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第12話 遺された日記
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雨に打たれながら、リアムは饅頭屋の家にようやく帰ってきた。
リアムは何も言わずに家の中に入る。ただいまと言っても、もう返事をしてくれる人はいない。濡れた身体を拭くこともせずに、そのまま居間に入った。
血が飛び散っていた居間だが、今ではもうそれが嘘だったかのように綺麗になっていた。
殺人現場をずっとそのままにする訳にはいかない。自警団の協力を得ながら、リアムは家の中を元通りにしたのだった。
「……」
家のほとんどの部屋は元通りにした。しかし、ある部屋だけ、リアムはまだ手をつけていなかった。
今日こそはその部屋を元に戻そうと、リアムはその部屋に移動する。部屋の中に入れば、物が散在しており、その部屋で人攫い達に襲撃されたのだろうということが分かる。
「リリィ……」
リアムは、もういない部屋の主の名を呟く。
その部屋は、リリィの自室だった。
ビリビリに破れ、その中身を出している枕。人攫いたちの武器によって傷付いたであろう部屋の壁。本棚から落ち、無造作に床に散らばっている本たち。
リリィが過ごしていた場所をぐちゃぐちゃにされ、リアムは人攫いたちに怒りを覚えるが、今はここを片付けなければ、と怒りを心の奥底にしまい込む。
リアムが最初に手をつけたのは、本の片づけだった。
ページが破られ、もう読むことが難しいであろう本は捨て、少し汚れているだけでまだ読める本は取って置くことにする。なるべくリリィのものを綺麗に残しておきたいリアムは、本を一つ一つ丁寧に扱っていく。
「ん……?」
片付けの最中、リアムは一冊のノートを見つけた。
一見しただけだと、すぐに捨ててしまいそうになるほど汚れているノート。その汚れ方から、長い間、リリィが大切に使っていたことが分かる。表紙には『㊙︎』とだけ書かれていて、リアムはその中身が気になり、ノートを開く。
そのノートは、新作の饅頭の材料や作り方について書かれた物だった。事細かに書かれており、最後には新作に対するリリィの感想が一言書かれていた。
『今日の新作の饅頭は、塩の分量が多すぎた!』
久しぶりに見た、リリィの綺麗な文字。
リアムはノートをゆっくりとめくっていく。
めくるにつれ、最初は一言程度だったリリィの感想が、どんどん長くなっていき、レシピ以外にも、その日あった出来事などが書かれるようになっていった。
それは、まるで日記のようで。
そして、あるページを見て、ノートをめくる手が止まった。
『今日、お兄ちゃんが自警団の訓練生になった』
リアムが自警団に入ることに反対だったリリィの言葉。
見ることが辛くても、見なければならない。なぜかリアムにはそのように感じられた。だからこそ、この日記を閉じることはできない。たとえ、リリィが自分のことを責めることが書かれていたとしても。
『ほんとは嫌だった。今まで一日中ずっと一緒にいたお兄ちゃんが、どこかに行ってしまうような感じがして怖かった。お父さんやお母さん、私のことを嫌いになったのかなって不安にもなった』
リリィが今まで言わなかったことが書かれている。死際の言葉で初めてリリィの気持ちに気づいたリアムは、リリィの思いを知りたいとさらに読み進めていく。
『お兄ちゃんを止めたかった。でも、真剣な様子で自警団に入りたいって言ったお兄ちゃんを止めることができなかった。町の平和のために戦うこと、それは間違っていることじゃないから。だから、精一杯応援することに決めた!』
いつも訓練学校から帰ってきた時に、笑顔で迎えてくれたリリィ。彼女のあの笑顔にも意味があった。
