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【レッドルア家の軌跡編】
第5話 綱があれば引くものだし、引手は増えていく ②
しおりを挟む宰相府は顔パスで通された。
それだけ信頼があるのだ。
扉の前まで行くと、宰相の執事が待ち構えていて扉を開けてくれた。
「来たか。雀どもが囀っていただろう?」
執務室へと入った女に、宰相が声をかけた。
市井の者たちが噂を言い合っていただろうという意味である。
「はい。かなり広範囲に、しかも具体的な話が流布されているようです。まるで、誰かが意図的に流しているかのように」
「そうだ。王妃様は王の姉とその娘をレッドルア侯爵に押っ付けることに全力を挙げておられる」
「そのようなことで侯爵を留めておけると本気で考えているのでしょうか? それとも、それでなんとかなるような方なのですか? レッドルア侯爵というのは?」
「それだけでなんとかできるとはさすがに思っていないだろう。ただ、このままディアナ様に王の姉ずらして王宮にいられるのは困るというのは間違いないことなのだ」
公爵が死んだ後、荒れに荒れた公爵領は王家直轄となった。
その後、夫人であり国王の姉でもあるディアナは娘ともども王宮内にいる。
事実上の軟禁であることは限られた者しか知らされていない。
だが、王妃にとっては目障りであり続けているのだ。
王の血を引く者が、王妃の目の届く場所にいるというだけで、十分に不快なのだろう。
「では、体よく追い出すための方便という側面もあると?」
「おそらくな。ついでで侯爵を引き留めるのに役立てば重畳といったところだろう」
「閣下はどうお考えで?」
「レッドルア侯爵は有能だ。王国に資すること多き人物である。今後も重要な存在となるはずだ。しかし——」
宰相はわずかに眉を顰めて言い淀んだ。
何やら思うところがあるらしい。
「しかし?」
はっきりとは言いたくないのだろうが、そこをハッキリさせてもらわないと仕事にかかれない。
女は敢えて踏み込んだ。
「王家に近づきすぎるのは考え物だ。場合によっては王位継承権が発生しかねない。それは避けたいのだ」
「なるほど」
娘のセレリィならまだいいが、王姉のディアナとの間に子供でも出来たら王位継承権が確実に発生することになる。
それは確かに厄介だった。
王家の血筋を盾に、レッドルア家が王位に手を伸ばす未来は、今の王政にとって最悪の展開だ。
「その状況。当の侯爵はどう見ているのでしょうか?」
「それだ。それを知りたいのだよ」
静かな、しかし強い口調。
女は背筋を伸ばした。
今回の任務は、国家の行く末を左右するものになる。
そう悟ったのだ。
「同意見の貴族や軍閥の長たちからも警戒の声が上がっている。お前を呼び戻したのはこのためだ」
「レッドルア侯爵の本音を探れと?」
「または、その周辺だな」
「ああ。周辺、ですね」
レッドルア侯爵はとかく曰くのある女性を引き込む体質であるらしい。
災難に遭っては女性を拾い、女性と関わっては災難に見舞われる。
そのくせ、本人はどこ吹く風で、まるでそれすらも計算のうちといった顔をしている。
結果、周辺にはクセの強い女ばかりが揃っているのだ。
だが、だからこそ、そこにこそ真実がある。
侯爵の本音を知るには、彼女たちを見よ——それが宰相の言わんとすることだ。
「承知しました」
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