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第01話「枯れ果てた庭と氷の騎士」
ベルヴァーン伯爵家のサンルームは、今日も華やかな笑い声で満ちていた。
豪華なドレスを纏った妹のマリアンヌが、扇を優雅に揺らしながら談笑している。その周囲には、彼女の美しさと愛らしさに惹きつけられた貴族の令息たちが群がり、まるで女王蜂に仕える働き蜂のように機嫌を取っていた。
窓際にある観葉植物の陰、カーテンの裾に隠れるようにして、リゼットは息を潜めていた。地味な灰色のドレスは、壁紙の色に溶け込みそうだ。誰も彼女の方を見ない。まるで、そこには最初から誰もいないかのように。
(……この子、喉が渇いているわ)
リゼットは、足元にある鉢植えのアイビーをそっと指先で撫でた。葉の緑色がくすみ、少しだけぐったりとしている。土は乾いていないのに、元気がなさそうだ。
『大丈夫よ。少しだけ、元気をあげる』
心の中でささやきながら、リゼットは指先に意識を集中させる。じんわりとした温かさが、指の腹から葉脈へと流れ込んでいくイメージ。すると、アイビーの葉が微かに震え、本来の瑞々しい緑色を取り戻したように背筋を伸ばした。
ほんの少しの、ささやかな魔法。それが、リゼットだけが持つ秘密だった。
「リゼット」
不意に低い声で名を呼ばれ、リゼットはびくりと肩を跳ねさせた。植物に向けた慈愛の表情が一瞬で消え、怯えを含んだ強張った顔つきに戻る。
振り返ると、父であるベルヴァーン伯爵が冷ややかな目で見下ろしていた。
「は、はい、お父様」
「こんな所に隠れておったか。探したぞ」
探した、という言葉にリゼットは耳を疑った。父が自分を探すことなど、年に一度あるかないかだ。大抵は、何かの不始末を叱責するか、面倒な用事を押し付ける時だけである。
父はリゼットの返事も待たず、事務的な口調で告げた。
「アスター侯爵邸へ行け」
「……え? アスター侯爵様、ですか?」
その名を聞いた瞬間、リゼットの背筋に寒気が走った。
ギルバート・アスター侯爵。王国騎士団長を務める彼は、戦場での功績と引き換えに、敵国の呪術師から呪いを受けたと噂されている。その容貌は鬼のように恐ろしく、心は氷のように冷たい「氷の騎士」だと、もっぱらの評判だった。
「侯爵は現在、呪いの傷を癒やすために領地の屋敷で療養中だ。王家からは、功労者である彼を慰問するようにとのお達しが出ている」
父は忌々しげに鼻を鳴らした。
「本来なら、我が家の誇るマリアンヌを行かせたいところだが、あのような呪われた男の元へ大切な娘をやるわけにはいかん。万が一、呪いが移ったらどうする」
「……それで、私に?」
「そうだ。お前なら、多少のことがあっても家名に傷はつかん。どうせ婚約の話もないのだ。アスター侯爵の機嫌を損ねぬよう、精々尽くしてくることだ」
それは、明白な厄介払いだった。
呪われた騎士の元へ、身代わりの生贄として差し出されるのだ。
リゼットは唇を噛み締め、俯いた。拒否権などないことは、この十八年間で痛いほど理解している。
「……承知、いたしました」
消え入りそうな声で答えると、父は興味を失ったように背を向け、マリアンヌの輪の中へと戻っていった。再び弾ける笑い声が、リゼットの鼓膜を遠く叩く。
リゼットは震える手で、先ほど元気を取り戻したアイビーの葉を、すがるように握りしめた。
***
数日後、リゼットを乗せた馬車は、王都の喧騒を離れ、北へと向かっていた。
窓の外を流れる景色は、アスター侯爵領に近づくにつれて、徐々に色彩を失っていくようだった。
