商人の男と貴族の女~婚約破棄から始まる成り上がり~

葉月奈津・男

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【歴史の礎編】

第14話 方針は変わらず ②

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「いい仕事をしたんだがな。後味が悪すぎるな」
 パドックがぼやいている。

 帝国軍本隊がリューイン州へ、エルウィンの買い出し隊が水の帝国へ、それぞれ向かったあとのことだ。
 宿営跡に、買い取った食糧を取りに来ている。

 目当ての物は幸いにして、隠したと聞いていた場所で見つかった。
 だが、見つかったのは食糧だけではない。

 彼との取り引きに応じた者、秘書官以外のすべてが転がっていた。
 首と胴体が離れた姿で。

 中には全く関係がないが、関係していたとしても不思議ではない立場のものも含まれている。
 手間をかけての詮議はされず、一様に責任を取らされたのだろう。

 二百に上るだけの首が転がっている。
 これも、戦力減と言えるだろうか?
 わからないが、戦いが始まる前だというのに、帝国軍は確実に損害を出し始めている。



「腹減ったな」
 減量支給は、今朝から始められた。
 お椀に半分の麦粥である。
 多少の根野菜が入るとはいえ、ボリューム感は皆無である。

「言うな。よけいに腹が減る」
「減量支給にしたってすくなすぎねぇか?」
「だから、言うなって! しょうがねぇだろ。全員に行き渡るように配ったら、あの量だったんだから!」
 歩く雑兵たちの間で、そんな会話が交わされていた。

 食糧の残りを数えた結果と、そこから算出された日数に間違いはない。
 ただ、基とすべき数字に致命的な齟齬があった。

 前提とされた帝国軍兵士の総数は四万八千、ざっくりと五万人として計算されていた。
 しかし、実態は六千人増えていて、五万四千人になっている。

 この四千人の差が、兵士たちの腹具合に影響していた。
 通常の減量支給よりも一割弱、量が少なくなっているのだ。

 一日中歩く彼らのカロリー消費を考えれば、少なすぎる量なのである。
 腹も減ろうというものだ。

「なんで、こんな急に減ったんだ?」
「荷馬車が燃やされたからだろ?」
「にしたって、極端過ぎねぇか?」
 燃えた荷馬車はせいぜい五台くらいだったはずなのだ。

「俺が聞いた話しによると、補給部隊のヤツらが横流ししてたらしい。それがバレて調べ直したんだな。で、かなりやばいくらいなくなってたんだと」
「マジかよ!」
「宿営畳むとき、なんか固まって動かないヤツらがいたろ? あれ、横流ししたヤツらで、俺らが出発したあとで、こうだったって話だ」
 手で首を刎ねる仕草をして見せる。

「うへぇ」
「勘弁してくれよ」
「やってらんねぇぜ」
 飯が食えるから兵士をやっている身からすると、こんなはずじゃなかった感が強くなる。

「その代わり、町に入ったら好きなだけ略奪していいってよ」
「・・・そう言われて喜べるとこまでは落ちてねぇんだけどな」
 指導者的立場の者たちには現場が見えていない。

 戦利品の量しか見ないので、略奪行為への嫌悪感を抱きにくい。
 たが、実際に現場で略奪する者たちには、財産を奪われまいと抵抗する市民も見えるし、惨殺された死体も見える。

 犯されて泣き叫ぶ女性、母親を探す子供の声も聞こえる。
 そんな状況を楽しめるのは人間ではない。
 ケダモノだ。

 彼らは人間だった。
 わずかにいるケダモノどもが暴れるのを遠くに聞きながら、持ち主が逃げ出した店や家で空き巣をするのが関の山なのである。

「あーあ。飯が食えないんじゃ、ホームレスやってたほうがマシだったかもな」
「そだな。行軍中じゃ魚釣りもできねぇもんな」
 仕事がなくても森や川はある。

 町や里にいれば、飢える心配はなかったのだ。
 それでも募兵に応じたのは、麦が食えるから。ときどきなら肉も食えると聞いたから、だ。

 なのに、肉が出たのは最初だけ、そのあとは芋や大根ばかりの麦粥ばかり。
 腹いっぱいにはしてもらえたから、文句も言わずにいたが、とうとう量まで減らされた。

 腹が鳴る中、ひたすら歩かされている。
 こんなはずじゃなかったと、雑兵たちの中で不満が高まりつつあった。

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