26 / 261
【セザール編】
第26話 真実の愛
しおりを挟む「え?」
セザールは立っていた。
消し炭にもならず、白い肌には火傷の跡もない。
当然、焦げてもいない。
「あ—もう! 服が灰になってるよっ!」
見かねたカロスタークが、自分の上着を着せてやっている。
セザールはほぼ全裸だったから。
「え? なんで? 私、もう死んだんだと・・・」
上着を着せた後、それでも足が丸見えになると気が付いたカロスタークにしゃがませられたセザールは、信じられないと自分を見下ろしていた。
「『婚約破棄』しても、オレがあげたプレゼントは使ってくれていたんだね?」
小さく笑いながら、カロスタークはセザールの左腕を指さした。
細めのブレスレットが輝いている。
「それ。『魔法力吸収のブレスレット』なんだ」
『魔法力吸収のブレスレット』。
あらゆる魔法を一度だけ無効にする、レアアイテムである。
「うそ・・・」
呆然とした声が、セザールの形のいい唇から零れ落ちた。
王族でも持っている者は多くない。
かなりのレアアイテムなのだ。
「わ、わたし、レプリカだとばかり・・・」
「『婚約者』にレプリカなんてプレゼントしないよ。あー、まぁ確かに? 婚約記念でもないバースデープレゼントにしては高すぎたかなってあとで思ったことはあるけど」
相場の軽く100倍のプレゼントだったことには、反省したこともあるとカロスタークは頭を掻いた。
たまたまプレゼントを選んでいる時期に、手に入るとわかって取り寄せたのだ。
「だ、だったら言いなさいよ! こんな高いもの、そんな気軽に使わせないで!」
プレゼントされてから、一度も外したことはない。
外したのはシャルルと付き合っていた10日ほどだけだ。
そうと知っていたら、もっと使い方を考えられた。
舞踏会でのドレス選びだって、露出は少なくしつつ腕は出すデザインにしたはずだ。
『婚約者』がくれた最高のプレゼントを、みんなに見せつけるために。
「君の命を守るものだからね。高いものだからってしまっておかれたら本末転倒だ。現に、今回はそれで助かったんだし」
肩をすくめるカロスターク。
セザールの顔が怒りに染まった。
「バカ―!」
「うおっ?!」
いきなり怒鳴られたカロスタークが仰け反る。
その胸を両手でつかんで、セザールが力いっぱいに揺すった。
「なんでっ、なんで、そういう大事なこと言わないのよ! 今になって惚れさせてどうすんのよっ! もっと早く言ってくれてたら———、もっと早く言ってくれてたら違ったかもしれないのに!」
シャルルに目移りなんてしなかった。
そう言いそうになって、セザールは言葉を呑み込んだ。
内心で首を振る。
それはない、と——。
高いプレゼントで心を買われるほど安くはないつもりだ。
このプレゼントが『本物』でも『レプリカ』でも、結局自分は愚かなことをしただろう。
今惜しく思えるのは、先日の騒動でシャルルへの熱情が冷めているからだ。
カロスタークを『婚約中』よりも大切に思っているから、惜しく思えるのだ。
高いプレゼントをくれていたのだと気が付いたから、惜しいのではない。
それだけ大切にしてくれていたのだと気が付けたから、惜しいのだ。
これは、あの愚行と一連の騒動がなければわからなかったこと。
その場の気まぐれを『真実の愛』と思い込み、愚行を犯したことで本当の『真実の愛』が見えた。
セザールは自分の中からとめどなく溢れ出る温かい気持ちに、おぼれそうになっていた。
「婚約してたときの自分から私を寝取るなんて。いじわるすぎる!」
「えっと。それって惚れ直したって意味?」
「そうよ! 男爵令嬢に『寝取る』とか言わせないで!」
そう言いながら、セザールの目尻から一筋の涙がこぼれ落ちた。
「それ、オレ関係なくない?! 自分で言っただけだろ!」
涙には気づかなかった体で、カロスタークも言い返す。
次元の低い、下品な喧嘩だ。
二人ともそう自覚しつつ、言い合いはしばらく続く。
男爵令嬢とその『婚約者』では言えなかったことも、いまなら言えることに気が付き。それが愉しかったから。
「惚れさせた責任は取ってくれるの?」
「元からそのつもりだけど、『婚約者』は無理だよ?」
二度の婚約破棄があった女なのだ。
いまさらまともに『婚約』なんてできない。
貴族社会が許さない。
「『側女』の席は空けておいてくれるんでしょ?」
「空けてって・・・あれは制限ないじゃんか」
「なら、いいわ」
「いいのかよ」
オレ——カロスターク・レッドルア——は、高すぎるプライドをかなぐり捨てた男爵令嬢セザール・フォン・モンモラシーを過去の自分から寝取った・・・らしい。
0
あなたにおすすめの小説
老婆令嬢と呼ばれた私ですが、死んで灰になりました。~さあ、華麗なる復讐劇をお見せしましょうか!~
