商人の男と貴族の女~婚約破棄から始まる成り上がり~

葉月奈津・男

文字の大きさ
58 / 261
【カトリーヌ編】

第14話 花の色はうつろいてとどまらず ~前編~

しおりを挟む
 

 そんなことがあって四日目、カトリーヌ・ド・リヴィエール女伯爵領にカロスタークたち一行は足を踏み入れた。
 カロスタークはもちろん従者のトマ、副官のセザールとフランソワ、セザール騎士団から5名の護衛。
 総勢9名での現地入りである。
 馬車は使わず、『早馬』を使った。

 いつもの時間短縮のためだ。
 教会から伯爵邸までは歩きである。


 「とりあえず昼食会に招待されたんだっけ?」
 歩きながら、カロスタークが予定を確認する。

 「はい。事務仕事だけなら事務方で話を付ければいい。トップ会談では為人を知ることこそ重要。そのためには食事会が一番手っ取り早い。——というのが持論らしいです」
 「間違ってないけど極端だな。まぁ、いきなり剣をとっての模擬戦とか言わないだけましだけど」
 
 商談でも食事会で相手の信用度や教養度を推し量るってことは多い。
 何気ない会話、仕草、食事マナー。
 これを見ればおおよそのことが分かるのだ。
 相手を気遣えるか、気遣った上で努力できるか。
 
 例えば、元々食事の仕方が汚い者がいるとする。
 汚い食べ方はともに食事する相手へ不快感を持たせてしまう。
 これが気遣い。
 せめて、そういう場だけでも上品に食べようと意識し、訓練もするのが努力だ。
 
 これができない者を信用する理由はない。
 完全にビジネスパートナーとして割り切って付き合い、個人的には距離を置く判断になる。
 互いのメリットになっている間はともに仕事をするが、こちらの利益がなくなりそうなら即刻手を引く関係だ。
 
 努力できる者ならば、損だと知っていても協力する判断ができる。
 持ちつ持たれつでやっていこうと思える。
 トップ会談とは、これを見極めるために行うものなのだ。



 「ようこそお越しくださいました」
 丁寧に頭を下げたメイドに案内され、食堂へと通されると男性が待ち構えていて挨拶してきた。

 女伯爵のはずでは?
 疑問が顔に出たのだろう、その紳士は小さく笑って会釈した。

 「カトリーヌの夫です。妻は他の用事で出ており、まだ帰っていません。お客様たちだけにしておくわけにもいきませんので、妻が帰るまでのつなぎとお考え下さい」
 おい。それじゃ意味ないだろ!
 怒鳴りたい気持ちをグッと腹にしまい込み、カロスタークは営業スマイルで相対した。

 「左様でございましたか、それはお手数をお掛けいたします」
 「ははははは、カトリーヌの被害者同士。気兼ねなくお楽しみください」

 
 挨拶が済むと、会食はすぐに始まった。
 もっとも、主役が来ないのでは文字通り話にならないので、始まらなかったらどうしたらいいか困るところだ。

 席は長テーブルを使った対面式になっており、三対三で向かい合う形になっていた。
 伯爵側は右側の席にカトリーヌの夫。
 カロスターク側はカロスタークを真ん中にしてセザールとフランソワが左右を固めている。

 話は意外と弾んだ。
 伯爵の夫殿は話し好きであるらしい。
 そして、実務的な話が多かった。

 この家の実務、大半はこの人が取り仕切っているのでは?
 カロスタークは、そんなふうに当たりを付け始めていた。
 時間を無駄にしてしまうかと不安だったのだが、思いのほか実のある話になっている。

 

 「あー、遅れてしまったわねぇ」
 そこへ、まったく悪びれない様子で女が入ってきた。

 ここは伯爵家。
 関係ない人間が入ってくるはずもなし。
 これが、この家の主カトリーヌ・ド・リヴィエール女伯爵その人だろう。

 明るい栗毛に薄い紅茶色の瞳。
 白磁の肌でグラマラスな体形。
 そのうえ服が露出度高めで香水もキツイ。

 かなりのルックスとスタイルだが、クセは強そう。
 カロスタークたちの第一印象がそれだった。

 「場繋ぎご苦労様」
 素っ気なく旦那に言って、席に座る。

 挨拶のため、カロスタークたちが立ったタイミングだ。
 ここは一応、挨拶をする場面だろう!
 仲間内の会食ではない。
 重要な会談に向けての顔合わせだぞ!?

 目に力が入りそうになるが、グッとこらえる。
 女伯爵が、手を上下させて伝えてくる『座れ』に合わせて席に戻った。
 こんなところでケンカしても損しかない。

 「ようやくお会いできましたわね。準男爵?」
 席に着くや、いきなりワインで唇を濡らす女伯爵。
 ここへ来る前に、持ってくるよう命じてあったようだ。
 昼、それも会談前なのでアルコールの入った飲み物は置かれていなかった。

 「お会いできて光栄です。伯爵」
 明らかに軽く見られているが、表情筋の一本たりと動かさずにカロスタークは応じた。
 応じてのけた。
 
 「しっかりしているわね。それに引き換え、そちらの二人は何? 子供過ぎない?」
 「同じ年齢ですが?」
 「年齢じゃなくてぇ。雰囲気がよぅ。準男爵にはもっと大人の女性でないと。私とかどうかしら?」
 「ご冗談を」

