商人の男と貴族の女~婚約破棄から始まる成り上がり~

葉月奈津・男

文字の大きさ
72 / 261
【クロエ編】

第5話 花園は凛と咲き誇り、ミツバチは群れ成して飛ぶ2 ~前編~

しおりを挟む
 

 「あーっと。ごめんなさい、ちょっと化粧室行きます」
 クロエがそう言って席を立った。

 「あんたも来なさい」
 「え? あ、はい」
 アンヌを追い立てるようにして部屋を出て行く。
 
 「あ、わたしも」
 エマも出て行った。
 
 女性だけで話したいことでもあるのだろう。
 というか、男どもが険悪になりつつあるから、今のうちに何とかしろということか。
 場の雰囲気を建て直したとはいえ、ジョルジュが態度を改めないと元の木阿弥になるに違いないのだ。
 
 「席替わろうか?」
 「ダメだ!」
 とりあえずの解決策で口にしたが、ニコラに一喝された。
 
 「アンヌさんはカロスタークと話したがっているじゃないか。彼女の気持ちを踏みにじるのか?」
 男側のツゴウだけで、どうにかしていい話ではないと諭された。
 
 確かにその通りだ。
 ここにきての席替えはアンヌに、引いては女性全員への礼を失する行為になる。

 「君も貴族、それも上級貴族なら、わきまえろ」
 ジョルジュのことも窘めるニコラ。

 「チッ。うるせぇ」
 わかったのかどうなのか、顔を背けるジョルジュは不満そうだ。

 あまり、解決になっていない気がする男性陣。



 一方、女性陣の方はと言うと・・・。

「誰かれ構わず媚びを売るな!」
 化粧室へ入った途端、クロエがアンヌに詰め寄った。

 「いや、この子は悪くないでしょ」
 追いついたエマが応えて、二人の間に割って入った。

 「なんでよ!」
 「この子は普通に前の席の人と話そうとしているのに、ジョルジュってのが割って入ってるのが悪い」
 「こいつがちゃんと拒否すれば、こんなことにならない。こいつが悪い!」
 「ちょっと待って」
 エマが遮って、頭を抑えた。
 不審そうな視線がクロエに注がれる。

 「本気で言ってる?」
 「・・・・・・」
 クロエは口を閉じて睨みつけた。
 感情だけで言っている自覚はあるらしい。

 「文句言うのなら、貴女から話しかけたら? 黙っているだけだからダメなんでしょ!」
 「わかったわよ」
 不承不承、引き下がるクロエ。
 
「あんたもどっちつかずにならないように、誰と話したいのかキッチリ意思表示しないと。カロスタークだっけ? 相手にも迷惑よ」
 「そ、そうですね。わかりました。カロスターク様に迷惑をおかけするわけにはまいりません」
 拳を握って、アンヌは気合を入れた。



 で、舞台は戻って、話が再開するのだが——。

 「なんだかんだ言っても、男爵家じゃ先は見えてるぜ」
 「そうよ。伯爵家に敵うわけないじゃない」

 女性陣が戻ってきて、仕切り直しになった。
 先ほどまでの雰囲気の悪さはなくなっている。

 ただ、どういうわけかカロスタークが敵視される事態になっていた。
 ジョルジュがカロスタークを下げる物言いをし、クロエがそこに乗っかってくるのだ。

 発端はクロエだ。
 家の爵位に差がある相手とは釣り合わないという趣旨の発言に、ジョルジュが熱心に同意したことが始まりだ。
 伯爵家のアンヌと男爵家のカロスタークがうまくいくはずがない、この一点で意気投合したらしかった。
 ようやく自分の存在を受け入れられたと、クロエが少しほっとしたような顔をしていた気がする。
 
「上級貴族の伯爵家令嬢と下級貴族のそれも男爵なんて、ご主人様と犬みたいなものだろ?」
 「エサを貰えて尻尾を振るのでしょうけど、愛玩動物としか見られないのね。可哀そう―」
 ニタニタ笑いながら、言葉を投げてくる。
 ようやく落ち着いて話せる状況になったと思ったのにこれだ。
 さすがのカロスタークの眉間にも、シワが寄る。

 戻ってきて即行、ジョルジュがアンヌに声を掛け、キッパリと「カロスターク様とお話ししたいので、あまり話しかけないでください」と言われたのがショックだったのだろうとは思う。
 味方してくれたクロエの存在が嬉しかったのだとしても、敵愾心があからさますぎた。

