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第四章 求道
第四章 求道 33
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同時刻、辻村――
街の中心部には、高い石垣に囲まれた平屋建ての妓楼が建っていた。
部屋の明かりは腰付障子を通して縁側を淡く照らし、室内から軽快な三線の音色と女の歌声が微かに外まで聞こえてきている。
そんな妓楼の一室である畳敷の部屋では、鮫島と光永、三人の若いジュリたちが宴会をしていた。
部屋には二つの食膳が置かれており、スクガラス(アイゴの稚魚の塩辛)、豆腐よう(発酵させた島豆腐)、グルクン(タカサゴ)のから揚げ、足ティビチ(豚足の煮込み)、泡盛がそれぞれ双方の食膳に乗せられている。
ジュリたちは長い黒髪をイナグカラジに結い、様々な色の着物を身に着けている。
ジュリの1人が正座し、琉球民謡の『多幸山』を歌いながら三線を弾く中で、別のジュリの1人は鮫島と共にカチャーシーを踊っていた。
一方、さらに別のジュリは光永の側に座り、2人でカチャーシーに目を向けている。
「光永さん、カチャーシーをご覧になるのは初めてですか?」
「あ、ああ。普段、あまりこういう店に来る機会もないものでな」
「この曲は、宿道沿いにある多幸山のことを謡っている民謡なんです。多幸山は山賊やイノシシが出る危険な所……けど、1人の女性がそんな山道を越えて、愛する男性に会おうとする様を謡っているんです」
「なるほど、男女の愛は山の危険すら越えるほど強いというわけか」
光永が感心した様子を見せると、鮫島は笑顔を浮かべながらジュリと光永の手を取った。
「さあさあ、2人も踊ろうじゃないか。カチャーシーは、みんなで踊るほうが楽しいというものだ」
鮫島がそう促すと、ジュリは小さく笑いながら立ち上がった。
「フフッ、そうですね。光永さんも、一緒に踊りましょ?」
「あ、ああ」
光永も立ち上がると、鮫島は光永の目の前で楽しげに踊ってみせる。
「光永君、わたしが踊り方を教えよう。男の場合は両拳を上げて左右に振りながら、拍子に合わせて足踏みするんだ」
「こ、こうでしょうか?」
光永が少々ぎこちなく踊り始めると、鮫島は踊り続けながら嬉しそうに笑みを浮かべた。
「うむ! なかなかうまいぞ、光永君! その調子で今宵は存分に踊ろうではないか! 楽しい夜はまだまだこれからだぞ!」
鮫島たちがはしゃぐように踊る中、街では多くの人々が通りを行き交い、賑わいを見せていた。
街の中心部には、高い石垣に囲まれた平屋建ての妓楼が建っていた。
部屋の明かりは腰付障子を通して縁側を淡く照らし、室内から軽快な三線の音色と女の歌声が微かに外まで聞こえてきている。
そんな妓楼の一室である畳敷の部屋では、鮫島と光永、三人の若いジュリたちが宴会をしていた。
部屋には二つの食膳が置かれており、スクガラス(アイゴの稚魚の塩辛)、豆腐よう(発酵させた島豆腐)、グルクン(タカサゴ)のから揚げ、足ティビチ(豚足の煮込み)、泡盛がそれぞれ双方の食膳に乗せられている。
ジュリたちは長い黒髪をイナグカラジに結い、様々な色の着物を身に着けている。
ジュリの1人が正座し、琉球民謡の『多幸山』を歌いながら三線を弾く中で、別のジュリの1人は鮫島と共にカチャーシーを踊っていた。
一方、さらに別のジュリは光永の側に座り、2人でカチャーシーに目を向けている。
「光永さん、カチャーシーをご覧になるのは初めてですか?」
「あ、ああ。普段、あまりこういう店に来る機会もないものでな」
「この曲は、宿道沿いにある多幸山のことを謡っている民謡なんです。多幸山は山賊やイノシシが出る危険な所……けど、1人の女性がそんな山道を越えて、愛する男性に会おうとする様を謡っているんです」
「なるほど、男女の愛は山の危険すら越えるほど強いというわけか」
光永が感心した様子を見せると、鮫島は笑顔を浮かべながらジュリと光永の手を取った。
「さあさあ、2人も踊ろうじゃないか。カチャーシーは、みんなで踊るほうが楽しいというものだ」
鮫島がそう促すと、ジュリは小さく笑いながら立ち上がった。
「フフッ、そうですね。光永さんも、一緒に踊りましょ?」
「あ、ああ」
光永も立ち上がると、鮫島は光永の目の前で楽しげに踊ってみせる。
「光永君、わたしが踊り方を教えよう。男の場合は両拳を上げて左右に振りながら、拍子に合わせて足踏みするんだ」
「こ、こうでしょうか?」
光永が少々ぎこちなく踊り始めると、鮫島は踊り続けながら嬉しそうに笑みを浮かべた。
「うむ! なかなかうまいぞ、光永君! その調子で今宵は存分に踊ろうではないか! 楽しい夜はまだまだこれからだぞ!」
鮫島たちがはしゃぐように踊る中、街では多くの人々が通りを行き交い、賑わいを見せていた。
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