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【ラヴァル編】
第2話 蝙蝠の選択は友人を二人得るか、敵を二人作るかである ②
しおりを挟む——帝国の侵攻、四か月前——
「ヒルデガルド様におかれましては、子爵よりの献上品をお喜びでありましたぞ」
訪れた茶髪の商人が、そう伝えてきた。
目通りを求めるに際しては王国の身分証を使ったと言うが、帝国とも関りが深い者のようだ。
「お、おお。そうであるか。それは光栄なことだ」
帝国との間にパイプができたと、子爵は喜びを隠さない。
「献上品への礼として、このようなものを預かっております」
懐から、恭しく取り出したものには紛れもない帝国の印が刻まれていた。
帝国の権力者からの書簡が納められているだろうことが明らかなものだ。
「こ、これは?」
子爵が身を乗り出し、囁くように問うた。
どのような性質のモノかはわかる。
問題は『誰』と『何』だ。
ヒルデガルドには権力がない。
だから、この印を使えないのだ。
使える何者かが、何かを伝えるために渡そうとしてきている。
問題はそこだった。
「軍務卿からのモノでございますよ。ちょっとした頼みごとが記されております」
「頼み事?」
警戒心が動いた響きが言葉に乗った。
一体何を頼むというのか?
不安と躊躇いを眉間に漂わせて、子爵は書簡を開いた。
そして、薄い笑みを浮かべる。
「なにかと思えば——」
どうということはないと、軽く首を振る。
「商人の商取引は大陸内において自由であることが、各国家間で承認されておる。我ごときに口出しすることではない。好きなようにするがよい」
領地内の穀物の買い上げに対して便宜を図ってほしい。
それが書簡の内容だった。
ただ買い上げたいわけではなく、相当な量に及ぶことが記されている。
なぜ、そんなに必要なのか?
疑問は感じるが、詮索は無粋だ。
国境を越えてのある意味密輸なのだ。
痛い腹を探られて喜ぶはずもない。
ここは黙って用立ててみせるのが、貴族というものだろう。
帝国に貸しを作れて、領内に金が入る。
悪い話ではなかった。
「好きなようにせよ」
鷹揚に許可を出す。
「ありがとうございます」
茶髪の商人は、口許を三日月形に歪めて頭を下げた。
◇
——帝国の侵攻、2か月前——
「商人のラヴァルと申します。商取引の許可をいただきにまいりました」
突然現れた女の商人が、そんなことを言ってきた。
領内での取引に許可を求める商人は時々いるが、たいていは手土産があるものだ。
なのに、手ぶらで来ている。
なんのつもりかと、子爵は眉間にしわを寄せた。
舐められているのかと、不機嫌になっている。
「小麦だけでは不足だったのですよ。『あちら』の方が」
あちら、と北西を指さされる。
その先にいる『方』と言えば・・・。
「んっ、んんっ」
奇妙な咳をして、子爵は座り直した。
「そういうことか」
「はい。そういうことなのです」
「ならば、助力するのもやぶさかではない」
「ありがとうございます。なるべく安く手に入ると『あの方』もお喜びになられるでしょう」
敢えて名前を言わず、『あの方』で通すあたりに、裏の意味合いを感じる。
さすがに帝国の軍務卿。
それなりの量だったとはいえ、小麦だけでは不足だったようだ。
このような形で催促を寄こすとは。
だが、それだけ必要に迫られているということだろう。
恩なり貸なりを売るには好機。
子爵は領内のみならず、付近の町からも穀物や豆、イモなどをかき集めることになる。
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