商人の男と貴族の女~婚約破棄から始まる成り上がり~

葉月奈津・男

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【女将軍編】

第9話 大敗と大勝利、その後 ~後編~

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 「王国は存外もろいな」
 マルガリータは酒杯を片手に、そう独り言ちた。
 戦地ゆえ豪華ではないが、一応は酒もふるまわれての酒宴が帝国軍の陣地では開かれている。

 先の勝利により、帝国兵の士気は高まっていた。
 王国に侵攻してからこっち、いくつもの町を占拠し国土を切り取り続けている。
 初めてのまともな戦いでも大勝利。
 士気が高まるのも当然だろう。

 彼らの目の届くところには、全裸で立ち尽くす敵将もいる。
 その女は、今や彼らの目の保養をするためのインテリアだ。
 観賞用であって実用ではないが、王都に着いたら擦り切れるまで使うことが許されている。
 今から待ちきれないという者たちが大勢いた。

 「平和が長すぎたのですよ。体面では『大戦に備えて用意する』などと言っていても、戦いがなければ衰えるものです」
 参謀の一人がしたり顔でそう述べた。
 それが、参謀たちの結論だったからだ。

 建前では『大戦への備え』で学院を作り人材育成をしていたとしても、現実の戦争がなければ経験値は上がらない。
 知識ばかりで戦争に勝てるものではないのだ。

 「その分、建築技術は進歩しているようだ」
 うらやむように呟いたのは技術団の長である。
 道なき地に道を、川には橋を。
 行軍を円滑にするために働く者たちを率いる立場の者だ。
 自分たちでも道を作るがゆえに、土木技術への興味は人一倍ある。

 その彼が熱い視線を送っているのが、『道』だ。
 戦いの後、斥候が発見した。

 しっかりと踏み固められた道が通っていたのだ。
 真ん中を高くして左右には溝。
 明らかに水捌けをよくしようとの工夫が見られる。
 幅は荷馬車が三台は並びそうだった。
 これは、二台の荷馬車が余裕をもってすれ違えるようにするためだろう。
 細かいところにも気を配った、素晴らしいものだと感心しきりなのだ。

 「確かに、いい道だ。おかげで侵攻もやりやすい」
 ありがたいことだと、マルガリータは盃を掲げた。
 明日は、この道を使って移動する予定にしている。
 道はきっと、町に繋がっているはずだから。

 「勝利に!」
 音頭をとるマルガリータ。

 「勝利に!」
 幹部たちが唱和した。



 翌朝、帝国軍は『行速』道路を使って移動を開始した。
 整備された道ゆえに、行軍がスムーズに進む。

 だから、進む先に中規模の町を見つけても、驚きはしなかった。
 むしろ当然のこととして受け止める。

 「また、空なのではあるまいな?」
 町があった「とて」とマルガリータは眉を顰めた。

 王国に入ってからというもの、見つける町や村が全て無人だった。
 ここもそうなのではないかと、疑心が湧きもする。
 マルガリータは慎重だった。

 捕虜にした敵兵へは苛烈にして無慈悲だが、将としての人望は篤い。
 味方には優しく、部下からの信頼も高かった。
 紛れもなく、マルガリータは忠誠を受けるにふさわしい将軍なのだ。

 「先行した斥候によれば、人の気配ありとのことです」
 参謀が確認済みだと知らせてくる。
 ここにきてようやく、王国国民の住む町へと至ったようだ。
 あるいは「ついに」と言うべきか。

 敵兵には容赦なく振舞えるマルガリータだが、無辜の民へはどうなのか?
 マルガリータ自身経験が無く、確実なことは言えないのだ。

 「ひょっとすると、この町が近いために焦っていたのかもしれませぬな。先日の軍は」
 「ありえるな」
 参謀の一人の言葉に、マルガリータも頷いた。

 そう考えれば、脆過ぎた敵軍に理由が付けられるのだ。
 気の回し過ぎというものだが、帝国軍は敵兵を尋問して情報を得るということをしない。
 下手に話を聞いてかき乱されるよりも、自分たちで見た物だけを信じて進むべきという考えがあるためだ。



 何代か前の皇帝が敵将を尋問、相手の「俺は囮に使われた。同期のやつが大軍を伏せさせて待ち構えている。このまま進めば、お前らは全滅だ」という言葉を信じて撤退したという故事から来ている戒めだった。
 事実は、その敵将の率いていた軍が最後の戦力で、そのまま進んでいれば国を一つ滅ぼせるはずだった。
 だが、それを知ったときには相手の国は再軍備に成功していて、手が出せなくなっていたという逸話があるのだ。
 なので、こういう判断にもなる。



「力攻めをしてもよいが、ムダに疲弊することもないな」
 マルガリータは酷薄な笑みを浮かべ、町を見据えた。

 その町は、壁で囲まれていた。
 いわゆる城塞都市である。
 立派なのは見た目だけだろうとは思うが、こんなのでも攻めるとなると大変だ。
 搦め手でいこう。
 マルガリータは、そう考えたのだった。

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