言葉の色が見える私には、追放された冷徹魔術師様の溺愛がダダ漏れです~黒い暴言の裏に隠された、金色の真実と甘い本音~

黒崎隼人

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番外編「午後三時のお茶と、甘い朗読会」

 辺境の町に、いつもの穏やかな日常が戻ってきた。
 私の働く図書館も、以前と何も変わらない。古書の匂い、窓から差し込む午後の日差し、そして、時折聞こえる、頁をめくる小さな音。
 変わったことといえば、一つだけ。
 カウンターの私の隣に、当たり前のように、一人の男性が座っていることだ。

「……リリアナ」

「はい、何ですか、アレンさん」

「この紅茶、少し渋みが強い。次はもう少し蒸らし時間を短くしてくれ」

「も、申し訳ありません……」

 そう、宮廷への復帰を断ったアレンさんは、なんとこの図書館に、助手兼、自称・私の専属護衛として居座ることになったのだ。
 彼の言葉は相変わらず、ちょっとだけ黒い。でも、その言葉と一緒に、満足そうな緑色の感情がふわふわと漂っているのが見えるから、ちっとも怖くはない。

「それにしても、あなた、本当にここでいいんですか? 王都では、もっとたくさんの貴重な文献が読めるのに」

 私が心配になって尋ねると、彼は読んでいた本から顔を上げずに答えた。

「別に構わん。一番読みたい稀覯書は、いつでも俺の隣にいるからな」

「……え?」

 私がきょとんとすると、彼はちらりと私に視線を向け、意地悪そうに口の端を上げた。

「君という、世界で一番難解で、飽きない本のことだ」

「も、もう! からかわないでください!」

 私の顔が、羞恥を示す真っ赤な林檎の色になる。彼の言葉は黒かったけれど、その奥で、愛情を示す金色の光が、楽しそうにきらきらと瞬いていた。
 こんな風に、彼に揶揄われては、私が真っ赤になる。それが、私たちの新しい日常になっていた。

***

 その日の午後三時。
 図書館を訪れていた子供たちが、私のところに集まってきた。

「リリアナお姉ちゃん、絵本読んで!」

「うん、いいわよ。今日は何のお話がいいかしら」

 私が笑顔で応じると、子供たちは「お姫様の話!」「竜が出てくるのがいい!」と口々にリクエストを叫ぶ。その言葉は、期待に満ちた、カラフルなキャンディーみたいな色をしていた。
 私が絵本を選んでいると、不意に、アレンさんがすっと立ち上がった。
 そして、子供たちの中から一冊の絵本を取り上げると、低い、よく通る声で言った。

「……今日は、俺が読んでやろう」

「えっ!」

 私と子供たちは、同時に驚きの声を上げた。
 あの、無愛想で子供が苦手そうだったアレンさんが、読み聞かせ? 明日は槍でも降るんじゃないだろうか。
 子供たちも、最初は少し怖がっていたけれど、アレンさんの真剣な眼差しに、何かを感じ取ったらしい。みんな、お行儀よく床に座り、彼の次の言葉を待っている。
 アレンさんは、一つ咳払いをすると、ゆっくりと物語を読み始めた。
 それは、臆病な王子様が、愛するお姫様を救うために、勇気を振り絞って悪いドラゴンに立ち向かう、というお話だった。

「『……王子は、震える足で、ドラゴンの巣穴へと向かいました。彼の心は、恐怖でいっぱいでした。でも、お姫様の笑顔を思い出すと、不思議な力が湧いてくるのでした』」

 彼の声は、ただ淡々と文章を読んでいるだけなのに、不思議な魅力があった。まるで、魔法がかかっているみたいに、物語の情景が目の前に鮮やかに浮かび上がってくる。
 そして、彼の言葉の色。
 王子が怖がる場面では、不安を示す淡い紫色。勇気を出す場面では、決意の力強い青色。そして、お姫様を想う場面では、優しく暖かい、柔らかなピンク色。
 彼は、物語の登場人物の感情を、完璧にその声に乗せていた。彼の言葉は、まるで色とりどりの絵の具のように、子供たちの心を鮮やかに彩っていく。

(……すごい)

 私は、ただただ、聞き惚れていた。
 彼が宮廷魔術師だった頃、きっとこうして、言葉の力で人々を魅了することもあったのだろう。その片鱗に触れられた気がして、胸が熱くなった。
 物語がクライマックスに差し掛かり、王子がドラゴンに打ち勝った場面。アレンさんの言葉は、勝利を祝う、誇らしげな黄金色に輝いていた。
 子供たちは、歓声を上げて大喜びだ。
 読み終えたアレンさんは、少しだけ照れくさそうに本を閉じた。

「……おしまいだ」

 子供たちは、わっと彼に駆け寄り、「お兄ちゃん、すごーい!」「もう一回読んで!」と大騒ぎ。アレンさんは、困ったような顔をしながらも、その目はとても優しく微笑んでいた。
 その光景が、あまりにも暖かくて、幸せで。
 私は、そっとアレンさんの隣に寄り添った。

「……アレンさん、素敵でした」

 私の言葉は、心からの尊敬と、愛情が混じり合った、キラキラと輝く虹色。
 彼は、私の言葉を見て、ふっと微笑んだ。

「君に、聞かせたかったんだ」

「え?」

「俺が紡ぐ物語の色を、君に一番、見てほしかった」

 彼の言葉は、少しだけ照れくさそうな、でも、とてつもなく甘い、蜂蜜の色をしていた。
 午後三時のお茶の時間。
 今日の紅茶は、きっと、今までで一番甘い味がするに違いない。
 そんな予感を胸に、私は、愛する人と、そして未来の小さな読者たちに囲まれて、世界で一番幸せな司書として、微笑むのだった。

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