ミィタソ
恋愛
ノブルス子爵家の長女マーガレットは、幼い頃から頭の回転が早く、それでいて勉強を怠らない努力家。さらに、まだ少しも磨かれていないサファイアの原石を彷彿とさせる、深い美しさを秘めていた。
婚約者も決まっており、相手はなんと遥か格上の侯爵家。それも長男である。さらに加えて、王都で噂されるほどの美貌の持ち主らしい。田舎貴族のノブルス子爵家にとって、奇跡に等しい縁談であった。
そして二人は結婚し、いつまでも幸せに暮らしましたとさ……と、なればよかったのだが。
新婚旅行の当日、マーガレットは何者かに殺されてしまった。
しかし、その数日後、マーガレットは生き返ることになる。
全財産を使い、蘇りの秘薬を購入した人物が現れたのだ。
信頼できる仲間と共に復讐を誓い、マーガレットは王国のさらなる闇に踏み込んでいく。
********
展開遅めですが、最後までお付き合いいただければ、びっくりしてもらえるはず!
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
乙女ゲームに転生するつもりが神々の悪戯で牧場生活ゲームに転生したので満喫することにします
森 湖春
恋愛
長年の夢である世界旅行に出掛けた叔父から、寂れた牧場を譲り受けた少女、イーヴィン。
彼女は畑を耕す最中、うっかり破壊途中の岩に頭を打って倒れた。
そして、彼女は気付くーーここが、『ハーモニーハーベスト』という牧場生活シミュレーションゲームの世界だということを。自分が、転生者だということも。
どうやら、神々の悪戯で転生を失敗したらしい。最近流行りの乙女ゲームの悪役令嬢に転生出来なかったのは残念だけれど、これはこれで悪くない。
近くの村には婿候補がいるし、乙女ゲームと言えなくもない。ならば、楽しもうじゃないか。
婿候補は獣医、大工、異国の王子様。
うっかりしてたら男主人公の嫁候補と婿候補が結婚してしまうのに、女神と妖精のフォローで微妙チートな少女は牧場ライフ満喫中!
同居中の過保護な妖精の目を掻い潜り、果たして彼女は誰を婿にするのか⁈
神々の悪戯から始まる、まったり牧場恋愛物語。
※この作品は『小説家になろう』様にも掲載しています。
ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です
山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」
ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。
靴を落としたらシンデレラになれるらしい
犬野きらり
恋愛
ノーマン王立学園に通う貴族学生のクリスマスパーティー。
突然異様な雰囲気に包まれて、公開婚約破棄断罪騒動が勃発(男爵令嬢を囲むお約束のイケメンヒーロー)
私(ティアラ)は周りで見ている一般学生ですから関係ありません。しかし…
断罪後、靴擦れをおこして、運悪く履いていたハイヒールがスッポ抜けて、ある一人の頭に衝突して…
関係ないと思っていた高位貴族の婚約破棄騒動は、ティアラにもしっかり影響がありまして!?
「私には関係ありませんから!!!」
「私ではありません」
階段で靴を落とせば別物語が始まっていた。
否定したい侯爵令嬢ティアラと落とされた靴を拾ったことにより、新たな性癖が目覚めてしまった公爵令息…
そしてなんとなく気になる年上警備員…
(注意)視点がコロコロ変わります。時系列も少し戻る時があります。
読みにくいのでご注意下さい。
【連載版】婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
短編では、なろうの方で異世界転生・恋愛【1位】ありがとうございます!
読者様の方からの連載の要望があったので連載を開始しました。
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
※連載のためタイトル回収は結構後ろの後半からになります。
多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】
23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも!
そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。
お願いですから、私に構わないで下さい!
※ 他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる