【BL】クレッシェンド

花夜

文字の大きさ
上 下
22 / 66
第1部 双子の恋愛感情

第20夜

しおりを挟む


 ボソリと呟かれた言葉と共に、掴まれた左手を引っ張られる。
 予期しない力に抗う術はなくそのままの勢いで背後の壁に押し付けられた。
 いわゆる壁ドンに近い態勢になる。

 黒崎はどうやら俺と同じくらいの背らしく、見下ろされることなく真っ直ぐに瞳を見つめられ、そして。

「……んんっ!?」

 次の瞬間には黒崎の唇が俺のそれに重なっていた。

「や…め……っ!」

 見た目に反して強い力で押さえつけられる。

(なんだよこれっ……俺には男とキスする趣味なんてねぇぞ!!)

 抵抗も虚しく好き勝手に口内を弄ばれる。舌と舌が交わり、イヤラしい水音が響く。

「…んぁ……は、な…」

 どうにか言葉を紡ごうにも、口から溢れるのは喘ぎ声ばかり。
 ようやく唇が離れたかと思うと、またしても角度を変えてそれをねじ込んでくる。
 爽と負けず劣らずのねちっこいキスだった。

「いい、加減に……しやがれっ!」

 噛み付かんばかりの勢いで抵抗すると思いの外簡単にその拘束は解けた。

「彗くんはあれやね。弟くんと凄いことしている割にウブなんやねぇ」

 濡れた唇を舐め、黒崎はシミジミとした感想をのたまった。

「うるさいっ!」

 男がこんなに簡単に唇を奪われていいものだろうか。
 彗は己の無力さを嘆くと同時に、遣る瀬無さを感じる。

「まさか、奴隷ってこんなコトをされるのか!?」

「んー、確かにわいはバイやさかい、彗くんの相手をしてもええんやけど。無理矢理は好かんからな」

「だったら何でキスしたんだよ!」

 もっともな疑問に、けれど黒崎は相変わらずヘラヘラとした態度で答える。

「興味ちゅーか、口止め料的な?ま、安心して。弟くんのように力任せに貞操を奪うことはないで」

「安心できるか。ってかだったら奴隷って何すんだよ」

「彗くんがどうしてもてゆーなら、そんなのも込みでええよ?期待させたわいも悪いさかいね」

 あたかも彗自身がそう望んでいたかのような口ぶりに怒りは爆破寸前だ。
 それを読んでなのか、黒崎は話題を変えるように声のトーンも変えた。

「しばらくは奴隷、というよりはパシリとしてよろしく頼むわ」

「お昼買うてきてって言うたらそうすること!もちろん、金は払うで」と付け加え、いつの間に盗られたのか俺のスマホに勝手にアドレスを登録する。

 「ほな、今はこれくらいにしといたるわ。わいが呼んだらすぐ来てな?」

 そう言い残すと黒崎は呑気に手を振りながら俺の前から去っていった。

 まるで嵐のような奴だ。
 つい数十分前までは初対面でなのに今では俺はあいつの奴隷で、その上キスまでされて。

(本当、何やってんだ俺)

 ズルズルとその場にへたり込む。

(無抵抗キャラにもほどがあんだろ。つか、なんで俺みたいなのに手を出すんだよ)

 二人とも変態か?
 それとも、俺が変態なのか!?

 グルグルと取り留めのない思考が頭を支配する。が、結論が出る筈もなく自分の不運を嘆くばかりだ。

「彗」

 自己嫌悪に陥っていた俺にふと声がかかる。
 最初は蓮が迎えに来たのかと思ったが、振り返った先にいたのは不運の元凶ーー爽の姿があった。

「……何だよ」

「さっき黒崎くんとナニをしていたの?」

 核心的質問にドキリとする。

「別に、何もねぇよ」

「嘘だね。彗に用もなく話しかける人なんてここには居ないよ。何かあったでしょ?」

 黒い笑みを浮かべ尋ねる(というか確認してくる)爽に、こいつはエスパーかとツッコミたくなった。

 しかし、本当のことを言うわけにはいかない。無駄だとは知りつつもシラを切るしかないのだ。

「お前には関係ねぇことだろ。ほっとけよ」

 頑なな俺の態度に爽はため息をつき、真剣な眼差しで見つめてくる。

「彗は自分の立場を分かってる?」

 お前は僕に逆らえないんだよ、と先ほど聞いたような台詞と共に例の痴態の写真を取り出された。

「こんなとこで見せんじゃねぇ!」

 別に忘れていた訳ではない。
 たださっきまでは黒崎をどうするかで頭が一杯だっただけだ。

(よくよく考えれば、爽と黒崎の二人から脅迫されてんのか。つくづくついてねぇな)

「僕に隠し事なんて、本当いい度胸だよ」

 ボソリと暗いセリフが投下されるが、あいにく俺には聞こえていない。

「もういいだろ?そろそろ真面目に授業に出ねぇとやべぇんだ」

 お前と違って先生たちからも目を付けられているからな、と心の中で毒づく。
 けれど、爽に腕を取られたかと思えばまたまた壁に押し付けられた。

(何だこのデジャブ感。マジでこいつと黒崎の思考回路は同じかよっ!!)

 つい今し方の再現ということもあって、いつもよりは幾分冷静だった。
しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

学園奴隷《隼人》

BL / 連載中 24h.ポイント:205pt お気に入り:371

いらない子の悪役令息はラスボスになる前に消えます

BL / 連載中 24h.ポイント:1,207pt お気に入り:9,988

処理中です...