商人の男と貴族の女~婚約破棄から始まる成り上がり~

葉月奈津・男

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【戦場にて】

第18話 欲しいものは天候と気分で変わるもの ①

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 「あ、あれです!」
 指を差された先、確かに大きな塊が飛んでいるのが見えた。

 手や足、頭がある。
 翼も。

 『翼人族』三人で、一人の人間を支えているようだ。
 その人間が、胸元で手を向かい合わせにしている。
 その手の中に、火球が生まれるのが見えた。

 「また来るぞ!」
 「伏せろ!」
 慌てて指示を出し、自分たちも下馬して地面に身を投げ出した。

 数秒の静寂。
 そして爆発音。

 「ん?」
 首を傾げた。

 爆発音が遠い。
 衝撃がほとんどなかった。

 「あ。あ、ぁ、あ、ぁ、あ——」
 相方が、断続的に声を零している。

 なにが?

 「————」
 視線を追って、絶句した。

 火柱が立っている。
 いや、これは予想していた。
 問題は場所だ。

 荷馬車の列を越えた先、進行を防ごうとでも言うような場所に立ち上っていた。
 驚いた馬が暴れたのだろう、何台かが横倒しになっている。

 馬は元来臆病な生き物だ。
 だからこそ逃げるため、走ることに特化している。

 特にダメなのが『大きな音』。
 そして『炎』。

 恐慌をきたすには充分な状況だ。
 荷馬車隊が、列を乱している。
 
 馬の混乱はそのまま荷馬車の動きにつながる。
 荷馬車からは次々に完全武装の重装兵が吐き出されていた。
 重量物を身に付けて、荷馬車から落ちる。
 そこには悲惨な未来しかない。

「クソっ!」
「ざけんな!」
 恐怖と混乱を無理やりぶっちぎり、何人かの兵士が弓を番えた。
 空にいられては剣も槍も届かない。
 しかし、弓なら届く!

「ギャッ!」
 悲鳴が上がった。

『上がった』のだ。
『落ちた』のではない。

 弓を番えた兵士の肩に、矢が生えていた。
 鏃が下を向いている。
 それも、ほぼ直角に。

 上から射られたものだ。
 数十に及ぶ『翼人族』が上空にいた。
 手には弓、背中にはずっしりと詰まった矢の束がある。

 機先を制された。

「だからなんだ!」
「こっちの方が数は多いんだぞ!」
 体勢を立て直した兵たちが、弓を執って矢を放った。

「無駄だ」
「え?」

『翼人族』は『風』を操る。
 妨害することなど容易い。

 しかも、『上』にいるのだ。
 下からでは威力も速度も下がる。
 逆に、『翼人族』からの矢は勢いを増す。

 状況は一方的だった。
 そこへ――。

「攻撃をやめよ。命まで取るつもりはない」
 よく澄んだ声が、戦場を駆け抜けた。
 敵が発っしたものだ。

「どう思う?」
「何か交渉の余地があるということかな?」
「交渉? 食料か?」
「おそらくな」
 一方的な劣勢の中、短いやり取り。
 それでも、決断は下さなくてはならない。

「戦いをやめろ!」
「戦闘中止!」
 二人の中級指揮官たちが声を上げ、下級指揮官が全軍に伝えていく。
 僅かな時間で、戦闘停止命令は全軍に行き届いた。


「それでいい。ムダに争うつもりはない」
 鎮まったのを見計らい、一人の『翼人族』が下りてきた。
 現状で最高位の指揮官である二人の前にピンポイントで。

 女性、いや、少女だ。
 こんな殺伐とした場所にいるのが不思議なほど、細く小さい。

「な、なぜ、私たちの下に?」
 迷いもせず目の前に降り立たれたことに疑問が出た。
 偶然ではないだろう。

「上から見てた。混乱したとき、真っ先に声を上げて命令を出すのが、指揮官」
「ああ、それはそうだな」
 指揮官とはそういう存在だ。いや、そういう存在でなくてはならない。

「それで? 目的は?」
「荷馬車を置いてってもらう。そうすれば、それ以上は望まない」

「っ?!」
 指揮官二人は、互いに視線を向け合った。
 ある意味、予想通りの交渉が行われている。

「荷馬車を、ですね?」
「そう。荷馬車を」
 確認したのに対して、少女は小鳥のように首を縦に動かした。

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