時代遅れスキル『ゴーレム制作』専門の男爵家四男が、転生者の知識でそこそこ頑張るはずが、なぜか王弟に目をつけられてしまう話【1】『影』

葉月奈津・男

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ゴレ専転生者【第一部:王弟と影】

第一話 『神託』

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 「『ゴーレムマスター』です」

 厳かに告げられた言葉で、世界は沈黙に沈んだ。

 ここは教会。
 一年に一度の『神託』が聞ける日。
 七歳になった子供たちが集められ、各々がもつ『適性』が告げられる。
 
 『適性』とは、遺伝や教育により発現する個人の資質のことだ。
 神が付与すると言われていたが、実は単純に体に刻まれた『情報』による『変化』であると結論付けられている。
 
 教会が介在するのは、人の子の人生を神が『祝福』しているのは間違いないからだ。
 『適性』を告げるのが生殖なのは変わらない。

 一般に、農家の子供が農業関連の『適性』を持ち、兵士として育てられた子供が『体力』や『剣術』といった戦闘系の『適性』を持つことが知られている。
 まれに、本人と関係なく、祖先の『適性』を受け継ぐ場合もあるようだ。

 そんななか、たった今『神託』を受けた子供にも、おおよその予想が付けられていた。
 彼の家は、代々続く古い家だ。
 家風も定まっている。

 なにより、上の兄三人はみな同一の『適性』だ。
 ついでに言えば、父も同一である。
 そして、四人ともが同じ母から生まれてもいた。

 当然、五つ目の『同一』を聞くことになるだろうと思われていた。
 この場に集まった人々は、そのつもりで祝いの言葉を用意していたのである。

 なのに。
 告げられたのは全く違うものだった。
 どう反応すればいいのか、とっさに判断ができない。
 誰もが、言葉を呑み込んでしまっている。

「神の祝福に感謝を!」

 その沈黙を、大音声が切り裂いた。
 誰あろう。
 父親だった。
 落ち着いたデザインながらも、仕立てのいい礼服に身を包んだ偉丈夫。
 一目見ただけでそうとわかる戦士だ。

 当地の領主『メリマルゴール』男爵である。

 貴族だ。
 権力があり、金もそれなりにある。
 なにより、歴戦の戦士で個人の武勇もすさまじい。

 だからこそ、周囲は反応に苦慮していた。
『同一』ではない結果を恥と見ているとしたら祝いの言葉は罵詈雑言と聞こえるだろうし、そうでないのに「残念でしたね」などと言えばそれこそ嫌がられる。
 どうしたものかと。

 しかし、当人が肯定する側に動いた。
 外面だけとも考えられるが、どうやら本心らしい。
 結果がなんであれ、子供の成長が祝福されたことへの感謝が告げられたのだ。

 そこまで読み取って・・・。

「幼子に祝福を!」
「これから歩む道に幸多からんことを!」

 口々に祝福と喝采が叫ばれた。
『適性』の内容はともかく、子供の健やかな成長を祝う場である。
 それこそが重要。

『ゴーレムマスター』。
 存在は知られているが、あまり役に立ったことを聞かない『適性』だ。

『物質』の形を変え、動かしえる。
 かつては、土木工事や戦場で役立てられたこともある。

 だが、各属性魔法使いの技術革新により、『ゴーレムを使って行う』よりも、「魔法で一発」に代わっていた。
 巨大なゴーレムに穴を掘らせるよりも、土の魔法使いが土を動かしたほうが効率もいいからだ。
 役に立たないとは言わないが『あまり役に立たない』との評価が下っている。

 この適性を聞き、人々が思い浮かべるのはかつての巨大工事――橋梁建設――などの跡地に置き捨てられた石の巨人だろう。
 王都にいる者なら、王城の城門だろうか。
『門番』という名の『ゴーレムマスター』が何人かいて、動かして開け閉めしている。

 それでも、人生のマイナスになる『適性』など、それこそ皆無。
 祝福は当然だ。

『同一』ではなかった『適性』のことは脇に置き、人々は盛り上げた。
 あとあと、領主が失望して領地経営に影を落とすことのないよう切に願いながら。

    ◇

 「・・・ふむ」

 その中心。
 青紫色の髪とアイスブルーの瞳の人形のような顔立ちをした少年は顎をつまんだ。
 周囲の大人たちが、少しだけ雑な祝福をくれているのを感じながら、自分に告げられた『適性』の考察をする。
 
 まず考えたのは、「助かった」だった。
 正直言って、兄たちや父親と同じ『適性』は困ると考えていたからだ。
 
 父親が低位とはいえ貴族の男爵。
 兄が三人いて、その適性は父親・・・つまりは家系に沿うもの。
 四人目の自分が同じ『適性』を持つことの意味。
 これらを考えたとき、『同一適性』は困るのだ。

 これが、『侯爵』かせめて『伯爵』ならばまだいいが『男爵』だと面倒なのである。
 貴族の家では当然ながら世襲がある。

 まずは『爵位』。
 続いて領主という『地位』。
 王国内の治安を預かる貴族軍のひとつを指揮する『統帥権』。

 基本的には長男が『爵位』を。
 次男がその補佐として『領主』を。
 三男が兄たちを支えるべく『統帥権』を。
 
 それぞれ持つ。
 もちろん、能力や実力により変動はあるが、たいていはこれで収まるものなのだ。
 
 しかし、ここに四人目がいたらどうなるか?

 言わずと知れた後継者争いが発生することになる。
 『伯爵』以上であれば、広い領地ゆえに大きな都市の『代官』就任もありえるが『男爵』ではありえない。

 もしも、四人目が兄たちと同じ『適性』保持者で、なおかつ兄たちの誰かより優れているとなれば・・・。
 誰かを蹴落とす結果になりかねない。
 そうならずとも、波風が強くなることは確実だ。

 杞憂だったな。

 中心にいる子供——『メリマルゴール』男爵家四男『クアルト・デ・メリマルゴール』は、ホッと息を吐いた。
 こればかりは自分ではどうしようもないから不安だったのだ。

 家族仲はいい。
 両親は兄たちと変わらぬ愛を注いでくれる。
 兄たちもみな末の弟の面倒をよく見てくれた。
 後継者争いの気配なんてかけらもない。
 
 今日の『神託』は、これに影を落としかねない危険なものだった。
 それが杞憂だった。

 貴族家にとって家風を示す最大の要素である『適性』が別ものだったのだ。
 メリマルゴール家は代々、武勇を家風としてきた。
 上には家風に沿った『適性』持ちが三人いる。
 後継者争いへの不参加が確定した。

 『適性』の内容も気にはなるが、今は、この結果だけで十分だ。
 他のことは後々考えればいいのだから。
 
 「神に感謝を!」

 手を高く上げて、声も高らかに叫んだ。

 「神に感謝を!」

 周囲の大人たちが、力強く唱和した。
 本人が俯くようだと祝福に陰りも出るが、当人も喜んでいる。
 不安要素はなにもなくなったのだ。

 こうして、この日行われた『神託』の儀式は最高の盛り上がりのうちに終了したのだった。
 
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