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【ディアナ編】
第3話 波紋 ①
しおりを挟む「足労をかける」
「ははっ」
緊張の面持ちで、カロスタークは跪いた。
国王直々に呼び出しを受け、私室に通されていた。
直接の会話は初めてではないが、私室へ通されたのは初めてのことだ。
フィオーレの友として入ったことはあるが、個人で通されたのは初となる。
これで緊張しない人間なんているだろうか?
横には宰相もいる。
二人きりではないのが、救いである。
「一つ、頼みたいことがあっての」
頼みたいこと——私的に命令したいこと——があるらしい。
目的が分かった。
元から下げている視線を、カロスタークはさらに下げた。
思わず、『面倒そうだ』と顔が歪みそうになったので隠したかったのだ。
国王自ら、貴族の一人を私室に招いてまでする『頼み』。
絶対にロクなものではないだろう。
「私などで、できることなのでしょうか?」
他に適任者がいるのでは?
遠回しの問いかけをした。
「実は誰に頼もうかと人選をしていたのだが、先日のパーティーでのことが耳に入っての」
エマの件だ。
国王が気にかけるような大事だったか?
関係者の家柄や役職を思い出すが、そんなはずはないと否定する。
ならばなぜ話題に上る?
「お主は『金』には強いが人との繋がりには疎いとの評価があった。そうでもないのだな」
いえいえ、経済の話ならどんな相談でも受けますが、他はダメですよ。
口から出ようとした言葉を、カロスタークは必死で嚙み殺した。
行ってしまえば楽だろうが、いろんな意味で『楽』な体にされかねない。
自重が肝心だ。
「ゆえに、経済の話ではないからと、そなたのことは人選から外していたのだが思い直したのだ。身分も侯爵になったことだし、ここはもう少し活躍の場を広げてよかろうとな」
「身に余るかと」
『身に余る光栄』と言うべき場面だが、カロスタークは途中で言葉を切った。
本音としては、「買い被りが過ぎる!」との抗議だ。
まさか、エマのことに介入したことで、こんなことになろうとは。
後悔しそうになるのを、昨夜のエマを思い出して何とか宥めるカロスタークである。
「なに。大した問題ではないのだ。ちょっと極端な人間至上主義の政策を執る州がある。その問題解決を頼みたい。と言うだけのことなのだよ」
じゅうぶん大したことあるわ!
罵声が出かかった。
斬首刑の幻影が脳裏に浮いたから思いとどまったものの、カロスタークの冷や汗が止まらない。
人種問題は根が深い。
一朝一夕でどうこうなる問題じゃないのだ。
いっそ、帝国を滅ぼす『だけ』で何とかなる北王国問題の方が簡単だとさえいえる。
「ほ、法で制約をかけるとかできないのですか?」
「そなたも領主だ。わかっておろうが、州内のことは各領主の裁量に任されておる。国全体であれば、国際規約が物を言うが国内の州レベルでは何も言えぬ。虐殺をしたなどと言う明らかな非道が行われていない限り口は出せん」
「そう、でしたね」
わかってはいた。
カロスタークにいよいよ絶望感が広まっていく。
「法では裁けず、それゆえ武力でどうこうするわけにもいかん。なにより、最大の問題は相手が公爵家だということなのだ」
「公爵、ですか」
「余の姉の嫁ぎ先となる」
「あー。それはまた」
どんどん無理な理由が積み上がる。
カロスタークはもはや悟りの境地を開いたかのような心境だった。
「ということだからな。なにか策をもって、納めてみせよ」
国王の下命が下った、
「はは」
受けるしかないので頭は下げる。
でも、どうしろと?
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