かつては穀倉地帯として知られたこの地域も、近年流行しているという原因不明の「黒枯病」の影響か、作物の育ちが悪く、木々の葉も黄色く変色しているものが目立つ。
ガタゴトと揺れる馬車の中で、リゼットは膝の上で固く手を組んでいた。
荷物は小さなトランク一つ。実家から持たされたのは、最低限のドレスと身の回りの品だけだ。まるで、もう二度と帰ってくるなと言わんばかりの少なさだった。
(怖い……)
噂に聞くアスター侯爵の姿を想像し、リゼットの心臓は早鐘を打っていた。
もし、機嫌を損ねて切り捨てられたらどうしよう。呪いを受けて、私も怪物になってしまったら。
不安に押しつぶされそうになりながらも、馬車は無情にも目的地へと到着した。
「到着しましたぞ」
御者の声に促され、リゼットはおずおずと馬車を降りた。
そこに広がっていた光景に、リゼットは言葉を失った。
「これは……」
目の前にそびえ立つのは、歴史を感じさせる重厚な石造りの屋敷だ。しかし、その威容よりも先に目に飛び込んできたのは、屋敷を取り囲む広大な庭園の惨状だった。
土はひび割れ、雑草さえも枯れて茶色く変色している。かつては美しい花々が咲き誇っていただろう花壇は、今や墓標のように崩れかけ、立ち枯れた木の枝が、苦悶の表情で空に助けを求めているように見えた。
植物たちの悲鳴が聞こえるようだった。
「水が欲しい」「痛い」「苦しい」――そんな声なき声が、リゼットの胸に直接響いてくる。
「……ひどい」
恐怖よりも先に、植物たちへの憐憫が胸を満たした。リゼットにとって、植物は唯一の友人であり、心の拠り所だった。これほどまでに荒れ果て、生命力を失った土地を見るのは初めてだった。
「出迎えご苦労」
冷ややかな声が、冷たい風と共に降ってきた。
リゼットがハッとして顔を上げると、屋敷の玄関ポーチに、一人の男が立っていた。
長身痩躯の体に、黒一色の簡素な服を纏っている。濡れたような黒髪は無造作にかき上げられ、その下にある瞳は、凍てつく氷河のような青色をしていた。
そして、右の頬から首筋にかけて、禍々しい黒い紋様のような痣が走っている。
ギルバート・アスター侯爵だ。
リゼットは息を呑んだ。その姿は、噂通りに恐ろしい威圧感を放っていたが、同時に、どこか痛々しくも見えた。頬の痣が、彼自身を蝕んでいるかのように脈打っている気がしたのだ。
「ベ、ベルヴァーン家より参りました、リゼットと申します。この度は、お見舞いを……」
震える足で精一杯のカーテシーを行う。しかし、ギルバートは階段を降りようともせず、氷の瞳でリゼットを見下ろした。
「見舞いなど不要だと言ったはずだが」
その声には、明確な拒絶が含まれていた。
「帰れ。ここは、か弱い令嬢が遊びに来るような場所ではない」
「し、しかし……父の命令で、侯爵様のお加減が良くなるまで、こちらでお世話をするようにと……」
「世話など要らん。余計な気遣いは迷惑だ」
ギルバートの視線が、リゼットの背後の馬車に向けられる。
「御者、その娘を連れてすぐに戻れ」
「は、はあ……しかし、旦那様からは『置いてこい』と厳命されておりまして……」
御者も困惑し、逃げるように視線を逸らす。
リゼットは絶望的な気持ちになった。ここで追い返されれば、実家での居場所は完全になくなる。それに、こんな場所に彼を一人残していくことにも、奇妙な胸騒ぎを覚えていた。
「あ、あの!」
リゼットは勇気を振り絞り、声を上げた。
「わ、私、お邪魔はいたしません。お部屋の隅に置いていただくだけで構いません。何か、お手伝いできることがあれば何でもします。ですから……どうか、置いてください」
