婚約破棄された悪役令嬢のスローライフ。辺境で農業をしていたら、いつの間にか溺愛されていました

第8章：未来を育む学校

　王都からグリーンヴァレーに戻った私は、新たな夢に向かって歩み始めていた。それは、農業学校を設立することだった。

　エドワードの類まれな知識と技術を、彼一人の中に留めておくのはあまりにも惜しい。この国全体の農業レベルを底上げし、未来の農業を担う若者たちを育てるための学校。それが、私とエドワードの次なる目標だった。

「校長は、あなたしかいないわ、エドワード」
「俺にか？そんな大役、務まるだろうか……」
「務まるわ。あなたは最高の教師になれる。経営や運営は、私が責任を持つから」

　私の熱意に押され、エドワードもついに頷いてくれた。彼の才能が正当に評価され、輝ける場所を作る。それもまた、私の願いだった。

　しかし、学校を設立するには莫大な資金が必要だ。自己資金だけでは到底足りない。私は王都の有力な投資家たちに計画書を送り、プレゼンテーションの機会を設けてもらった。

「辺境の地に農業学校だと？採算が取れるのかね？」

　投資家たちの反応は、当然ながら懐疑的だった。しかし、私は臆さなかった。グリーンヴァレーでの成功実績、ブランド戦略、そして何より、王国全体の食糧生産量を向上させるという国家的な利益を、具体的なデータと共に提示した。私の経営者としての手腕と、熱意に満ちた語りは、徐々に彼らの心を動かしていった。

「面白い……。ヴァルドリア公爵家のお嬢様が、ここまでやるとはな」
「これは、投資する価値があるかもしれん」

　最終的に、私は目標額を大きく上回る投資を得ることに成功した。私の手腕は、王都のビジネス界でも確固たる評価を得たのだ。

　学校設立の準備と並行して、私たちの結婚式の準備も進んでいた。式は、私たちの始まりの場所であるグリーンヴァレーで、村人たちと共に行うことに決めていた。

　村人たちは、まるで自分の家族の祝い事のように、準備に協力してくれた。女性たちは私のドレスを縫い、男性たちは式を執り行うための美しいガゼボ（西洋風あずまや）を畑のそばに建ててくれた。子どもたちは、野の花を摘んで花飾りを作ってくれる。私は、この村の誰もに愛され、祝福されていることを、ひしひしと感じていた。こんなにも温かい幸福感は、生まれて初めてだった。

　資金調達が成功し、村に戻った私を、エドワードと村人たちが出迎えてくれた。私は馬車から降りると、真っ先にエドワードの胸に飛び込んだ。

「やったわ、エドワード！私たちの夢が、また一歩近づいた！」
「ああ、お疲れ様、セリーナ」

　彼は私を強く抱きしめ、優しく頭を撫でてくれた。その腕の中で、私は確かな安らぎを感じる。

　数日後、村の小高い丘の上で、ついに農業学校の建設が始まった。村人たちと、王都から来た職人たちが力を合わせ、槌音を響かせている。その光景は、まさに未来が形作られていく音だった。

「見て、エドワード。私たちの学校が……」

　鍬入れの式典を終え、並んで建設現場を眺める。私の隣で、エドワードが感慨深そうに頷いた。

「ああ。ここから、この国の農業の未来が始まるんだな」

　彼の横顔は、自信に満ち溢れていた。かつて貴族社会に才能を妬まれ、絶望していた彼の面影はもうない。私はそっと彼の手を握った。私たちの手は、固く、固く結ばれていた。結婚式も、学校の開校も、もうすぐそこだ。希望に満ちた槌音が、青空に高らかに響き渡っていた。