商人の男と貴族の女~婚約破棄から始まる成り上がり~

葉月奈津・男

文字の大きさ
133 / 261
【戦場にて】

第4話 道があると知れば、誰もが道を歩く ①

しおりを挟む
 

 「茶髪の商人だったりはしないよね?」
 思わず言葉遣いが丁寧になりそうになりながら、カロスタークは問い返した。

 「黒髪で、女です」
 「別口か」
 いや、わからないか?
 後ろで繋がっている可能性は否定できない。
 カロスタークを揺さぶろうとの策でないとは言い切れなかった。

 「とりあえず、会ってみよう。連れて来てくれ」
 相手から情報を得られるかもしれない。
 会わないという選択肢はなかった。
 こちらの情報を取られないよう、気を付けなければならない。

      ◇

 女の商人はそれから一時間待たずに現れた。
 馬車を曳いてきた馬から蒸気が立ち上っている。
 かなり急がせられたようだ。

 女商人は妙齢だった。
 まだ若いが、才気溢れるという言葉を体現したような雰囲気を持っている。
 同様に、野心も持っていそうだとはカロスタークの感想だ。

 露出度の高い服をまとい、男の情欲を刺激するような香水をつけている。
 知らないで見たら、『夜の蝶』か『娼婦』だと思ったかもしれない。

 「食料が足りないとのお話を聞きつけまして、駆け付けてまいりました」
 挨拶もそこそこに、そう切り出してきた。
 馬の様子からして『駆けつけてきた』は事実だろう。

 「小麦をお売りいただけると?」
 茶髪の商人再び、そんな話だろうか?
 中身が同じでも接客担当が変われば売れたりするものだ。
 それを狙っての時間差攻撃を、カロスタークは疑っている。

 「いえ。残念ながら小麦の買い付けは無理でした。かわりに、イモや他の穀物を買い付けております」
 「ほう——」
 小さく頷いてカロスタークは考え込んだ。
 同じ穴の狢かと思っていたのだが、仲間ではないらしいと当たりを付けたのだ。

 二人の商人がグルだったなら、扱う商品は小麦で変わらない。
 数万に及ぶ軍隊に供出するための食糧を種類豊富に買い占めるなんてことは、帝国がバックにいてもそうそう容易くできるものではないからだ。

 だとすれば、考えられることは一つ。
 茶髪の商人が帝国に直接雇われた工作員で、女商人は何らかの方法でそれを知って便乗——抜け駆け——をしようとしている。
 急いで駆け付けたのは、茶髪の商人との取引が成立してしまったら自分の品物を売りつけられないからだ。

 そういうことなら、多少割高であるにしても彼女からならば物資を買えるかもしれない。
 売りつけに来ているのだから、結局売らないということにはならないだろう。

 「条件次第では、小麦でなくても買いますよ。売値はいかほどを想定しておられるのかな?」
 茶髪の商人は相場の五倍だったが?

 「値段は・・・そうですね。相場の二割増しといったところでしょうか」
 「二割、戦場へ運ぶとなると妥当なところでしょうか」
 ふむふむと頷きながら、カロスタークは警戒した。

 この状況下であることを考えれば、『安すぎる』。
 例えば、カロスタークがこの女商人の立場ならば五割は上乗せする。
 あるいは、政治的な———。

 なるほど。
 カロスタークは自分に頷いた。
 それが狙いかと思い当たったのだ。

 「予想外の好条件ですが・・・それだけではないのでしょう?」
 「ふふふ。さすがですわね。ええ、それだけではありませんの」
 穏やかに笑うその中で、目がギラリと光った。

 「カロスターク様が傘下に置いておられるすべての地域で、商取引を独占させていただきたいのです」
 「・・・全て?」
 『傘下』と言っている。レッドルア伯爵領だけでなく、モンモラシー男爵領とミヌミエーラ男爵領、さらには各地にある宿場までが範囲になりえるということ。
 かなりの広範囲を商圏にしようとしていることになる。
 そして、それは——。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

拝啓~私に婚約破棄を宣告した公爵様へ~

岡暁舟
恋愛
公爵様に宣言された婚約破棄……。あなたは正気ですか?そうですか。ならば、私も全力で行きましょう。全力で!!!

