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【ロチェス編】
第12話 一芸は道に通じ、一事は万事を示す ③
しおりを挟む——数か月前のこと——。
ロチェスは軍務省のお偉方が開いた私的なパーティーに、半強制的に招待されていた。
簡単に言えば、軍幹部の子息子女を集めた『お見合いパーティー』だ。
実家が武を重んじる騎士家系であったため、あまり物を考えないまま軍部に入ったロチェスだったが、軍関係者との結婚までは考えたことがなかった。
「付き合おう。ロチェス君」
必死に色目を使う同年代の女性たちを白けた様子で見ながら、食事に専念していたところに声が掛けられた。
「うわぁ」
思わず素で声が漏れた。
軍部では重鎮と知られる人物の孫がそこにいた。
顔は母親に似ていいが、性格はひねくれているとの定評がある。
なにより、軍部にいる身でありながら剣もまともに振れないとの噂もあった。
言ってはならないが、コネのみで生きている男だ。
その男が「付き合え」と言う。
どこかへ出かけるのに――ではあるまい。
男女としてのことだろう。
権力も影響力もあるから、声を掛ければ誰でも尾を振ると思っているのだ。
ロチェスにそういう価値観はないというのに。
「僕と付き合えば、将来は参謀本部か補給部の幹部ぐらいにはしてあげられる。もちろん、結婚すれば軍幹部の夫人だ。地位を約束され、誰もが目を見張る美男美女カップルになれる。断る理由、ないよね?」
「えーと。ごめんなさい。私あなたのこと、そういうふうには見れなくて。今は仕事に専念したいですし」
仕事中にも何かしら理由をつけては口説きに来ていて、迷惑だったのだ。
仕事が進められず、公私混同はやめてほしいと切に願っていた。
「仕事なんてやめてくれていいんだよ。君は僕のことさえ支えてくれれば・・・」
「いえ。仕事好きですから。それに、仕事がなくても、あなたとは付き合えないです」
「え? もしかして本気で断ってる? まさかね」
「いえ。本気です」
むしろ、正直迷惑だと思っている。
そこまではさすがに言えないが。
「は? ありえない。おじいさまの孫の僕と付き合えば、いい思いができるんだぞ?!」
ふんぞり返ってそんなことを言ってくるが、ロチェスからしたら、だから何? だ。
「自分の実力で高みに立てるのは素晴らしいことです。ですが、人の成果――いえ。名前や権力で得られる高みに価値は見出せません。私とあなたでは、価値観が違うんですよ」
「はぁ? 訳の分からないことを言うな! 女のくせに生意気だぞ!」
「男か女かに、どれほどの違いがあると?」
「全然違う! 男に尽くして子供産むしか能のない生き物が聞いた風なことを言うな! 黙って俺のモノになってろバカが!」
「ふぅ。本性が出てますよ。おことわりです!」
「コイッぅ! 絶対に許さない。ロチェス。僕を振ったことを後悔させてやる!」
黙っていれば『端整』といえる顔を歪めて、『軍部重鎮の孫』は捨て台詞を放って去っていった。
軍の訓練に来ても、何もせずぼうっと座っているか、下級兵を小突き回して笑っているだけの男だ。
軍関係者でなければ、口を利くのもお断りである。
許さないと言われても、無理なものは無理だ。
女として、いやそれ以前に人として無理だった。
だけど。
彼——祖父——の影響力は本物だ。
直後からロチェスに関するありもしない悪い噂が出回り始める。
備品を着服しているとか、男と見れば物陰に引きずり込むとか、そんな噂だ。
結果、軍内の部署に居場所がなくなり、理由をつけては他の部署へと送り込む厄介者扱いをされるようになっていく。
今回の『北方方面軍』へ派遣される監察官の役職も、その結果回ってきた仕事だった。
新設されたばかりの上、いつ最前線になるかもわからない辺境になんて誰も来たくなかったのだ。
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