商人の男と貴族の女~婚約破棄から始まる成り上がり~

葉月奈津・男

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【カトリーヌ編】

第11話  勅令の遂行について~後編~

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「どぉあっはっはっはぁー!」

「————なんだ、あれは?」
 整備の現場を視察していたカロスタークの目の前に、変な生き物がいた。

「なんだと申されましても、あれはうちの兄です。ミヌミエーラ男爵ですよ」
 あれ、とフランソワが指さすのは上半身裸で大槌を振り回し、地面を叩いている男だ。
 しかも、変な掛け声を上げては笑っている。

「そんなことはわかっている。男爵が半裸で、なにをしているのかと聞いているんだ」
「道路整備でしょう? 妹の婚約者の役に立とうとしているのです。見た目はアレですけど。立派なことだと思います」
「いや、だとしても貴族がすることか?」
「兄は・・・元軍人ですから」

 脳筋野郎め。
 頭を抱えたカロスタークだが、問題なのは男爵だけではない。
 ざっと見渡すだけで1000人は半裸の男たちがいる。

「あれって——?」
 もう答えはわかっているのだが、一応確認のためにフランソワへ確認を求めた。

「ミヌミエーラ男爵家、モンモラシー男爵家、レッドルア準男爵家。三貴族の貴族軍、ですね。それぞれがちゃんと紋章旗を掲げていますし」
 そう。
 各集団の横には、土木作業の現場に似つかわしくない勇壮な軍隊旗が掲げられていた。
 そして、実用重視の鎧も。


 ちなみに。
 レッドルア準男爵家の紋章は左に金貨、右に短剣を載せた銀色の天秤である。


 それはさておき、貴族の力の象徴たる貴族軍が、あろうことか半裸で土木作業に勤しんでいるのだ。
 あり得ない光景だった。
 貴族軍と言えば、治安維持のために領内の見回りをしているものだ。
 間違っても、汗を掻きながら泥にまみれるなんてことはない。
 それが常識だ。

「まぁ、当主自ら率先して働いていますので、下の者がやらないわけにはいかないかと」
「いや。そうなんだろうけど。普通、サボタージュとか起きるだろ?」
 まして、三家の貴族軍が一堂に会しているとか!
 あり得ない!

「それが・・・先日のお義兄様の件が知れ渡りまして。『意に従わないと無意識で投げ殺されるぞ』と、兵たちの間で広まったらしいのです」
「うっわ。そこで、それが出るのかぁ」
 カロスタークは頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。

「あと、ミヌミエーラ男爵が『お前らは基礎がなっていない。まずは身体づくりだぁ―っ』て喚いて、反論する兵士には問答無用で関節技をかけるという説得をしたそうです」
「それ、説得言わない!」
 意味は分かるし、『王国軍と肩を並べられるように』と言ったのはカロスターク自身だ。

 わかる。
 わかるんだけど——。

「はぁ。いいや、がんばってもらおう」
 千人からの兵士が手伝ってくれるなら、道路整備も進もうというものだ。
 悪いことではない。


「あ。そうだ」
 いいことを思い付いた、とカロスタークは手を打った。

「領内で働き口がなく暇を持て余している者たちに触れを出してくれないか?」
「触れ・・・ああ。御布令ですか、なんと?」
「道路整備を手伝う者に、一日につき銀貨3枚を下げ渡す。これは、気が向いたとき一日だけでもよく、好きなだけ続けてもよい。能力が高い者には昇給、銀貨を4枚や5枚にしてもいい、もっと上がる可能性もある。とだ」

 勅令を成し遂げるには時間がかかり過ぎる。
 ここは人手を増やしたいところだが、専門に雇うのは時期尚早だ。
 金もかかるし、領地を変えるごとに連れて歩けるわけでもない。
 連れて歩くとしたら、確実に使えて信用もできる者でなくてはならないのだ。
 とりあえず銀貨3枚で集めて、そこから使えそうな人材を見つけるほうが効率もいいだろう。

 銀貨三枚というのは、町の飲食店で働く給仕の日当に値する。
 土木作業とは職種が違い過ぎるが、どんな人間が来るかわからない。
 まずはこれで様子を見るつもりだ。
 能力があると自負がある人間は来ないデメリットはある。
 だけど、自分の能力を未だ理解していない掘り出し物を、安く雇えるメリットもあった。
 能力の高い人材は、これで見つけられなかったときに方法を変えて探せばいいのだ。

 期間を『一日だけでもよい』としたのがミソだ。
 それなら、やることなくてボーっとしている奴らが冷やかし半分で来やすい。
 多少きつかろうと一日だけ、いやならもう行かなきゃいい。
 暇つぶしついでで、帰りに一杯ひっかけられる程度の金がもらえるのだ。
 そりゃ来るだろう。

 「——なるほど。わかりました。すぐに実行します」
 「うん。よろしく。オレは一度王都へ戻るから」
 「お疲れさまでした」
 「うん。お疲れー」

 「・・・王都にいるのは、もうちょっとクセがないといいな」
 最後にもう一度、ミヌミエーラ男爵を見てカロスタークはつぶやいた。

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