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【ラヴァル編】
第6話 食料の出どころと行先 ③
しおりを挟むカロスターク自身も、荷馬車を引き連れて動いている。
飢えは限界に達しつつあった。
急がなければ、餓死者が出るだろう。
オオキビは三か月で育つが、死者が蘇ることはない。
この辺りの領地の中心、州都が見えてきた。
州都だけに人口は二千ほどだと言うが、それでも外れの方は農村とそう変わらない家も多く見られた。
町を壁で囲んだ城塞都市ではないのだ。
中心に住めない貧民たちは、町の周囲に縋りつくように家を建てて住んでいる。
そのうちの一軒から人影が現れた。
木造の傾いた家だった。
出てきたのは、痩せこけた女だ。
腕に、子供を抱いている。
小さくて細い腕が、だらりと下がって動かない。
足もだ。
死んでいる。
女は子供を地面に置くと、鍬で穴を掘った。
横には同じように掘り返したらしい跡と、盛り上がった土がある。
夫だった。
子供のためにと遠出して食べ物を探しに行ったが、片手で握れる程度の野草しかとってこれなかった。
そして、その野草は全部子供に食べさせた。
「もう一度探してくる」
子供が食べ終わるのを見守った夫は、そう言って家を出て・・・ここに倒れて息を引き取った。
水だけで動き回っていたのだ。
自分が食べるのは子供が満足に食べた後、そう思いながら。
命が持つわけがなかった。
そうまでしたというのに、我が子も死んだ。
戦争さえなければ。
あの軍勢がありったけの食糧を持って行ったりしなければ。
今も元気に走り回っていたはずの息子が、今はもう動かない。
女は黙々と掘り、息子を穴へ寝かせた。
そして、また黙々と土をかける。
涙はなかった。
もう枯れ果てていた。
泣いている場合ではなかったのだ。
夫は死んだ。
長男も死んだ。
だけど、まだ次男がいた。
この子だけは、絶対に守らなくてはならない。
守りたい。
だから、泣いてなどいられない。
食べられるものを探さなくては!
決意をもって顔を上げた。
その目が、近づいてくる軍勢を映す。
「っ!」
また来たのか?
帝国軍がまた来たのかと、思わず鍬をもち直して構えてしまった。
そうではなかった。
軍が掲げているのは帝国の旗ではない。
憎しみで夫ともども睨みつけたことのある旗ではなかった。
「あれは・・・」
なんの旗だろう?
そう考えたとき、声が聞こえた。
「我々は王国軍。レッドルア伯爵の配下だ」
ああ、王国の軍なのか。
さして興味もないまま聞き流した。
帝国の軍だろうが王国の軍だろうが、どうせあまり違わない。
「レッドルア伯爵の命により、救援物資を持ってきた。たっぷりの麦の粉と野菜だ」
言葉が切れたときには、女は走り出していた。
次男がベッドで虫の息なのだ。
小麦の粉があるなら、溶かし込んだ粥を飲ませてやれる。
命を繋ぐことができる!
飢えていた農民たちが群がった。
殺到とまでいかないのは、そんな体力がすでになかったからだ。
町の中まで進んだ王国軍は、手早く粥を作り振舞った。
オオキビで嵩増しした小麦を溶いただけの粥に、痛み始めた野菜を散らした粗末なものだ。
それでも、農民たちは涙を流して喜んだ。
久々に『食べた』という実感が湧く。
生きているという実感。
食べているという実感に、大人たちは涙を流した。
生き延びた子供たちは、王国の兵士たちをキラキラした目で見つめて粥を啜っている。
「ギリギリ間にあった——いや、わずかに遅かったんだろうな」
民の様子を眺め、カロスタークは息を吐いた。
チラリと向けた視線の先、州の総督がいるだろう建物から役人と守備兵が出てこようとしている。
役人は武装しておらず、守備兵はどこかくたびれた様子があった。
「あなたが、指揮官ですか?」
代表して、だろうか。
役人が一人前へ出て問いかけてきた。
視線がチラチラと動くのは、指揮官が他にいるのではないかと怯えているからだ。
一見商人にしか見えないから、軍の指揮官だと判断できないでいる。
「そうだ」
剣を抜きかけるセザールを制して、カロスタークが前へ出る。
役人たちが、おびえて身を固くしたのが分かった。
それでも、引き下がりはせずに踏みとどまっている。
なにか言いたいことがあるらしい。
いや、聞きたいことか?
役人たちは自分たちがどうなるか、心配でならないのだろう。
「この屋敷の主は逃げました。逃げる当てのある者はみんなそうです」
州の総督府は空だと、その役人は説明した。
人も金も、何もかもが去ったあとなのだ。
残っているのは、行く当てのない者たちばかりだという。
「・・・中に、入られますか?」
探るような目で、役人が誘いをかけてきた。
それが聞きたかったのか。
カロスタークは納得して頷いた。
「入れてもらおうか」
このリューイン州総督として。
王国が、制圧したことの証として。
総督府は外の家々と比べて重厚で立派だった、内装も洗練されている。
金をかけたことがはっきりとわかる佇まいだ。
ここが、しばらくはカロスタークの居所となるだろう。
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