老婆令嬢と呼ばれた私ですが、死んで灰になりました。~さあ、華麗なる復讐劇をお見せしましょうか!~

ミィタソ
恋愛
ノブルス子爵家の長女マーガレットは、幼い頃から頭の回転が早く、それでいて勉強を怠らない努力家。さらに、まだ少しも磨かれていないサファイアの原石を彷彿とさせる、深い美しさを秘めていた。 婚約者も決まっており、相手はなんと遥か格上の侯爵家。それも長男である。さらに加えて、王都で噂されるほどの美貌の持ち主らしい。田舎貴族のノブルス子爵家にとって、奇跡に等しい縁談であった。 そして二人は結婚し、いつまでも幸せに暮らしましたとさ……と、なればよかったのだが。 新婚旅行の当日、マーガレットは何者かに殺されてしまった。 しかし、その数日後、マーガレットは生き返ることになる。 全財産を使い、蘇りの秘薬を購入した人物が現れたのだ。 信頼できる仲間と共に復讐を誓い、マーガレットは王国のさらなる闇に踏み込んでいく。 ******** 展開遅めですが、最後までお付き合いいただければ、びっくりしてもらえるはず!

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

乙女ゲームに転生するつもりが神々の悪戯で牧場生活ゲームに転生したので満喫することにします

森 湖春
恋愛
長年の夢である世界旅行に出掛けた叔父から、寂れた牧場を譲り受けた少女、イーヴィン。 彼女は畑を耕す最中、うっかり破壊途中の岩に頭を打って倒れた。 そして、彼女は気付くーーここが、『ハーモニーハーベスト』という牧場生活シミュレーションゲームの世界だということを。自分が、転生者だということも。 どうやら、神々の悪戯で転生を失敗したらしい。最近流行りの乙女ゲームの悪役令嬢に転生出来なかったのは残念だけれど、これはこれで悪くない。 近くの村には婿候補がいるし、乙女ゲームと言えなくもない。ならば、楽しもうじゃないか。 婿候補は獣医、大工、異国の王子様。 うっかりしてたら男主人公の嫁候補と婿候補が結婚してしまうのに、女神と妖精のフォローで微妙チートな少女は牧場ライフ満喫中! 同居中の過保護な妖精の目を掻い潜り、果たして彼女は誰を婿にするのか⁈ 神々の悪戯から始まる、まったり牧場恋愛物語。 ※この作品は『小説家になろう』様にも掲載しています。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

靴を落としたらシンデレラになれるらしい

犬野きらり
恋愛
ノーマン王立学園に通う貴族学生のクリスマスパーティー。 突然異様な雰囲気に包まれて、公開婚約破棄断罪騒動が勃発(男爵令嬢を囲むお約束のイケメンヒーロー) 私(ティアラ)は周りで見ている一般学生ですから関係ありません。しかし… 断罪後、靴擦れをおこして、運悪く履いていたハイヒールがスッポ抜けて、ある一人の頭に衝突して… 関係ないと思っていた高位貴族の婚約破棄騒動は、ティアラにもしっかり影響がありまして!? 「私には関係ありませんから!!!」 「私ではありません」 階段で靴を落とせば別物語が始まっていた。 否定したい侯爵令嬢ティアラと落とされた靴を拾ったことにより、新たな性癖が目覚めてしまった公爵令息… そしてなんとなく気になる年上警備員… (注意)視点がコロコロ変わります。時系列も少し戻る時があります。 読みにくいのでご注意下さい。

【連載版】婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
短編では、なろうの方で異世界転生・恋愛【1位】ありがとうございます! 読者様の方からの連載の要望があったので連載を開始しました。 シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます! ※連載のためタイトル回収は結構後ろの後半からになります。

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...