさではなく侮蔑の色が浮かんでいた。

 俺たちのパーティー『赤き獅子の誓い』は、そこそこ名の知れたCランクパーティーだ。リーダーのガリウス、治癒師のミリア、そして魔法使いのマルコと斥候のジン。俺以外のメンバーは皆優秀で、だからこそ俺の「無能さ」が際立っていた。

「ちっ、こんな役立たずがいるせいで、攻略ペースが全然上がらねえ」

 ガリウスは舌打ちしながら、ゴブリンが落とした魔石を拾い上げる。その横顔には、俺への苛立ちが隠すことなく浮かんでいた。

 俺だって好きで的になっているわけじゃない。盾使いに転職した時から、この【不動の誓い】というスキルしか持っていなかった。スキルの説明には『固き誓いは、あらゆる攻撃を退ける礎となる』と書かれている。だが現実はこれだ。

 どんなに祈っても、どんなに集中しても、スキルが発動したことはない。俺にできるのは、仲間への攻撃を少しでも逸らすために敵の前に立ちはだかることだけ。そして、その結果がこれだった。

「アッシュ、次の戦闘では絶対に俺たちの前に出るなよ。お前が前に立つと、逆に邪魔なんだ」

「……分かった」

 ガリウスの命令に、俺は力なく頷くことしかできなかった。

 その日の攻略は、まさに地獄だった。俺は最後尾で荷物持ちを命じられ、仲間たちが戦う背中をただ見つめるだけ。時折、敵の攻撃が俺の方へ飛んでくると、ミリアやマルコから「邪魔!」「こっちに来るな!」と怒鳴られた。

 俺はこのパーティーにいる意味があるのだろうか。

 何度も自問したが、答えは出なかった。ミリアがいるから。ただそれだけの理由で、俺はこの屈辱に耐え続けていた。いつか俺のスキルが目覚めて、みんなを守れる日が来る。そう信じていた。

 しかし、その淡い期待は最悪の形で裏切られることになる。

 攻略を終え迷宮の入り口に戻った時だった。ガリウスが不意に足を止め、俺を睨みつけた。

「アッシュ。お前に話がある」

 その声は、いつにも増して冷え切っていた。嫌な予感が背筋を這い上がる。

「今日の戦闘は酷かったな。お前がゴブリンの攻撃を避けられなかったせいで、パーティー全体の連携が乱れた。危うく全滅するところだったぞ」

「そ、そんな……。俺は言われた通り、前に出なかったはずだ」

「口答えするな!」

 ガリウスが声を荒らげる。

「お前がいるだけで、俺たちの士気が下がるんだよ。足手まといを庇いながら戦うのが、どれだけ大変か分かってるのか?」

 他のメンバーたちも、冷たい視線で俺を見ていた。誰も助け舟を出してはくれない。

 そして、ガリウスは決定的な言葉を口にした。

「結論から言う。アッシュ、お前は今日限りでパーティーを追放だ」

 追放。

 その一言が、頭の中で何度も反響する。理解が追いつかない。俺は、捨てられるのか?

「ま、待ってくれ、ガリウス! 俺は、今までずっと……!」

「うるさい! 無能に用はない。これは全員の総意だ。なあ、お前ら」

 ガリウスが問いかけると、マルコとジンは黙って頷いた。俺は最後の望みをかけて、ミリアに視線を送る。彼女だけは、俺の味方でいてくれるはずだ。

「ミリア……」

 しかし、彼女は悲しそうな顔で首を横に振った。

「ごめんなさい、アッシュ。私たちも、もう限界なの。あなたのせいでみんなが危険な目に遭うのは見たくないわ」

 その言葉が、俺の心を完全に砕いた。

「これが手切れ金だ。装備はパーティーの共有物だから、全部置いていけ」

 ガリウスが、銅貨数枚を地面に投げ捨てる。それは今日の稼ぎの百分の一にも満たない、施しにもならない金額だった。

 俺は言われるがままに、使い古した鎧と盾を脱いだ。パーティーに入った時、なけなしの金で揃えた俺の唯一の誇りだったものだ。

 布の服一枚になった俺に、もう誰も目を向けなかった。彼らは背を向け、冒険者ギルドがある街の方へと歩き出す。

「ミリア!」

 俺は叫んだ。せめて、彼女だけには振り返ってほしかった。

 ミリアは一度だけ足を止め、そしてふわりとガリウスの腕に寄り添った。

「行きましょう、ガリウス。早くギルドで祝杯をあげたいわ。足手まといがいなくなって、せいせいしたわ」

 その光景が、俺の最後の希望を消し去った。

 独り、薄暗い迷宮の入り口に取り残された俺は、地面に転がった銅貨をただ見つめることしかできなかった。悔しさと悲しさと、そしてどうしようもない絶望が全身を支配していた。

 なぜ、俺だけがこんな目に遭うんだ。

 ずっとパーティーのために尽くしてきた。どんなに殴られても、罵られても、いつか認められると信じてきた。

 だが、全ては無駄だった。

 涙が溢れ、視界が滲む。もう、どうでもいい。これからどう生きていけばいいのかも分からない。俺はふらふらと立ち上がると、街とは反対の魔物がうろつく荒野へと、無意識に足を踏み出していた。

 死ぬなら、せめて魔物に食われた方がマシかもしれない。そんな自暴自棄な考えだけが、空っぽになった頭の中を支配していた。

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