必死の形相で訴えるリゼットを、ギルバートは値踏みするようにじっと見つめた。
その視線は鋭く、心の中まで見透かされそうだ。
長い沈黙の後、彼は深いため息をついた。
「……勝手にしろ」
吐き捨てるように言うと、彼は背を向け、屋敷の中へと消えていった。
「あ……」
拒絶はされたが、追い出されはしなかった。
リゼットは安堵の息を漏らし、トランクを握りしめた。
案内された屋敷の中は、外観同様に静まり返っていた。使用人の姿もまばらで、必要最低限の人数しかいないようだ。
執事だという年老いた男性に案内されたのは、三階の角部屋だった。
「旦那様は、静寂を好まれます。あまり館内を歩き回らぬよう、お願いいたします」
執事は申し訳なさそうにそう告げると、食事は部屋に運ぶと言い残して去っていった。
広い部屋に一人残されたリゼットは、窓辺に歩み寄った。
ガラス越しに見下ろす庭は、やはり無残なほどに荒れ果てている。夕闇が迫り、枯れた木々のシルエットが黒く浮かび上がっていた。
『助けて……』
風の音に混じって、そんな声が聞こえた気がした。
リゼットは窓に手を当てる。
この屋敷は、まるでギルバートそのもののようだ。
孤独で、傷つき、人を拒絶し、静かに枯れていこうとしている。
(私に、何ができるだろう)
自分は無力だ。家族にも見捨てられ、何の取り柄もない。
けれど、このまま彼が孤独に沈んでいくのを、ただ見ているだけでいいのだろうか。
ふと、庭の片隅に、小さな温かさを感じた。
目を凝らすと、枯れ草に埋もれるようにして、一輪だけ、まだ命を繋いでいる植物の気配がする。
それは、荒野に残された最後の希望のように、弱々しく、けれど必死に呼吸をしていた。
(……あの子は)
リゼットの胸に、小さな決意の灯火がともった。
明日の朝、あそこへ行ってみよう。
誰にも期待されていない自分だけれど、あの小さな命のためにできることが、もしかしたらあるかもしれない。
リゼットは窓の外の暗闇を見つめ、そっと祈るように手を組んだ。
豪華なドレスを纏った妹のマリアンヌが、扇を優雅に揺らしながら談笑している。その周囲には、彼女の美しさと愛らしさに惹きつけられた貴族の令息たちが群がり、まるで女王蜂に仕える働き蜂のように機嫌を取っていた。
窓際にある観葉植物の陰、カーテンの裾に隠れるようにして、リゼットは息を潜めていた。地味な灰色のドレスは、壁紙の色に溶け込みそうだ。誰も彼女の方を見ない。まるで、そこには最初から誰もいないかのように。
(……この子、喉が渇いているわ)
リゼットは、足元にある鉢植えのアイビーをそっと指先で撫でた。葉の緑色がくすみ、少しだけぐったりとしている。土は乾いていないのに、元気がなさそうだ。
『大丈夫よ。少しだけ、元気をあげる』
心の中でささやきながら、リゼットは指先に意識を集中させる。じんわりとした温かさが、指の腹から葉脈へと流れ込んでいくイメージ。すると、アイビーの葉が微かに震え、本来の瑞々しい緑色を取り戻したように背筋を伸ばした。
ほんの少しの、ささやかな魔法。それが、リゼットだけが持つ秘密だった。
「リゼット」
不意に低い声で名を呼ばれ、リゼットはびくりと肩を跳ねさせた。植物に向けた慈愛の表情が一瞬で消え、怯えを含んだ強張った顔つきに戻る。
振り返ると、父であるベルヴァーン伯爵が冷ややかな目で見下ろしていた。
「は、はい、お父様」
「こんな所に隠れておったか。探したぞ」
探した、という言葉にリゼットは耳を疑った。父が自分を探すことなど、年に一度あるかないかだ。大抵は、何かの不始末を叱責するか、面倒な用事を押し付ける時だけである。
父はリゼットの返事も待たず、事務的な口調で告げた。
