商人の男と貴族の女~婚約破棄から始まる成り上がり~

葉月奈津・男

文字の大きさ
199 / 261
【ディアナ編】

第7話 タイでエビを釣るがごとく ②

しおりを挟む
 

 予想通り、公爵は会うことにしたようだ。
 執事に促されて、カロスタークは歩を進める。

 顔ぶれはカロスタークとセザールは当然として、ライアンとミーランの姿もあった。
 他に護衛の兵が3人である。

 対する公爵側は公爵家当主と執事、そして騎士が8人である。
 のっけから、高圧的に出る気満々の布陣だ。
 穏やかに話す気ならば、相手より少ない人数で安心を誘うものなのだから。

「儲け話には鼻が利くらしいな」
 部屋に入り、視線が合ったとたん言い放たれた。

 挨拶すら交わす意思がないようだ。
 しかも自分はソファにふんぞり返っていて、カロスタークには着席を勧めていない。
 立たせたまま応対するつもりだ。

「そちらは随分と面白そうなものを作ろうとしておられますな」
 ちっとも面白くない表情と声で、軽くつつくカロスターク。

「それを知っていて、『蛇』と『鳥』を我が屋敷に入れるとはな」
 ライアンとミーランを見ながら、少し高い声で公爵が返した。

「『蛇足族』と『翼人族』ね」
 カロスタークは訂正を入れる。

「二匹ともそこに這え。特に蛇はそれが世の習いであるぞ」
 床を指し示して、公爵は命令した。

 二人は、眉一つ動かさず無視をした。
 こういう反応は想定済みだ。

 想定していなかったのは公爵の側である。
 怒りで前に出るか、おびえて下がると踏んでいたのだ。

 動いたら、すかさず斬りかかる心づもりで待機していた。
 なのに動かない。
 調子を狂わされた。

 その結果、一瞬だが動きが硬直した。
 同時に、コトが動く。

 カロスターク側の護衛が動いたのだ。
 これは完全に予想外だった。

 動くとしたら馬鹿にされた、脅された、『亜人』二人。
 貴族の護衛が、間違っても公爵家の者に歯向かうはずがない。
 その常識が、この場での趨勢を決めた。

 残念なことに、セザールが集めた騎士団員は皆、権威に対してありがたみを感じない者たちだ。
 始めから、一人残らず『処理対象』と聞いていたので躊躇ったりしない。
 
 これも、公爵側にとっての予想外だ。
 まさか、いきなり殺しにかかるとは思っていなかった。
『蛇』と『鳥』を連れてきたのが、自分たちに注意を向けさせるためだったとは思いつきもしなかったことも致命的な隙を作る。

「クスッ」
 小さく笑った女が、わずかな動きで隠し持っていた細い投げナイフを投げる。
 暗殺に特化したスキル持ちの面目躍如の動きだ。

「あはっ」
 同様に、楽し気な笑い声をあげた女がいる。
 貴族のごとき美貌で、持っているのはハンマーだ。

 ぐしゃ!
 気持ちの悪い音がして、公爵の足が潰された。

「は?」
 執事が呆然と声を洩らし、当の公爵は目を見開いて潰れた足を見下ろしている。
 あまりに強い痛みのせいか、脳が痛覚を否定しているようだ。

「おわり」
 三人目も女だ。
 両手の手の平に炎の玉を載せている。

「ま、まて」
 執事が咄嗟に声を上げたが遅い。

 炎の玉は天井と床に投げられている。
 そして・・・発火した。

「公爵様におかれましては、不慮の火事でお亡くなりになられたよし。謹んで哀悼の意を捧げ、ご冥福をお祈りする」
 慇懃に、カロスタークは頭を下げた。
 セザールも、静かに弔意を伝えている。


 火事で死亡。
 それが、カロスタークの選んだ平穏な解決だった。
 これなら、宰相も文句はあるまい。

『公爵は火事の中、倒れてきた柱に足を潰されて逃げること叶わず焼死した』。

 それが、正式な記録である。



「さて、後始末に入ろうか」
 ゆっくりと歩きだしながら、カロスタークは仲間たちに声をかけた。
 背後からは今更ながら悲鳴を上げる公爵の声が響いているが、気にした様子もない。