 あはは、と笑っては見せるが内心では苛立っている。
 冗談にしてもひどい。
 セザールもフランソワも正妻ではないにしろ、カロスタークにとっては大事な女性である。
 それを、ここまで真正面から否定してくるとは。

 しかも、本人は既婚。
 ふざけているとしか思えない。

 「貴女たちもそう思わない? 落ち目の貴女たちではなく、私を選べば準男爵はまだまだ上を目指せるのよ?」
 矛先がセザールとフランソワに向いた。
 本人ではなく、まずは脇を崩そうというつもりのようだ。

 「それを決めるのは準男爵です」
 自分たちに決定権はない。
 突っかかってきても意味ないですよ、と予防線を張るセザール。

 「すでに夫がいる方でなければ、その通りと言えるのですけどね」
 隣にいる伯爵夫を見ながら、小さく反撃するフランソワ。

 「あらあら。男性にお任せってわけ? それで男心を掴めるなんて思ってないでしょうね?」
 「えっと?」
 「はい?」

 楽し気に二人を見下す女伯爵。
 さすがに不愉快感が滲みだすセザールとフランソワ。
 間にいて様子を見るしかないカロスターク。
 興味深げに見守る伯爵夫。
 うまくいっていた会食が一転、ギスギスした空気になっていく。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

拝啓~私に婚約破棄を宣告した公爵様へ~

岡暁舟
恋愛
公爵様に宣言された婚約破棄……。あなたは正気ですか?そうですか。ならば、私も全力で行きましょう。全力で!!!

老婆令嬢と呼ばれた私ですが、死んで灰になりました。~さあ、華麗なる復讐劇をお見せしましょうか!~

ミィタソ
恋愛
ノブルス子爵家の長女マーガレットは、幼い頃から頭の回転が早く、それでいて勉強を怠らない努力家。さらに、まだ少しも磨かれていないサファイアの原石を彷彿とさせる、深い美しさを秘めていた。 婚約者も決まっており、相手はなんと遥か格上の侯爵家。それも長男である。さらに加えて、王都で噂されるほどの美貌の持ち主らしい。田舎貴族のノブルス子爵家にとって、奇跡に等しい縁談であった。 そして二人は結婚し、いつまでも幸せに暮らしましたとさ……と、なればよかったのだが。 新婚旅行の当日、マーガレットは何者かに殺されてしまった。 しかし、その数日後、マーガレットは生き返ることになる。 全財産を使い、蘇りの秘薬を購入した人物が現れたのだ。 信頼できる仲間と共に復讐を誓い、マーガレットは王国のさらなる闇に踏み込んでいく。 ******** 展開遅めですが、最後までお付き合いいただければ、びっくりしてもらえるはず!

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

乙女ゲームに転生するつもりが神々の悪戯で牧場生活ゲームに転生したので満喫することにします

森 湖春
恋愛
長年の夢である世界旅行に出掛けた叔父から、寂れた牧場を譲り受けた少女、イーヴィン。 彼女は畑を耕す最中、うっかり破壊途中の岩に頭を打って倒れた。 そして、彼女は気付くーーここが、『ハーモニーハーベスト』という牧場生活シミュレーションゲームの世界だということを。自分が、転生者だということも。 どうやら、神々の悪戯で転生を失敗したらしい。最近流行りの乙女ゲームの悪役令嬢に転生出来なかったのは残念だけれど、これはこれで悪くない。 近くの村には婿候補がいるし、乙女ゲームと言えなくもない。ならば、楽しもうじゃないか。 婿候補は獣医、大工、異国の王子様。 うっかりしてたら男主人公の嫁候補と婿候補が結婚してしまうのに、女神と妖精のフォローで微妙チートな少女は牧場ライフ満喫中! 同居中の過保護な妖精の目を掻い潜り、果たして彼女は誰を婿にするのか⁈ 神々の悪戯から始まる、まったり牧場恋愛物語。 ※この作品は『小説家になろう』様にも掲載しています。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

靴を落としたらシンデレラになれるらしい

犬野きらり
恋愛
ノーマン王立学園に通う貴族学生のクリスマスパーティー。 突然異様な雰囲気に包まれて、公開婚約破棄断罪騒動が勃発(男爵令嬢を囲むお約束のイケメンヒーロー) 私(ティアラ)は周りで見ている一般学生ですから関係ありません。しかし… 断罪後、靴擦れをおこして、運悪く履いていたハイヒールがスッポ抜けて、ある一人の頭に衝突して… 関係ないと思っていた高位貴族の婚約破棄騒動は、ティアラにもしっかり影響がありまして!? 「私には関係ありませんから!!!」 「私ではありません」 階段で靴を落とせば別物語が始まっていた。 否定したい侯爵令嬢ティアラと落とされた靴を拾ったことにより、新たな性癖が目覚めてしまった公爵令息… そしてなんとなく気になる年上警備員… (注意)視点がコロコロ変わります。時系列も少し戻る時があります。 読みにくいのでご注意下さい。

【連載版】婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
短編では、なろうの方で異世界転生・恋愛【1位】ありがとうございます! 読者様の方からの連載の要望があったので連載を開始しました。 シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます! ※連載のためタイトル回収は結構後ろの後半からになります。

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...