商人の男と貴族の女~婚約破棄から始まる成り上がり~

葉月奈津・男

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【カトリーヌ編】

第9話 不敬罪の始末

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 仲がいいのか何なのか、同じ日に揃って不敬罪を犯した人々の話。

 まず、レッドルア商会の会頭にしてカロスタークの父夫妻について。

 一応審問はされたが、周囲にいた貴族がありのままを証言。
 中でも筆頭となる証人が伯爵、不敬罪で訴えたのは子爵。
『貴族院』も『法廷』も、情状酌量の余地なしと断じた。

 本人たちは懸命に『事情を知らなかったのだ』と訴えたが、調べようと思いさえすれば誰でも知ることが可能な話。
 まして、自分の息子の話だったことから誰も信じなかったし、信じた者たちは逆に裁定を支持した。
 同情の余地なし、それが大勢を占めたからだ。

 オルトレオーネ子爵からの強い非難もあり、刑罰は『火刑』に次ぐ重罰である『絞首刑』と決まる。
 不敬罪での刑執行は即日とされており、事件から五日後に執行された。


 ガクガクと震える足では処刑台まで自力で歩くこともできず、兵士に両脇を抱えられて移動する体たらく。
 しかもその間、足元には水の滴ったあとが残った。
 最初は黄色く、あとあと茶色になっていたとは掃除した兵士が語った話だ。
 飲み会でのことで男性陣からは爆笑をもらい、居合わせた女性陣からは顰蹙を買いまくることになる。



 長兄については、もっと簡単に片付いた。
 ミヌミエーラ『新』男爵に投げ飛ばされたのだが、鍛えたことなどない商人だ。
 元軍人から怒りに任せた投げ技を喰らったのではひとたまりもなかった。
 受け身も取れずに放り投げられ、そこで首の骨を折って死亡していた。

 頭に血が上っていたミヌミエーラ『新』男爵は、我に返ってひどいことをしてしまったと反省しきりだったそうだ。
 ちゃんと処刑台にあげてあげるべきだった、もしくはその場で斬り伏せてあげるんだった。
 なにも、投げられての死なんて不名誉な死に方をさせることはなかったのだと。

 少々ズレているが、それが軍育ちということなのだろう。
 良くも、悪くも。

 カロスタークも謝罪されたが、自業自得だと切って捨てた。
 兄ではあるが、仲良く遊んだ記憶なんてない。
 虐められたこともなかった。
 初顔合わせが『学院』入学直前だったこともあり、接する機会がほとんどなかったのだ。

 父に付いてきては小馬鹿にした顔でニタニタと笑っていたくらいか。
 自分も食べられると思っていたお菓子を食べ尽くされた思い出はあるが、もともと食べる機会がなかったものなので未練を持っておらず怒りが湧くことがなかった。
 なんにせよ、見下されていた印象しかなくて正直どうでもよかったのだ。

 息があれば、もう少しなにか思うところがあったかも知れないが死んだのだ。
 死に方になんて興味がなかったのである。

 義姉は、現在投獄中だ。
 日々、『処刑』の不安に苛まれながら、独房の中でうずくまっているという。
 ただ、刑罰に対して意見を言える立場のセザールとその兄モンモラシー男爵は、『処刑はちょっとやりすぎかも?』という意見なので、命は助かりそうだった。
 命『だけは』かもしれないが——。



 レッドルア商会は残った。
 カロスタークの次兄が継ぐことになる。
 モンモラシー男爵にその気があれば取り潰しも可能だったらしいが、今回は『長年の功労に免じて』存続を許された形だ。
 ただ、実態は違う。

 ひとつ、新たな商会を立ち上げるなり他所から誘致するなりが手間だということ。
 ふたつ、取引先が決まるまで、領内の物産を売買できなくなるのは困るということ。

 これらがモンモラシー男爵の本音だった。
 領内唯一の商会ともなると、潰すにもリスクが伴うものなのだ。
 そんなわけで取り潰しを免れたレッドルア商会だが、喜べるかというとそんなことはない。

 まず、資金の大部分——モンモラシー男爵の借財返済に充てる予定だった資金丸々全部と、正式に一族に組み込まれた後の躍進に備えての資金——がモンモラシー男爵へ融資名目で徴収された。
 融資の期限は十年。
 利息はなしだ。

 次に、 モンモラシー男爵領内での取引時に与えられていた優遇措置が撤廃される。
 資金は奪われ、儲けを出し難くなるのだ。
 旨味がなくなったにも関わらず、領内の取引全般を統制する役割は残る。
 端的に言えば『飼い殺し』だ。
 いっそ取り潰してもらって、別の領地で再起を目指す方がマシなのではないかとも考えられる。


「ご厚情を賜り感謝に堪えません。今後も領地運営に寄与できるよう、邁進して参ります」

 次兄はモンモラシー男爵への挨拶でそう述べたそうだが、見るからにはしゃいでいたとの証言がある。
 あり得ないと思っていた会頭就任で、舞い上がっているのかもしれない。
 一生を兄の下で使われ続ける人生だったはずが、自分が頂点に立てるわけで気持ちはわかる。
 だけど。

 実質的に頓死状態だと気付いたら、どんな顔をするのやら。
 家族の中で唯一イヤな思い出のない次兄が、うまく立ち回ってくれることをカロスタークは切に願うのだった。
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