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プロローグ:ゴミは捨てなければならない
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薄暗く湿った空気が肌にまとわりつく。ここは高難易度ダンジョン「絶望の迷宮」。その最深部で、俺、ベルクは背中の巨大な荷物に押しつぶされそうになりながら、ぜえぜえと肩で息をしていた。
「おいベルク、まだか! のろのろするな!」
苛立ちを隠そうともしない声。勇者ガイだ。彼は傷ひとつない輝く鎧を身にまとい、こちらをゴミでも見るかのような目で見下ろしている。
「す、すみません、ガイ様……。荷物が重くて……」
「言い訳か? 荷物持ちのお前にできることはそれだけだろうが。それすらまともにできないなら、お前の価値はなんだ?」
ガイの言葉に、パーティーの紅一点、魔術師のリナが甲高い声で追撃する。
「ほんとよ。ただでさえ戦闘じゃ役立たずなんだから、荷物運びくらいしっかりやってもらわないと。分け前をやるのも馬鹿らしくなるわ」
リナは扇子で口元を隠し、クスクスと嘲笑う。その隣で、大剣を肩に担いだ剣士ゴードンが腕を組んで頷いた。
「勇者様のおっしゃる通りだ。俺たちが前線で命を張っている間、お前は後ろで突っ立ってるだけだからな」
彼らの言葉が、一つ一つ俺の心に突き刺さる。
違う。俺だって、パーティーのために全力を尽くしてきた。
夜、皆が寝静まった後、傷んだ装備をこっそり修理していたのは誰だ? 素材を調合して、高品質なポーションを人数分用意していたのは誰だ? 次の日の探索がスムーズに進むように、夜通し荷物を整理し、ルートを確認していたのは誰だ?
だが、俺のそんな献身は、彼らにとって「荷物持ちがやって当たり前のこと」でしかなかった。感謝の言葉など、一度も聞いたことがない。
気弱な俺は、何も言い返すことができなかった。言い返せば、このパーティーから追い出されてしまう。孤児だった俺にとって、ここが唯一の居場所だったからだ。
しかし、その居場所すら、もうすぐ失われることになった。
「ベルク」
ガイが冷たい声で俺を呼ぶ。その瞳には、憐れみも、罪悪感も、何一つ映っていなかった。
「次のボス戦、お前は足手まといだ。はっきり言って、邪魔なんだよ」
「え……?」
「だから、ここでお前とはお別れだ。分け前をやるのも惜しいからな」
ガイの言葉は、死刑宣告と同じだった。高難易度ダンジョンの最深部に、戦闘能力の低い荷物持ちが一人で置き去りにされる。それが何を意味するかなんて、考えなくてもわかる。
「そ、そんな……。俺は今まで、皆さんのために……」
「うるさい! お前みたいなゴミとやっと縁が切れるのよ! せいせいするわ!」
リナが吐き捨てる。ゴードンは黙って俺を見下ろしているだけだ。
ガイは俺の背負っていた荷物袋から、パーティーの共有財産であるポーションや食料、そして俺自身のなけなしの装備まで手際よく抜き取っていく。残されたのは、ボロボロの服と、一食分にも満たない干し肉、そして水が少し入っただけの水筒だけ。
「じゃあな、ベルク。魔物の餌にでもなるんだな」
冷酷な言葉を最後に、三人は俺に背を向け、ダンジョンの出口へと続く道を戻っていく。コツ、コツ、という足音が遠ざかり、やがて暗闇と静寂だけが残された。
洞窟の奥から、グルルル……という低い唸り声と、無数の魔物の気配が渦巻いてくる。
「……死ぬ、しかないのか……?」
絶望が、冷たい水のように俺の心を隅々まで満たしていく。壁に背をもたせ、ずるずるとその場に座り込んだ。涙すら、もう出なかった。
「おいベルク、まだか! のろのろするな!」
苛立ちを隠そうともしない声。勇者ガイだ。彼は傷ひとつない輝く鎧を身にまとい、こちらをゴミでも見るかのような目で見下ろしている。
「す、すみません、ガイ様……。荷物が重くて……」
「言い訳か? 荷物持ちのお前にできることはそれだけだろうが。それすらまともにできないなら、お前の価値はなんだ?」
ガイの言葉に、パーティーの紅一点、魔術師のリナが甲高い声で追撃する。
「ほんとよ。ただでさえ戦闘じゃ役立たずなんだから、荷物運びくらいしっかりやってもらわないと。分け前をやるのも馬鹿らしくなるわ」
リナは扇子で口元を隠し、クスクスと嘲笑う。その隣で、大剣を肩に担いだ剣士ゴードンが腕を組んで頷いた。
「勇者様のおっしゃる通りだ。俺たちが前線で命を張っている間、お前は後ろで突っ立ってるだけだからな」
彼らの言葉が、一つ一つ俺の心に突き刺さる。
違う。俺だって、パーティーのために全力を尽くしてきた。
夜、皆が寝静まった後、傷んだ装備をこっそり修理していたのは誰だ? 素材を調合して、高品質なポーションを人数分用意していたのは誰だ? 次の日の探索がスムーズに進むように、夜通し荷物を整理し、ルートを確認していたのは誰だ?
だが、俺のそんな献身は、彼らにとって「荷物持ちがやって当たり前のこと」でしかなかった。感謝の言葉など、一度も聞いたことがない。
気弱な俺は、何も言い返すことができなかった。言い返せば、このパーティーから追い出されてしまう。孤児だった俺にとって、ここが唯一の居場所だったからだ。
しかし、その居場所すら、もうすぐ失われることになった。
「ベルク」
ガイが冷たい声で俺を呼ぶ。その瞳には、憐れみも、罪悪感も、何一つ映っていなかった。
「次のボス戦、お前は足手まといだ。はっきり言って、邪魔なんだよ」
「え……?」
「だから、ここでお前とはお別れだ。分け前をやるのも惜しいからな」
ガイの言葉は、死刑宣告と同じだった。高難易度ダンジョンの最深部に、戦闘能力の低い荷物持ちが一人で置き去りにされる。それが何を意味するかなんて、考えなくてもわかる。
「そ、そんな……。俺は今まで、皆さんのために……」
「うるさい! お前みたいなゴミとやっと縁が切れるのよ! せいせいするわ!」
リナが吐き捨てる。ゴードンは黙って俺を見下ろしているだけだ。
ガイは俺の背負っていた荷物袋から、パーティーの共有財産であるポーションや食料、そして俺自身のなけなしの装備まで手際よく抜き取っていく。残されたのは、ボロボロの服と、一食分にも満たない干し肉、そして水が少し入っただけの水筒だけ。
「じゃあな、ベルク。魔物の餌にでもなるんだな」
冷酷な言葉を最後に、三人は俺に背を向け、ダンジョンの出口へと続く道を戻っていく。コツ、コツ、という足音が遠ざかり、やがて暗闇と静寂だけが残された。
洞窟の奥から、グルルル……という低い唸り声と、無数の魔物の気配が渦巻いてくる。
「……死ぬ、しかないのか……?」
絶望が、冷たい水のように俺の心を隅々まで満たしていく。壁に背をもたせ、ずるずるとその場に座り込んだ。涙すら、もう出なかった。
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