「アスター侯爵邸へ行け」
「……え? アスター侯爵様、ですか?」
その名を聞いた瞬間、リゼットの背筋に寒気が走った。
ギルバート・アスター侯爵。王国騎士団長を務める彼は、戦場での功績と引き換えに、敵国の呪術師から呪いを受けたと噂されている。その容貌は鬼のように恐ろしく、心は氷のように冷たい「氷の騎士」だと、もっぱらの評判だった。
「侯爵は現在、呪いの傷を癒やすために領地の屋敷で療養中だ。王家からは、功労者である彼を慰問するようにとのお達しが出ている」
父は忌々しげに鼻を鳴らした。
「本来なら、我が家の誇るマリアンヌを行かせたいところだが、あのような呪われた男の元へ大切な娘をやるわけにはいかん。万が一、呪いが移ったらどうする」
「……それで、私に?」
「そうだ。お前なら、多少のことがあっても家名に傷はつかん。どうせ婚約の話もないのだ。アスター侯爵の機嫌を損ねぬよう、精々尽くしてくることだ」
それは、明白な厄介払いだった。
呪われた騎士の元へ、身代わりの生贄として差し出されるのだ。
リゼットは唇を噛み締め、俯いた。拒否権などないことは、この十八年間で痛いほど理解している。
「……承知、いたしました」
消え入りそうな声で答えると、父は興味を失ったように背を向け、マリアンヌの輪の中へと戻っていった。再び弾ける笑い声が、リゼットの鼓膜を遠く叩く。
リゼットは震える手で、先ほど元気を取り戻したアイビーの葉を、すがるように握りしめた。
***
数日後、リゼットを乗せた馬車は、王都の喧騒を離れ、北へと向かっていた。
窓の外を流れる景色は、アスター侯爵領に近づくにつれて、徐々に色彩を失っていくようだった。
かつては穀倉地帯として知られたこの地域も、近年流行しているという原因不明の「黒枯病」の影響か、作物の育ちが悪く、木々の葉も黄色く変色しているものが目立つ。
ガタゴトと揺れる馬車の中で、リゼットは膝の上で固く手を組んでいた。
荷物は小さなトランク一つ。実家から持たされたのは、最低限のドレスと身の回りの品だけだ。まるで、もう二度と帰ってくるなと言わんばかりの少なさだった。
(怖い……)
噂に聞くアスター侯爵の姿を想像し、リゼットの心臓は早鐘を打っていた。
もし、機嫌を損ねて切り捨てられたらどうしよう。呪いを受けて、私も怪物になってしまったら。
不安に押しつぶされそうになりながらも、馬車は無情にも目的地へと到着した。
「到着しましたぞ」
御者の声に促され、リゼットはおずおずと馬車を降りた。
そこに広がっていた光景に、リゼットは言葉を失った。
「これは……」
目の前にそびえ立つのは、歴史を感じさせる重厚な石造りの屋敷だ。しかし、その威容よりも先に目に飛び込んできたのは、屋敷を取り囲む広大な庭園の惨状だった。
土はひび割れ、雑草さえも枯れて茶色く変色している。かつては美しい花々が咲き誇っていただろう花壇は、今や墓標のように崩れかけ、立ち枯れた木の枝が、苦悶の表情で空に助けを求めているように見えた。
植物たちの悲鳴が聞こえるようだった。
「水が欲しい」「痛い」「苦しい」――そんな声なき声が、リゼットの胸に直接響いてくる。
「……ひどい」
恐怖よりも先に、植物たちへの憐憫が胸を満たした。リゼットにとって、植物は唯一の友人であり、心の拠り所だった。これほどまでに荒れ果て、生命力を失った土地を見るのは初めてだった。
「出迎えご苦労」
冷ややかな声が、冷たい風と共に降ってきた。
リゼットがハッとして顔を上げると、屋敷の玄関ポーチに、一人の男が立っていた。
