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【歴史の礎編】
エピローグ ~歴史のページを閉じるとき~
しおりを挟むこのとき、歴史の趨勢は定まった。
ガウィンが出撃を命じたとき、帝国内でも出撃の声が上がっていたのだ。
きっかけは、鳩だ。
足に銅の筒が結びつけられた鳩だった。
『伝書鳩』である。
帝国遠征軍を背後から監視していた者が放ったものだった。
受け取ったのは第二皇子の軍事顧問を務める伯爵だ。
伝書鳩がもたらした『帝国は敗北』、『守勢は攻勢に転ず』の報を受けて彼は叫んだ。
「全軍出撃!」と。
その声は歓喜に震え、目は血走っていたという。
第二皇女の王国遠征は帝国の者にとっても突然のものだった。
妨害することも、参戦することもできない早技だったのである。
話を聞いた他派閥の者たちは唖然として、後に臍を噛んだ。
遠征に成功すれば、第二皇女が帝国初の女帝となる道がほぼ固まるからである。
後塵を拝することになった各派閥は、勝ちすぎるなよ、なんなら負けてこい、そんな思いを胸に見送ったものだった。
そして、可能性は低かったが、敗北したとなったら即座に第二皇女派の切り崩しを行うべく、準備していたのだ。
ゆえに伯爵からの早馬による知らせを受けた第二皇子派の貴族は、事前に定めておいた第二皇女派の貴族領へと攻め込んだ。
自軍の半数以上を遠征に出していた各貴族は、戦いにもならずに降伏。
第二皇子派に取り込まれることになる。
同時に、優先順位の低かった下級貴族には第一皇子派に鞍替えして、難を逃れる者もいた。つまり、第二皇女派は数日で瓦解・消滅したことになる。
第二皇女本人がどうなったか?
これについて、歴史は『生死不明』としか記していない。
正式に処刑はされておらず、戦死したとの証言もないためだ。
のちに、よく似た人物の目撃情報はあるが、誰一人として追求はしなかった。
敵対関係にあった人物の側室が似ている、などと噂するわけにはいかなかったから。
ともかく、帝国はそのまま第一皇子と第二皇子による内戦状態に突入していくことになる。このため、北王国の再興は見逃された。
内部統制が取れない状態で、外部に目を向ける余裕がなかったからだ。
かくて、国土の六割以上を取り戻した北王国は、急速に復興していくことになる。
王国はと言えば、帝国の敗戦と首謀者の第二皇女が生死不明との報を受け、国王代理は毒を飲んで命を絶った。
妻はすでになく、忘れ形見の姪の命運も尽きた。
生への執着を失ったのだろうとされる。
軟禁されていた国王が、意識を回復したとの発表のあと玉座に復帰。
元の鞘に収まるものと思われた。
だが、そうはならない。
レッドルア公爵が王国からの独立を宣言。
国土の実に三割が失われることとなったからだ。
こうして、帝国と王国の間に二つの国家が生まれ、1年後には大きな連合国家が誕生する。
これは、北王国の王を中心にした、世界初の議会制国家の誕生でもあった。
初の議会には、カロスタークも参加していた。
他の議員は全て女性で、カロスタークの妻が占めていたのだが議会は正しく運営されたことがわかっている。
全員が理性的に行動し、私利私欲では動かなかったからだ。
身内だけで利益を得ることもなかった。
むしろ、レッドルア家とは関わりのない者にこそ利益を分け与えた。
ゆえに、レッドルア家の権威は、その後百年は揺るがなかったのだと、当時を知る人々は伝えている。
血で血を洗う骨肉の内乱を経て、弱体化しつつ再統一された帝国。
求心力を失った王家に代わり、民政に移行し始めた王国。
二つの国を同盟関係という建前のもと傘下に置いた連合国家は、国際連合の礎を築いていく。
百年後に行われた調査によれば、世界の有力者の実に三割がカロスタークを祖にする者だとされた。
一説によれば、カロスタークの子供は認知されていない者も含めると千人を超えるといわれている。
真偽のほどは定かではない。
だが、彼の血を引く者が各地に存在するのは確かだ。
「マシな人間は金を残し。よきものは仕事を残し。偉大なるものは人を残す」
有名な格言だが、商人の妾の子として生まれたカロスタークは、国と、歴史と、子を残したのだった。
これが、後の世に『花摘み公爵』の名で知られるカロスターク・カロ・レッドルアの前半生となる。
なお、後半生となる『赤糸紡ぎの議長様』については、関わった人物の多さから正式な公表に許可が下りないため割愛する。
同じ理由で晩年の『旅するご隠居』も公式には出されないことが残念である。
いつの日か、表に出されるときが訪れることを祷りつつ、筆を置く。
セザンヌ・モンモラシー・レッドルア。ここに記す。
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