 「なんで自分より下、それも底辺の男爵なんかと話したがるのか私には理解できないわ」
 「あっははは。きっと高度で崇高な理由があるのさ。ぜひ、ご高説を賜りたいね」
 「教えて、教えてぇ」
 「あれば、だけどねぇ」

 他人の神経を逆撫でする声音、小ばかにした態度。
 不愉快な言葉が二重奏で耳に押し入ったアンナとカロスタークの表情が引きつったものになっていく。
 そして、致命的な一言が撃ち出された。

 「こんなのを相手にするようじゃ、貴女の程度も知れるわね。いっそサルにでも嫁いだらいかが?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

拝啓~私に婚約破棄を宣告した公爵様へ~

岡暁舟
恋愛
公爵様に宣言された婚約破棄……。あなたは正気ですか?そうですか。ならば、私も全力で行きましょう。全力で!!!

老婆令嬢と呼ばれた私ですが、死んで灰になりました。~さあ、華麗なる復讐劇をお見せしましょうか!~

ミィタソ
恋愛
ノブルス子爵家の長女マーガレットは、幼い頃から頭の回転が早く、それでいて勉強を怠らない努力家。さらに、まだ少しも磨かれていないサファイアの原石を彷彿とさせる、深い美しさを秘めていた。 婚約者も決まっており、相手はなんと遥か格上の侯爵家。それも長男である。さらに加えて、王都で噂されるほどの美貌の持ち主らしい。田舎貴族のノブルス子爵家にとって、奇跡に等しい縁談であった。 そして二人は結婚し、いつまでも幸せに暮らしましたとさ……と、なればよかったのだが。 新婚旅行の当日、マーガレットは何者かに殺されてしまった。 しかし、その数日後、マーガレットは生き返ることになる。 全財産を使い、蘇りの秘薬を購入した人物が現れたのだ。 信頼できる仲間と共に復讐を誓い、マーガレットは王国のさらなる闇に踏み込んでいく。 ******** 展開遅めですが、最後までお付き合いいただければ、びっくりしてもらえるはず!

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

乙女ゲームに転生するつもりが神々の悪戯で牧場生活ゲームに転生したので満喫することにします

森 湖春
恋愛
長年の夢である世界旅行に出掛けた叔父から、寂れた牧場を譲り受けた少女、イーヴィン。 彼女は畑を耕す最中、うっかり破壊途中の岩に頭を打って倒れた。 そして、彼女は気付くーーここが、『ハーモニーハーベスト』という牧場生活シミュレーションゲームの世界だということを。自分が、転生者だということも。 どうやら、神々の悪戯で転生を失敗したらしい。最近流行りの乙女ゲームの悪役令嬢に転生出来なかったのは残念だけれど、これはこれで悪くない。 近くの村には婿候補がいるし、乙女ゲームと言えなくもない。ならば、楽しもうじゃないか。 婿候補は獣医、大工、異国の王子様。 うっかりしてたら男主人公の嫁候補と婿候補が結婚してしまうのに、女神と妖精のフォローで微妙チートな少女は牧場ライフ満喫中! 同居中の過保護な妖精の目を掻い潜り、果たして彼女は誰を婿にするのか⁈ 神々の悪戯から始まる、まったり牧場恋愛物語。 ※この作品は『小説家になろう』様にも掲載しています。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

靴を落としたらシンデレラになれるらしい

犬野きらり
恋愛
ノーマン王立学園に通う貴族学生のクリスマスパーティー。 突然異様な雰囲気に包まれて、公開婚約破棄断罪騒動が勃発(男爵令嬢を囲むお約束のイケメンヒーロー) 私(ティアラ)は周りで見ている一般学生ですから関係ありません。しかし… 断罪後、靴擦れをおこして、運悪く履いていたハイヒールがスッポ抜けて、ある一人の頭に衝突して… 関係ないと思っていた高位貴族の婚約破棄騒動は、ティアラにもしっかり影響がありまして!? 「私には関係ありませんから!!!」 「私ではありません」 階段で靴を落とせば別物語が始まっていた。 否定したい侯爵令嬢ティアラと落とされた靴を拾ったことにより、新たな性癖が目覚めてしまった公爵令息… そしてなんとなく気になる年上警備員… (注意)視点がコロコロ変わります。時系列も少し戻る時があります。 読みにくいのでご注意下さい。

【連載版】婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
短編では、なろうの方で異世界転生・恋愛【1位】ありがとうございます! 読者様の方からの連載の要望があったので連載を開始しました。 シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます! ※連載のためタイトル回収は結構後ろの後半からになります。

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...