偽りの断罪で追放された悪役令嬢ですが、実は「豊穣の聖女」でした。辺境を開拓していたら、氷の辺境伯様からの溺愛が止まりません!

黒崎隼人

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17 豊穣の聖女の覚醒

 リアム率いる辺境の精鋭部隊に守られ、セレスティナを乗せた馬車は王都へと向けて疾走していた。道中は、すでに魔物の領域と化していた。大地はひび割れ、枯れた木々が墓標のように立ち並んでいる。時折、魔物の群れが彼らの行く手を阻もうと襲いかかってきた。

「敵襲! 陣形を組め! 奥様をお守りしろ!」

 リアムの檄が飛ぶ。兵士たちは馬車を囲むように円陣を組み、襲い来る魔物を次々となぎ払っていく。彼らは辺境の厳しい環境で鍛え抜かれた猛者たちだ。しかし、魔物の数はあまりにも多い。倒しても、倒しても、次から次へと湧いてくる。

 激しい戦闘の最中、一体の巨大な魔物が守りの薄い箇所を突破し、セレスティナの乗る馬車へと牙を剥いた。

「奥様!」

 兵士の悲鳴が上がる。しかし、セレスティナは冷静だった。彼女は馬車から静かに降り立つと、迫りくる魔物の前に一人、毅然と立ちふさがった。

「セレスティナ! 危ない!」

 リアムが叫ぶが、彼女は振り返らない。
 セレスティナは、枯れた大地の上にそっと膝をつくと、両手を地面につけ、瞳を閉じた。そして、心からの祈りを捧げた。

(どうか、この大地に安らぎを。生きとし生けるものすべてを育む、母なる大地よ。わたくしに、あなたを癒やす力をください――!)

 彼女の祈りに、大地が応えた。
 セレスティナの体から、今までにないほど眩い、太陽のような黄金の光が溢れ出した。光は波紋のように広がり、彼女が触れる枯れた大地から、緑の芽が勢いよく吹き出していく。

 そして、その力は防御の形をとった。
 大地から無数の植物のツルが、まるで生きているかのように伸び上がり、魔物たちに襲いかかったのだ。ツルは魔物の体を瞬く間に縛り上げ、その動きを完全に封じ込めていく。さらに、ツルからは清らかな光が放たれ、それに触れた魔物は苦しみの声を上げながら浄化され、光の粒子となって消滅していった。

 その光景は、あまりにも幻想的で、神々しかった。
 兵士たちは戦うのも忘れ、呆然と目の前の奇跡を見つめていた。リアムもまた、愛する女性が秘めていた、想像を絶するほどの聖なる力に息を呑んだ。

 彼女の力は、もはや温室で野菜を育てるレベルのものではない。大地そのものに命じ、自然を操り、邪悪を浄化する。人々を守るため、愛する人を守るために、彼女の中に眠っていた力は、完全に覚醒したのだ。

「豊穣の聖女」の、真の誕生の瞬間だった。

 セレスティナが立ち上がると、周囲の魔物は一掃され、後には若草の匂いと、静寂だけが残されていた。
 彼女は、自らの力に少しだけ驚きながらも、決意に満ちた顔でリアムを見つめた。

「行きましょう、リアム様。王都へ」

 その姿は、気高く、美しい、救いの女神そのものだった。

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