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【ラヴァル編】
第8話 停戦合意 ②
しおりを挟むさらに五日後。
帝国はリューイン州に駐留した王国軍に対し、外交使節を派遣した。
使節の代表は軍務卿である。
首を挿げ替える前の最期の仕事となるだろう。
自分のケツは自分で拭いてから退場せよ。
そういうことだ。
外交使節の目的は、第一に戦争の即時休戦。
これについては、議論するまでもなく両者で合意ができた。
王国としても、これ以上の戦火の拡大は望まなかったのだ。
第二に、王国が占領したリューイン州の帰属問題である。
これについては、王国がそのまま領有すると主張するのに帝国は難色を示した。
ただし、それほど長い議論とはならなかった。
もともとの領主が、王国の逆撃ありと知ってすぐに逃げていたことでもある。
支配域だとの主張に根拠をもたせることができなかったのだ。
何の抵抗もなく明け渡しておいて、自分たちの領地ですなどと言っても説得力がない。
同じような理由で、民を置き去りにして責任者が逃げていた周辺の村や町についても王国への帰属が決まる。
村や町の住民の総意であることを示す書簡が提示され、平和裏に王国の支配下に入ることが定まった。
第三が、第五皇女ヒルデガルドの返還だ。
こちらも話はスムーズに進められた。
返還されることは自明であり、問題となるのは身代金の額だけだったからだ。
「帝国に捕らえられている『亜人』と引き換えでいかがですか?」
金額の交渉に入ろうとしたところで、王国の代表であるレッドルア伯がそう言ってきた。
帝国国内では『亜人』の排斥運動が激しい。
結果争いとなり、犯罪者としてとらえられている『亜人』が一定数いるのだ。
これと、第五皇女を交換しようと持ち掛けられた。
「いいだろう」
軍務卿は、淡々と受け入れた。
どのみち、失脚目前。
ここで成果を得てもメリットがない。
第一、多額なものとなるだろう金を出さずに済むのだから悪い話ではなかった。
むしろ、国内の情勢不安の元凶を追放できるいい口実でもある。
折衝する意味がなかったのだ。
◇
防戦一方だった折衝が終わり、リューイン州の領主館を出た。
満天の青空が目に映り、思わず深呼吸をした。
妙に清々しかった。
帝国の中枢に帰っても、もはや自分のための席はない。
後釜のために引継ぎをする仕事が待つだけだ。
それとて、ほんの数分で終わるだろう。
権力から弾かれることが決まった今、底抜けの爽快感が湧き上がってくる。
「軍務卿」
長年勤めてくれている補佐官が寄ってきた。
コソコソと耳打ちしてくる。
「何かあったか?」
首を傾げる。
耳打ちの内容は茶髪の商人が面会を求めているというものだった。
権力の座から滑り落ちている最中の自分に?
理由がわからなかったのだ。
「小麦のことでございます」
指示して買い占めさせたことは覚えている。
もちろん、王国に売りつけるつもりなどなかった。
侵攻がうまく行ったときには、買い戻してやるつもりだったが負けたので放置――忘れていた。
「買った時の値段でいいから買い戻してくれと泣きついてきております」
商品を大量に抱えたまま売るに売れず、資金繰りが苦しくなったようだ。
軍務卿は力なく笑い、頷いた。
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