長身痩躯の体に、黒一色の簡素な服を纏っている。濡れたような黒髪は無造作にかき上げられ、その下にある瞳は、凍てつく氷河のような青色をしていた。
そして、右の頬から首筋にかけて、禍々しい黒い紋様のような痣が走っている。
ギルバート・アスター侯爵だ。
リゼットは息を呑んだ。その姿は、噂通りに恐ろしい威圧感を放っていたが、同時に、どこか痛々しくも見えた。頬の痣が、彼自身を蝕んでいるかのように脈打っている気がしたのだ。
「ベ、ベルヴァーン家より参りました、リゼットと申します。この度は、お見舞いを……」
震える足で精一杯のカーテシーを行う。しかし、ギルバートは階段を降りようともせず、氷の瞳でリゼットを見下ろした。
「見舞いなど不要だと言ったはずだが」
その声には、明確な拒絶が含まれていた。
「帰れ。ここは、か弱い令嬢が遊びに来るような場所ではない」
「し、しかし……父の命令で、侯爵様のお加減が良くなるまで、こちらでお世話をするようにと……」
「世話など要らん。余計な気遣いは迷惑だ」
ギルバートの視線が、リゼットの背後の馬車に向けられる。
「御者、その娘を連れてすぐに戻れ」
「は、はあ……しかし、旦那様からは『置いてこい』と厳命されておりまして……」
御者も困惑し、逃げるように視線を逸らす。
リゼットは絶望的な気持ちになった。ここで追い返されれば、実家での居場所は完全になくなる。それに、こんな場所に彼を一人残していくことにも、奇妙な胸騒ぎを覚えていた。
「あ、あの!」
リゼットは勇気を振り絞り、声を上げた。
「わ、私、お邪魔はいたしません。お部屋の隅に置いていただくだけで構いません。何か、お手伝いできることがあれば何でもします。ですから……どうか、置いてください」
必死の形相で訴えるリゼットを、ギルバートは値踏みするようにじっと見つめた。
その視線は鋭く、心の中まで見透かされそうだ。
長い沈黙の後、彼は深いため息をついた。
「……勝手にしろ」
吐き捨てるように言うと、彼は背を向け、屋敷の中へと消えていった。
「あ……」
拒絶はされたが、追い出されはしなかった。
リゼットは安堵の息を漏らし、トランクを握りしめた。
案内された屋敷の中は、外観同様に静まり返っていた。使用人の姿もまばらで、必要最低限の人数しかいないようだ。
執事だという年老いた男性に案内されたのは、三階の角部屋だった。
「旦那様は、静寂を好まれます。あまり館内を歩き回らぬよう、お願いいたします」
執事は申し訳なさそうにそう告げると、食事は部屋に運ぶと言い残して去っていった。
広い部屋に一人残されたリゼットは、窓辺に歩み寄った。
ガラス越しに見下ろす庭は、やはり無残なほどに荒れ果てている。夕闇が迫り、枯れた木々のシルエットが黒く浮かび上がっていた。
『助けて……』
風の音に混じって、そんな声が聞こえた気がした。
リゼットは窓に手を当てる。
この屋敷は、まるでギルバートそのもののようだ。
孤独で、傷つき、人を拒絶し、静かに枯れていこうとしている。
(私に、何ができるだろう)
自分は無力だ。家族にも見捨てられ、何の取り柄もない。
けれど、このまま彼が孤独に沈んでいくのを、ただ見ているだけでいいのだろうか。
ふと、庭の片隅に、小さな温かさを感じた。
目を凝らすと、枯れ草に埋もれるようにして、一輪だけ、まだ命を繋いでいる植物の気配がする。
それは、荒野に残された最後の希望のように、弱々しく、けれど必死に呼吸をしていた。
(……あの子は)
リゼットの胸に、小さな決意の灯火がともった。
明日の朝、あそこへ行ってみよう。
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