その笑顔をもう二度と見ることができない。リアムは胸が苦しくなる。それでも、ページを捲る手は止めなかった。
『お兄ちゃんが自警団の服を着て見回りをしてたけど、隣りにユズハさんって綺麗な女の人がいて驚いた。今までユズハさんのことを教えてくれなかったお兄ちゃんの馬鹿!』
『今日は、ユズハさんが饅頭を食べに来てくれた。私のお願いを聞いてくれて、この人がお兄ちゃんの相棒で良かったと心の底から思った。あと、顔を赤くしたユズハさん、可愛かったなぁ』
リアムは一つ一つ丁寧に日記を読んでいく。リリィが遺した言葉をずっと読んでいたかったから。でも、何事にも終わりというものは訪れる。気づけば、日記の残りの頁はあと僅か。
『お兄ちゃんがプレゼントを買ってくれた。私よりもユズハさんに買うべきだって言っちゃったけど、本当はとても嬉しかった』
涙でリリィの文字がぼやけてくる。たった一度瞬きをすれば、涙はリアムの目から溢れ、そのままリリィの日記に落ちる。
『お兄ちゃんが私のことを大切に思ってくれている。それを感じることができて胸が暖かくなった』
『お礼にお兄ちゃんのために新しい饅頭を作ってあげよう。それが、私のできる精一杯のお返しだから』
『お兄ちゃん、喜んでくれるといいな』
そこで途切れた。
次のページをめくっても、次の次のページをめくっても、白紙のページが続くだけ。
日記がくしゃりとなる。
リアムの脳裏に、リリィとの思い出が蘇る。
初めて饅頭を作って喜んでいるリリィ。
喧嘩して頬を膨らませるリリィ。
帰ってきたら、笑顔でお帰りなさいと言ってくれたリリィ。
「ごめんな、リリィ……お兄ちゃんが守ってやれなくて……っ」
リアムは顔をぐしゃぐしゃにして、閉じた日記を優しく撫でる。リアムはゆっくりと窓を見た。外の雨は降り止みそうにない。
その窓に映る自分の顔はとても酷くて。
人攫いへの復讐を胸に誓いながら、今日だけは泣いてしまおうとリアムはリリィの部屋の中で涙を流すのだった。
リアムは何も言わずに家の中に入る。ただいまと言っても、もう返事をしてくれる人はいない。濡れた身体を拭くこともせずに、そのまま居間に入った。
血が飛び散っていた居間だが、今ではもうそれが嘘だったかのように綺麗になっていた。
殺人現場をずっとそのままにする訳にはいかない。自警団の協力を得ながら、リアムは家の中を元通りにしたのだった。
「……」
家のほとんどの部屋は元通りにした。しかし、ある部屋だけ、リアムはまだ手をつけていなかった。
今日こそはその部屋を元に戻そうと、リアムはその部屋に移動する。部屋の中に入れば、物が散在しており、その部屋で人攫い達に襲撃されたのだろうということが分かる。
「リリィ……」
リアムは、もういない部屋の主の名を呟く。
その部屋は、リリィの自室だった。
ビリビリに破れ、その中身を出している枕。人攫いたちの武器によって傷付いたであろう部屋の壁。本棚から落ち、無造作に床に散らばっている本たち。
リリィが過ごしていた場所をぐちゃぐちゃにされ、リアムは人攫いたちに怒りを覚えるが、今はここを片付けなければ、と怒りを心の奥底にしまい込む。
リアムが最初に手をつけたのは、本の片づけだった。
ページが破られ、もう読むことが難しいであろう本は捨て、少し汚れているだけでまだ読める本は取って置くことにする。なるべくリリィのものを綺麗に残しておきたいリアムは、本を一つ一つ丁寧に扱っていく。
「ん……?」
片付けの最中、リアムは一冊のノートを見つけた。
一見しただけだと、すぐに捨ててしまいそうになるほど汚れているノート。その汚れ方から、長い間、リリィが大切に使っていたことが分かる。表紙には『㊙︎』とだけ書かれていて、リアムはその中身が気になり、ノートを開く。
