商人の男と貴族の女~婚約破棄から始まる成り上がり~

葉月奈津・男

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【歴史の礎編】

第16話 王と成るべき者 ②

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 ガウェインが不退転の決意で、トルーアン州領主ドルドアン子爵の居城を目指して移動を始めた頃。
 同じく移動を開始した者たちがいた。

 耳の長い者たち、『耳長族』である。
 王国の全域に、カロスタークもまた動員令を出していた。

 レッドルア公爵の名で。
 曰く、「大きな事業を開始するのに一人でも多くの人手を必要としている。金は安いが食事は支給するので、誰でもいいから助けてくれ」と。
『翼人族』を通じて、王国中の広場で救援要請したのだ。

 広場には数人の耳長族もいた。
 一部には隊商を持つ者もいるが、彼等も『亜人』。
 王国内では差別の対象だ。

 長期に雇い入れのある仕事は少なく、短期の仕事を求めて彷徨う者が多いのだ。
 要請を聞いた耳長族は、いそいそと仲間のもとに知らせに行き、相談をした。

「なんか、助けてほしいらしい」
「いくらくれる?」
「金は安い。でも食わせてくれるそうだ」
「ふーん。誰がだ?」
「カロスターク様だ」
「?!」

 耳長族の種族全体での動きは早かった。
 その日の内に大移動が始まったのだ。

『亜人』排斥の風潮がある王国内の町に長期間居住するような家は持てない。
 ほとんどの者が定住先を持たないホームレスだ。
 移動の準備をするのに時間はかからない。

 滞在場所が同じ地域にある者たちが集まったと見るや動議が行われ、全員一致で「カロスターク様を助ける」ことが決定したのだった。
 働き手の男たちはもちろん、年寄りから女子供に至るまでもが参加している。
「なにができるかわからないけど、きっとなにか手伝える」、と。


「な、なんだ? お前らなにしに来た?!」
 関所の門番は、大挙してやって来た耳長族に驚き、思わず槍を構えて叫んだ。

「リューイン州へ行くのだ」
 耳長族の男が答えた。

「リューイン州へ?」
 門番は納得したように槍を下ろした。

 以前から、化け物はリューインに行けばいいんだ、という話を仲間ともしている。
 それが現実になったのだと理解したのだ。

「行っていいか?」
「あ、ああ」
 街の出入りには通行料が必要だが、街の外を移動するだけならタダだ。

 止め立てする理由がない。
 門番は道をあけ、耳長族が続々と領地を出ていくのを見送った。


 次に動きがあったのは、各地の岩山に住み着いていた『ノーム(ノイド)』だ。
『亜人の町』近郊にいる同種族からの手紙による要請を受けてのものだった。
『仕事を貰った。でも数が多い。手伝って欲しい』と。

 彼等は、少数のグループでバラバラに暮らしているが、そこに理由はない。
 なんとなく気に入った山にいるだけだ。
 そして、岩の加工が好きな職人でもある。

 であるのに、人里離れた地に住むのは人族に嫌われていて、何もさせてもらえないからだ。
 かつては家づくりを手伝ったこともあるというのに。
 自分たちでできるようになると、『ノーム』たちを追い出しにかかった。

 だから、彼等は人族が興味を持たない岩山に住んでいる。
 加工できる岩がたくさんあるからだ。
 普段は、目的もなくいろいろな加工を楽しんでいるだけ。

 そこへ、『仕事』があるという。
 頼まれてのこと。
 彼等は、期待に目を輝かせて移動を始めるのだった。


 続いて動くのは蛇の下半身を持つ種族『蛇足族』だ。
『翼人族』によって届けられた手紙がきっかけだった。

 手紙の送り主はミザーリだ。
 内容は北部への帰還を促す檄文である。

 帝国と周辺諸国との先の戦いで、全面戦争を避けて里を出た。
 追い出される形で王国へと逃げ込んだ。
 それは間違いだった。

 いまや、『蛇足族』は里を失い流民と化している。
 種族として滅びに向かっている。

 子供や孫たちのため、種族の未来のため、起ち上がるときがきた。
 そういう論調で語りかけられた『蛇足族』たちもまた、一斉に動き出したのである。
 定住できる里を取り戻すために。


『竜鱗族』もまた、動き始めていた。
 各地で土木業に従事していた彼等だが、カロスタークが道を整備し始めたあたりから仕事が減っていた。

『土木工事はレッドルアにやらせとけ』と解雇されていたのだ。
 結果的には、カロスタークが全員雇って『領道』の基礎作りを任されていた。
 だから収入はむしろ増えていて不満はない。
 ただ・・・。

 現地視察のたび、声をかけてくれていたカロスタークやその部下たちが来なくなって、彼等は寂寥を感じていた。
 地元の町では、誰一人声をかけてくれる人間がいなかったからだ。

 同種族の仲間としか接点がない。
 すぐそこに、人間の町があって賑わっているのに。

 青光りする竜の鱗を持つ二足歩行の蜥蜴。
 その独特すぎる外見から嫌がる人間が多いためだ。

 もちろん、彼らも知っている。
 この姿を見ても嫌悪ではなく、良好な態度で接してくれる街があることを。

 その街へ旅をし、人間やエルフ、翼人族に蛇足族とすら飲んで踊った竜鱗族もいる。
 幻ではなく、確かに存在するのだ。

 だが、そこへ安易に向かうことは、はばかられた。
 少数なら我慢できることも、数が増えれば耐えられなくもなる。
 集まり過ぎるのは、よくないのではないか?

 頼まれた仕事もある。
 遠慮した結果、レッドルア領以外に住む竜鱗族は動かずにいたのだ。

 そこへ、カロスタークの事業参加のお願いである。
 自分たちの勝手な意志ではない。
 求められてのことだ。

 わずかな躊躇のあと、彼らもまた立った。
 自分たちを、化け物と呼ばない人々のために。

 かくして、王国中の異種族が、リューインへ向けて大移動することになる。

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