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第1部 双子の恋愛感情
第5夜
しおりを挟む爽とのことを考えているといつの間にかホームルームは終わっていた。
担任はさっさと退室し、クラス内は授業が始まるまでまた喧騒に包まれる。
人、人、人の声が煩わしくて俺は耳を塞ぎたくなった。
机に伏せってつまらない日常に想いを馳せれば遠くなる音。
今日は全て座学で、体育以外は興味のない俺はサボる決意をする。
さすがに教室を出て行っては秋斗の小言が大変で、何より出席日数を無駄に削ると後で面倒だ。
授業には参加しないけど教室には居てやる、そんな俺様な事を思いながら目を瞑った。
勉強なんて教科書さえあれば自分でも出来るし、わざわざ面白くもないウンチクを聴く必要はない。
耳慣れた鐘の音が響き、それを合図に俺は夢の世界へと誘われた。
「…お…い……起きろ……」
どこか遠くから俺を呼ぶ声がする。
(誰だ?俺は眠いんだ、寝かせろよ)
「おい、彗!」
今度はハッキリと名を呼ばれた。
そう言えば昔もこんなことがあったような気がする。
夢と現実の狭間、まだ覚醒していない頭ではうまく思考がまとまらない。
「んんっ…そ、う…?」
「起きろって!まったくホント寝起きが悪いな」
声の主は仕方ないとため息を一つ吐いて、「起きない奴にはお仕置きだな」と何やら不穏な事を言い出した。
少しして、俺の首筋にかかる赤髪をサラリと分けられる感覚が襲い次の瞬間、
「うおっ!?」
と、何ともマヌケな声を発しながら彗は飛び起きた。
「あ、やっと起きた」
イスを倒しながら勢い良く立ち上がった俺の真横には、悪戯の上手くいった子供のような 表情をした蓮がいた。
「てめぇ……今、何しやがった!?」
俺は首筋を抑えながら蓮を睨む。
感覚が狂ってなければ、たった今首筋にキスをされた筈だ。
「何って、ちゅう?お姫さまを起こすには王子さまのキスだろ」
ニヤニヤと笑いながら蓮は応える。
「誰が姫だっ!ふざけるのもいい加減にしろよ」
怒りと呆れで俺の拳が震える。
しかし、蓮はヘラヘラとしてまともに取り合わなかった。
「起きない奴が悪いだろ!もう放課後だぞ。一日中寝てるとか、マジで学校に来てる意味なくね?」
取りとめもない事を考えている内に眠ってしまったようだ。一日中学校で寝ていた俺も俺だが。
(だからって、学校にいつ来たか分からん奴だけには言われたくねぇ!)
「それにしても、良く寝ていたな。いい夢は見れたか?」
「どうだろうな。もしいい夢を見ていたとしても、寝起きが最悪だったし」
気分は最低だ、と続ける。
「まったくだね。俺なら男なんかにキスされたくねーわ」
「じゃあすんなよ!」
「ははっ。怒っちゃイヤ」
語尾にハートマークが付きそうな、ぶっちゃけ気色の悪い声音で蓮は応えた。
(ったくこの男は)
蓮のイタズラ好きは今に始まったことではないが、ただそれを許すほど寛大でもない。
とりあえず腹に一発パンチをお見舞いしてやった。
「っ~~!!手加減しろよ…」
「次やったら容赦しねぇ」
「悪かったって!ほら帰ろ。秋斗に言われてわざわざ迎えに来てやったんだからな」
ドヤ顔で仁王立ちをする蓮を無視して俺は鞄を持って教室を出る。
「ちょっ、マジでごめんて!」と謝りながら追ってくる男の姿に少し苦笑し、それでもすぐに許すのは癪だ。
懲りて貰うためにもと帰宅するまで不機嫌なフリをすることにした。
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