そのノートは、新作の饅頭の材料や作り方について書かれた物だった。事細かに書かれており、最後には新作に対するリリィの感想が一言書かれていた。
『今日の新作の饅頭は、塩の分量が多すぎた!』
久しぶりに見た、リリィの綺麗な文字。
リアムはノートをゆっくりとめくっていく。
めくるにつれ、最初は一言程度だったリリィの感想が、どんどん長くなっていき、レシピ以外にも、その日あった出来事などが書かれるようになっていった。
それは、まるで日記のようで。
そして、あるページを見て、ノートをめくる手が止まった。
『今日、お兄ちゃんが自警団の訓練生になった』
リアムが自警団に入ることに反対だったリリィの言葉。
見ることが辛くても、見なければならない。なぜかリアムにはそのように感じられた。だからこそ、この日記を閉じることはできない。たとえ、リリィが自分のことを責めることが書かれていたとしても。
『ほんとは嫌だった。今まで一日中ずっと一緒にいたお兄ちゃんが、どこかに行ってしまうような感じがして怖かった。お父さんやお母さん、私のことを嫌いになったのかなって不安にもなった』
リリィが今まで言わなかったことが書かれている。死際の言葉で初めてリリィの気持ちに気づいたリアムは、リリィの思いを知りたいとさらに読み進めていく。
『お兄ちゃんを止めたかった。でも、真剣な様子で自警団に入りたいって言ったお兄ちゃんを止めることができなかった。町の平和のために戦うこと、それは間違っていることじゃないから。だから、精一杯応援することに決めた!』
いつも訓練学校から帰ってきた時に、笑顔で迎えてくれたリリィ。彼女のあの笑顔にも意味があった。
その笑顔をもう二度と見ることができない。リアムは胸が苦しくなる。それでも、ページを捲る手は止めなかった。
『お兄ちゃんが自警団の服を着て見回りをしてたけど、隣りにユズハさんって綺麗な女の人がいて驚いた。今までユズハさんのことを教えてくれなかったお兄ちゃんの馬鹿!』
『今日は、ユズハさんが饅頭を食べに来てくれた。私のお願いを聞いてくれて、この人がお兄ちゃんの相棒で良かったと心の底から思った。あと、顔を赤くしたユズハさん、可愛かったなぁ』
リアムは一つ一つ丁寧に日記を読んでいく。リリィが遺した言葉をずっと読んでいたかったから。でも、何事にも終わりというものは訪れる。気づけば、日記の残りの頁はあと僅か。
『お兄ちゃんがプレゼントを買ってくれた。私よりもユズハさんに買うべきだって言っちゃったけど、本当はとても嬉しかった』
涙でリリィの文字がぼやけてくる。たった一度瞬きをすれば、涙はリアムの目から溢れ、そのままリリィの日記に落ちる。
『お兄ちゃんが私のことを大切に思ってくれている。それを感じることができて胸が暖かくなった』
『お礼にお兄ちゃんのために新しい饅頭を作ってあげよう。それが、私のできる精一杯のお返しだから』
『お兄ちゃん、喜んでくれるといいな』
そこで途切れた。
次のページをめくっても、次の次のページをめくっても、白紙のページが続くだけ。
日記がくしゃりとなる。
リアムの脳裏に、リリィとの思い出が蘇る。
初めて饅頭を作って喜んでいるリリィ。
喧嘩して頬を膨らませるリリィ。
帰ってきたら、笑顔でお帰りなさいと言ってくれたリリィ。
「ごめんな、リリィ……お兄ちゃんが守ってやれなくて……っ」
リアムは顔をぐしゃぐしゃにして、閉じた日記を優しく撫でる。リアムはゆっくりと窓を見た。外の雨は降り止みそうにない。
その窓に映る自分の顔はとても酷くて。
人攫いへの復讐を胸に誓いながら、今日だけは泣いてしまおうとリアムはリリィの部屋の中で涙を流すのだった。
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