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第11話「北の怪物の咆哮」
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ヴォルフガングの登場は、まさに悪夢を切り裂く雷光だった。
執事長が雇った護衛の傭兵たちが一斉に襲いかかるが、ヴォルフガングの前では赤子同然だった。彼が剣を一閃させるたびに、衝撃波が走り、敵は泥人形のように吹き飛んでいく。
一撃振るうたびに、ヴォルフガングの脇腹から鮮血が雪に散る。だが彼は構わず、魔法障壁も、物理的な鎧も、彼の圧倒的なアルファの力の前では紙切れに等しい。
これが、「北の怪物」と呼ばれる所以。
けれど、私は気づいていた。彼の動きがいつもより鈍いことに。
脇腹には深い傷があり、雪の上に赤い染みが広がっている。雪崩を生き延び、休む間もなくここまで駆けつけてきたのだ。満身創痍のはずなのに、気力だけで立っている。
「死ねぇぇぇ!!」
錯乱した執事長が、隠し持っていた魔導銃を私に向けた。
「リリアーナ!」
ヴォルフガングが叫び、自分の体を盾にして飛び込んできた。
鈍い音がして、彼の肩から血飛沫が上がる。
「ぐぅっ……!」
「ヴォルフガング様!!」
彼は膝をついたが、倒れなかった。そのまま執事長の首元を掴み上げ、氷のような声で告げた。
「……貴様の罪は、死をもって償わせる」
彼が軽く力を込めると、執事長は白目を剥いて意識を失い、ゴミのように投げ捨てられた。
静寂が戻る。残ったのは、荒い息を吐くヴォルフガングと、鎖に繋がれた私だけ。
彼は震える手で私の拘束具を引きちぎった。
「……無事か、リリアーナ。遅くなって……すまない」
そう言った途端、彼の巨体がゆっくりと傾いた。
「ヴォルフガング様!」
私は慌てて彼を抱き止めたが、重みに耐えきれず二人で雪の上に倒れ込んだ。
彼の体は高熱を発しており、出血もひどい。特に脇腹の傷は深く、内臓に達しているかもしれない。
「しっかりしてください! 誰か……誰かいないの!」
叫んでも、吹雪の音にかき消されるだけだ。こんな山奥で、医者も薬もない。
彼の黄金の瞳が、焦点を失いつつある。
「……お前が無事で、よかった。……これでもう、お前を傷つける奴は、いな……」
彼の手が力なく雪の上に落ちた。
「嫌……嫌よ、ヴォルフガング様! 目を開けて!」
私のために。私なんかのために、この人は命を燃やして。
絶望が胸を押し潰しそうになる。
その時、体の奥底から熱い奔流が湧き上がるのを感じた。
それはヒートの熱ではない。もっと澄んだ、純粋な魔力の塊。
オメガが運命のつがいを救いたいと願う時、その魂が共鳴して奇跡を起こすという古い伝承が頭をよぎる。
――私には、力がある。植物を育て、人を癒やす力が。
私は彼を強く抱きしめ、額を合わせた。
「お願い、私の命をあげる。だから死なないで……!」
私は自分の中にある全ての魔力を解放した。
執事長が雇った護衛の傭兵たちが一斉に襲いかかるが、ヴォルフガングの前では赤子同然だった。彼が剣を一閃させるたびに、衝撃波が走り、敵は泥人形のように吹き飛んでいく。
一撃振るうたびに、ヴォルフガングの脇腹から鮮血が雪に散る。だが彼は構わず、魔法障壁も、物理的な鎧も、彼の圧倒的なアルファの力の前では紙切れに等しい。
これが、「北の怪物」と呼ばれる所以。
けれど、私は気づいていた。彼の動きがいつもより鈍いことに。
脇腹には深い傷があり、雪の上に赤い染みが広がっている。雪崩を生き延び、休む間もなくここまで駆けつけてきたのだ。満身創痍のはずなのに、気力だけで立っている。
「死ねぇぇぇ!!」
錯乱した執事長が、隠し持っていた魔導銃を私に向けた。
「リリアーナ!」
ヴォルフガングが叫び、自分の体を盾にして飛び込んできた。
鈍い音がして、彼の肩から血飛沫が上がる。
「ぐぅっ……!」
「ヴォルフガング様!!」
彼は膝をついたが、倒れなかった。そのまま執事長の首元を掴み上げ、氷のような声で告げた。
「……貴様の罪は、死をもって償わせる」
彼が軽く力を込めると、執事長は白目を剥いて意識を失い、ゴミのように投げ捨てられた。
静寂が戻る。残ったのは、荒い息を吐くヴォルフガングと、鎖に繋がれた私だけ。
彼は震える手で私の拘束具を引きちぎった。
「……無事か、リリアーナ。遅くなって……すまない」
そう言った途端、彼の巨体がゆっくりと傾いた。
「ヴォルフガング様!」
私は慌てて彼を抱き止めたが、重みに耐えきれず二人で雪の上に倒れ込んだ。
彼の体は高熱を発しており、出血もひどい。特に脇腹の傷は深く、内臓に達しているかもしれない。
「しっかりしてください! 誰か……誰かいないの!」
叫んでも、吹雪の音にかき消されるだけだ。こんな山奥で、医者も薬もない。
彼の黄金の瞳が、焦点を失いつつある。
「……お前が無事で、よかった。……これでもう、お前を傷つける奴は、いな……」
彼の手が力なく雪の上に落ちた。
「嫌……嫌よ、ヴォルフガング様! 目を開けて!」
私のために。私なんかのために、この人は命を燃やして。
絶望が胸を押し潰しそうになる。
その時、体の奥底から熱い奔流が湧き上がるのを感じた。
それはヒートの熱ではない。もっと澄んだ、純粋な魔力の塊。
オメガが運命のつがいを救いたいと願う時、その魂が共鳴して奇跡を起こすという古い伝承が頭をよぎる。
――私には、力がある。植物を育て、人を癒やす力が。
私は彼を強く抱きしめ、額を合わせた。
「お願い、私の命をあげる。だから死なないで……!」
私は自分の中にある全ての魔力を解放した。
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