追放された荷物持ち、【分解】と【再構築】で万物創造師になる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~

黒崎隼人

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第10話:世界の理を書き換える者

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「ルナッ!」

 俺は、考えるより先に体が動いていた。ルナを突き飛ばし、彼女の代わりにその黒い刃を、自らの体で受け止めた。

「ぐっ……ぁ……!」

 肩を貫く、激しい痛み。刃には強力な呪毒が塗られており、傷口から黒い紋様が体中に広がっていく。意識が、遠のいていく。

「ベルク様! しっかりしてください、ベルク様!」

 ルナの悲痛な叫び声が聞こえる。彼女が必死に治癒魔法をかけてくれるが、呪毒の力が強く、回復が追いつかない。

 俺の目の前に立つのは、黒いローブを纏った痩身の男。その顔は影に隠れて見えないが、邪悪な笑みを浮かべているのがわかった。魔王軍幹部、アサシンのシャドウ。

「ククク……。聖女を庇うとは、愚かな男よ。だが、お前が『神の手』か。その力、ここで終わらせてやる」

 シャドウの足元から、無数の影の触手が伸び、俺に襲いかかってくる。ルナが聖なる結界で防ぐが、影は結界をじわじわと侵食していく。

「無駄だ、聖女。俺の影は、あらゆる光を喰らう」

 くそっ……。このままじゃ、俺もルナも……。

 薄れゆく意識の中、俺は必死に思考を巡らせた。俺のスキル、【分解】と【再構築】。この力の、本当の本質は何だ? ただ物を壊し、組み立てるだけじゃないはずだ。もっと、根源的な何かが……。

 ――分解とは、情報の解体。
 ――再構築とは、情報の再定義。

 その瞬間、俺の中で何かが覚醒した。そうだ。俺が分解しているのは、物理的な物質だけじゃない。その物質を成り立たせている「情報」そのものだ。ならば……。

 俺は、震える手で、自分に襲いかかってくる「影の触手」に触れた。

「……【分解】」

 俺がつぶやくと、信じられないことが起きた。触手は粒子になるのではなく、まるでインクが水に溶けるように、その「影」という性質を失い、ただの希薄な魔力となって霧散したのだ。

「なっ……!?」

 シャドウが驚愕の声を上げる。

 俺は、さらに思考を深める。シャドウの能力は「影を操る」こと。ならば、その「能力」という概念そのものを、分解してしまえばいい。

 俺は、シャドウ自身に向け、スキルの焦点を合わせた。

「お前の能力――『影を操る力』という『情報』を、今ここで【分解】する」

「馬鹿なことを! そんなことが、できるはずが……が……?」

 シャドウの言葉が、途中で途切れた。彼が操っていた影が、コントロールを失って暴走し、やがてすべて消え去ったのだ。

「俺の……俺の力が……消えた……?」

 彼は、自分の両手を見つめ、呆然としている。

 俺は、よろめきながら立ち上がった。肩の傷から流れ出ていた呪毒も、その「呪い」という情報ごと分解し、無力化していた。

「終わりだ」

 俺は、絶望に染まったシャドウに、最後通告をする。

「お前の『存在』そのものを、この世界から【分解】する」

 俺が右手をかざすと、シャドウの体から光の粒子が漏れ出し始めた。それは、もはや抵抗することのできない、絶対的な理の書き換えだった。

「馬鹿な……。これは、スキルの力などではない……。世界の理を……神の領域を、書き換えているだと……!? ぎゃあああああああ!」

 断末魔の叫びと共に、魔王軍幹部シャドウは完全に光の粒子へと還り、跡形もなく消滅した。

 その光景を見ていた騎士団も、町の人々も、そしてルナも、声もなく立ち尽くしていた。

 それはもはや、人の技ではなかった。彼らの目に焼き付けられたのは、まさしく「神の御業」そのものだった。
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