29 / 261
【フランソワ編】
第1話 告白
しおりを挟む中間試験が終わり、学院生活も残すところ半年。
この時期になると、ある“風物詩”が校内をざわつかせる。
それが——『告白』。
卒業を目前にして、婚約相手が決まっていない貴族子女たちが、焦りから動き出すのだ。
貴族社会では、血筋の維持と家の繁栄が何よりも重視される。
そのため、学院は学問の場であると同時に、“お見合い市場”としての役割も担っていた。
特に女性側の動きは活発だ。
正妻になれなくてもいい。
側室でもいい。
せめて“卒業時の婚約者”という肩書きだけでも欲しい——そんな思いが交錯する。
もちろん、告白にもルールがある。
すでに婚約が内定している者は避ける
爵位が下の者が上の者へ告白するのは避ける
つまり、「婚約者のいない、自分と同等か下の身分の者」がターゲットになる。
そして今、最も“狙われている”のが——商家出身の青年、カロスターク・レッドルアだった。
「つ、疲れた……」
自室に戻るなり、カロスタークはベッドに倒れ込んだ。
今日もまた、歩く先々で貴族令嬢たちからの“告白”攻勢にさらされていたのだ。
「今日もモテモテだったのですね」
お茶を淹れながら微笑むのは、従者のトマ。
その笑顔に、カロスタークは睨みをきかせる。
「人ごとだと思いやがってぇ……」
王立学院において、商人の子弟は最下層。
だが、だからこそ“狙いやすい”。
貴族令嬢たちにとっては、婚約破棄しやすい“滑り止め”として扱われる存在だった。
しかもカロスタークは、最近とある事情で注目を集めている。
いろいろあるが『経済的には力がある』ことが明白なのだ。
そのせいで、告白の数も跳ね上がっていた。
「よさそうな方はいらっしゃらなかったのですか?」
「いなくはないけど……」
実際、カロスタークの対応は二通り。
『ごめんなさい』と『考えさせて』。
前者は完全に断る相手、後者は“保留”という名の牽制だ。
「なら、早めに『婚約』してしまえば解放されるのでは?」
「まぁ、そうなんだけどね……」
そんな中、彼の前に現れたのが——フランソワ・ド・ミヌミエーラ。
北方の子爵家の五女。
アッシュブロンドの髪とグレイの瞳を持つ、気品と知性を感じさせる令嬢だった。
「わたくしとの『婚約』が成れば、領地経営はもっと楽になるはずよ。モンモラシー男爵領との間で流通を活性化させるの。貴方もそのつもりがあって、道の整備に力を入れているのだと思うのだけど?」
その提案は、カロスタークにとっても悪くない話だった。
告白攻勢から逃れられるうえに、領地経営にもメリットがある。
モンモラシー男爵領は『とある事情』から、カロスタークの管理下にあるのだ。
選ぶなら、彼女だろう。
「婚約、お受けします」
フランソワは、告白の場所にまだいた。
他の男に声をかけるでもなく、周囲の様子を観察していたようだ。
カロスタークの言葉に、彼女は一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに微笑んだ。
「まぁ! お早い決断、うれしいですわ」
その夜、二人は王都の有名レストランでディナーを楽しむ。
フランソワの香りと笑顔に包まれながら、カロスタークは思った。
——これで、少しは静かになるだろうか。
だがこの“契約”が、 やがて彼の運命を大きく揺るがすことになるとは、このときまだ、誰も知らなかった。
0
あなたにおすすめの小説
老婆令嬢と呼ばれた私ですが、死んで灰になりました。~さあ、華麗なる復讐劇をお見せしましょうか!~
ミィタソ
恋愛
ノブルス子爵家の長女マーガレットは、幼い頃から頭の回転が早く、それでいて勉強を怠らない努力家。さらに、まだ少しも磨かれていないサファイアの原石を彷彿とさせる、深い美しさを秘めていた。
婚約者も決まっており、相手はなんと遥か格上の侯爵家。それも長男である。さらに加えて、王都で噂されるほどの美貌の持ち主らしい。田舎貴族のノブルス子爵家にとって、奇跡に等しい縁談であった。
そして二人は結婚し、いつまでも幸せに暮らしましたとさ……と、なればよかったのだが。
新婚旅行の当日、マーガレットは何者かに殺されてしまった。
しかし、その数日後、マーガレットは生き返ることになる。
全財産を使い、蘇りの秘薬を購入した人物が現れたのだ。
信頼できる仲間と共に復讐を誓い、マーガレットは王国のさらなる闇に踏み込んでいく。
********
展開遅めですが、最後までお付き合いいただければ、びっくりしてもらえるはず!
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
乙女ゲームに転生するつもりが神々の悪戯で牧場生活ゲームに転生したので満喫することにします
森 湖春
恋愛
長年の夢である世界旅行に出掛けた叔父から、寂れた牧場を譲り受けた少女、イーヴィン。
彼女は畑を耕す最中、うっかり破壊途中の岩に頭を打って倒れた。
そして、彼女は気付くーーここが、『ハーモニーハーベスト』という牧場生活シミュレーションゲームの世界だということを。自分が、転生者だということも。
どうやら、神々の悪戯で転生を失敗したらしい。最近流行りの乙女ゲームの悪役令嬢に転生出来なかったのは残念だけれど、これはこれで悪くない。
近くの村には婿候補がいるし、乙女ゲームと言えなくもない。ならば、楽しもうじゃないか。
婿候補は獣医、大工、異国の王子様。
うっかりしてたら男主人公の嫁候補と婿候補が結婚してしまうのに、女神と妖精のフォローで微妙チートな少女は牧場ライフ満喫中!
同居中の過保護な妖精の目を掻い潜り、果たして彼女は誰を婿にするのか⁈
神々の悪戯から始まる、まったり牧場恋愛物語。
※この作品は『小説家になろう』様にも掲載しています。
ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です
山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」
ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。
靴を落としたらシンデレラになれるらしい
犬野きらり
恋愛
ノーマン王立学園に通う貴族学生のクリスマスパーティー。
突然異様な雰囲気に包まれて、公開婚約破棄断罪騒動が勃発(男爵令嬢を囲むお約束のイケメンヒーロー)
私(ティアラ)は周りで見ている一般学生ですから関係ありません。しかし…
断罪後、靴擦れをおこして、運悪く履いていたハイヒールがスッポ抜けて、ある一人の頭に衝突して…
関係ないと思っていた高位貴族の婚約破棄騒動は、ティアラにもしっかり影響がありまして!?
「私には関係ありませんから!!!」
「私ではありません」
階段で靴を落とせば別物語が始まっていた。
否定したい侯爵令嬢ティアラと落とされた靴を拾ったことにより、新たな性癖が目覚めてしまった公爵令息…
そしてなんとなく気になる年上警備員…
(注意)視点がコロコロ変わります。時系列も少し戻る時があります。
読みにくいのでご注意下さい。
【連載版】婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
短編では、なろうの方で異世界転生・恋愛【1位】ありがとうございます!
読者様の方からの連載の要望があったので連載を開始しました。
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
※連載のためタイトル回収は結構後ろの後半からになります。
多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】
23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも!
そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。
お願いですから、私に構わないで下さい!
※ 他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる