商人の男と貴族の女~婚約破棄から始まる成り上がり~

葉月奈津・男

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【戦場にて】

第7話 パンがないならケーキを食べればいい ②

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「おお?」
 行商人を見送りに出たら、町の外に『蛇足族』の一隊が待ち構えていた。

 音もなく戦闘体制に移行するセザール騎士団、少しまごつきながらも迎え撃とうとする『蛇足族』。
 二つの種族が、一触即発の事態に突き進む。

「って、やめーい!」
「おやめ!」
 慌てて止めに入ったカロスタークの叫びと、落ち着き払った静止の声が重なる。
 そのおかげて双方、警戒しつつも戦闘態勢を解き、一触即発の事態は回避された。

「先生!」
 そこへ、今度は『蛇足族』が一体、駆けつけてきた。
 ライアンだ。

 涙をまき散らしながら、背の低いリザードマンに抱きついている。
 相手は高齢らしく、鱗の色がくすんでいた。

「ふん。鼻たれ小僧だと思っていたが、泣き虫になったようだね」
 抱きしめられたリザードマンが、鼻で笑って悪態をついた。
 でも、その声は慈愛に溢れていて、照れ隠しだということが誰の目にもはっきりとわかるものだった。

「なるほど、貴女が『先生』でしたか。カロスターク・カロ・レッドルア伯爵です。私は貴女を『管理栄養士』として雇い入れます。雇用条件などはあとから要相談ということで」
 カロスタークが握手を求めると、『先生』は目を眇めて見つめた。

「若い領主だね。だけど、若さに似合わず如才なさそうだ」
 とりあえず、合格したらしい。
『先生』はカロスタークの手を握り返した。

「ミザーリという。世話になるよ」
「よろしくお願いします」
 世話になるのは自分のほうだと言わんばかりの腰の低さで、カロスタークは頭を下げた。
 ミザーリはもちろん、その後ろに並ぶ『蛇足族』たちからも好ましげな眼が向けられる。
 なぜかライアンが胸を反らして自慢気だった。

「あと、若いのを70人ばかり連れてきてる。雇ってもらえるって聞いたんだが、どうなんだい?」
「採用です。工事人足でよければ、ですが」
「贅沢は言わないよ。いい若いのが、日がな一日遊んでるなんてよくないからね」
「助かります」
 こうして、セザール騎士団に『管理栄養士』が加わった。

 ついでに、『蛇足族』の若者も数人加わっている。
 こちらは戦闘職だ。
 戦いの技術には自信があるが、他はいまいちという者たちだ。
 元は傭兵だったそうで、セザールが『即戦力だ』と喜んでいた。
           
          ◇
「早急に打ち合わせを行いたい。今日の視察は任せていいか?」
「任せてください」
 セザールとミーランが、ぴたりと同時に名乗りを上げた。

 一瞬の沈黙。
 カロスタークが目を瞬かせる。

「……では、二人とも頼むよ」

 そう言った瞬間、セザールがミーランをちらりと見た。
 その視線は、柔らかくも鋭い。
 まるで“試すような”光を宿していた。

「足手まといにならなければいいけど」

「ご心配なく。飛べる分、足より速いですから」

 ミーランは微笑みながらも、翼をふわりと広げてみせた。
 その仕草は、どこか誇らしげで、挑発的ですらある。

「……!」

「……!」

 二人の間に、見えない火線が走った。
 ライアンが空に目を向けて、「こわっ」と呟いた。

 けれど、その声も二人の間に漂う緊張を和らげるには至らなかった。
 カロスタークは、苦笑いを浮かべながらも、内心で頭を抱えていた。

 ……視察、任せて大丈夫だろうか、と。
 だが、口には出さない。
 出せば、どちらかが“勝った”ことになるからだ。

「……頼んだよ。くれぐれも、仲良くな」

「もちろんです」
「ええ、仲良くしますとも」

 二人の声が重なった。
 だが、そこに“仲良し”の気配は、微塵もなかった。

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