 新規工事の依頼を受けて下見に来ていたレッドルア侯爵は、不慮の事故に接して公爵領の安定のため臨時に現場での指揮を執ることとした。

 という大義名分のもと、今後に憂いを残しそうなものをことごとく排除する。
 それが、後始末だ。

 悪辣な行為に手を染めていた者どもを、『公爵に無断で勝手なことをしていた愚か者』と称して捕らえ、処刑するのである。
 公爵邸の火事も、その者たちの怠慢が招いた事故、または不正に気付かれたため誤魔化そうと火を放ったことにしてもいい。
 ともかく、公爵に従っていた者たちはことごとく地獄へ放り込むことになる。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

拝啓~私に婚約破棄を宣告した公爵様へ~

岡暁舟
恋愛
公爵様に宣言された婚約破棄……。あなたは正気ですか?そうですか。ならば、私も全力で行きましょう。全力で!!!

老婆令嬢と呼ばれた私ですが、死んで灰になりました。~さあ、華麗なる復讐劇をお見せしましょうか!~

ミィタソ
恋愛
ノブルス子爵家の長女マーガレットは、幼い頃から頭の回転が早く、それでいて勉強を怠らない努力家。さらに、まだ少しも磨かれていないサファイアの原石を彷彿とさせる、深い美しさを秘めていた。 婚約者も決まっており、相手はなんと遥か格上の侯爵家。それも長男である。さらに加えて、王都で噂されるほどの美貌の持ち主らしい。田舎貴族のノブルス子爵家にとって、奇跡に等しい縁談であった。 そして二人は結婚し、いつまでも幸せに暮らしましたとさ……と、なればよかったのだが。 新婚旅行の当日、マーガレットは何者かに殺されてしまった。 しかし、その数日後、マーガレットは生き返ることになる。 全財産を使い、蘇りの秘薬を購入した人物が現れたのだ。 信頼できる仲間と共に復讐を誓い、マーガレットは王国のさらなる闇に踏み込んでいく。 ******** 展開遅めですが、最後までお付き合いいただければ、びっくりしてもらえるはず!

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

乙女ゲームに転生するつもりが神々の悪戯で牧場生活ゲームに転生したので満喫することにします

森 湖春
恋愛
長年の夢である世界旅行に出掛けた叔父から、寂れた牧場を譲り受けた少女、イーヴィン。 彼女は畑を耕す最中、うっかり破壊途中の岩に頭を打って倒れた。 そして、彼女は気付くーーここが、『ハーモニーハーベスト』という牧場生活シミュレーションゲームの世界だということを。自分が、転生者だということも。 どうやら、神々の悪戯で転生を失敗したらしい。最近流行りの乙女ゲームの悪役令嬢に転生出来なかったのは残念だけれど、これはこれで悪くない。 近くの村には婿候補がいるし、乙女ゲームと言えなくもない。ならば、楽しもうじゃないか。 婿候補は獣医、大工、異国の王子様。 うっかりしてたら男主人公の嫁候補と婿候補が結婚してしまうのに、女神と妖精のフォローで微妙チートな少女は牧場ライフ満喫中! 同居中の過保護な妖精の目を掻い潜り、果たして彼女は誰を婿にするのか⁈ 神々の悪戯から始まる、まったり牧場恋愛物語。 ※この作品は『小説家になろう』様にも掲載しています。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

靴を落としたらシンデレラになれるらしい

犬野きらり
恋愛
ノーマン王立学園に通う貴族学生のクリスマスパーティー。 突然異様な雰囲気に包まれて、公開婚約破棄断罪騒動が勃発(男爵令嬢を囲むお約束のイケメンヒーロー) 私(ティアラ)は周りで見ている一般学生ですから関係ありません。しかし… 断罪後、靴擦れをおこして、運悪く履いていたハイヒールがスッポ抜けて、ある一人の頭に衝突して… 関係ないと思っていた高位貴族の婚約破棄騒動は、ティアラにもしっかり影響がありまして!? 「私には関係ありませんから!!!」 「私ではありません」 階段で靴を落とせば別物語が始まっていた。 否定したい侯爵令嬢ティアラと落とされた靴を拾ったことにより、新たな性癖が目覚めてしまった公爵令息… そしてなんとなく気になる年上警備員… (注意)視点がコロコロ変わります。時系列も少し戻る時があります。 読みにくいのでご注意下さい。

【連載版】婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
短編では、なろうの方で異世界転生・恋愛【1位】ありがとうございます! 読者様の方からの連載の要望があったので連載を開始しました。 シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます! ※連載のためタイトル回収は結構後ろの後半からになります。

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...