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3、似ていない双子
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眼鏡をかけた僕が一階にある食堂を向かうと、すでにたくさんの男子生徒達が集まっていた。制服姿の生徒もいれば、寝起きのジャージ姿の生徒もいる。
少し緊張しながら、僕は食堂奥のカウンターへと向かった。セルフサービスの朝食をトレイに乗せる。
ご飯とみそ汁は自分でよそい、好きなオカズを選ぶ。ミニオムレツとシャケの切り身、いんげんのゴマだれ和え、ハムエッグもついでに取った。
一緒に朝食をとるような知り合いがいるはずもなく、僕は食堂の一番隅、開いているテーブルへとトレイを運ぶ。
「いただきます」
空腹だったことをさっぴいたとしても、かなりおいしかった。特にみそ汁が絶品だった。あまり期待していなかっただけに僕は少し感動してしまう。
僕が夢中になって食べている時だった。頭上からその声はかけられる。
「おいっ!」
箸を止め見上げる。トレイを持った男子生徒が立っていた。かなりの長身だ。180を軽く越え190近くあるだろう。男子にしては長い髪の毛がよく似合っている。文句なしのイケメンだった。
(ひょっとして、この席はこの人の席だったとか? きっとそうに違いない)
僕は慌てて椅子から腰を浮かした。トレイを持って移動をしようとする。
「おいおい、どこに行こうってんだよ?」
男子生徒が驚いた様子で言う。
「えっ? 席を開けろってことじゃ」
「ちげーよ。俺がそんなイチャモンつけるような奴に見えるか? くそっ、ショックだぜ」
大袈裟に嘆く男子生徒の後ろから、新たな声が響く。
「あんたの態度が悪いから転校生クンに誤解させちゃったんでしょーが!」
姿を見せたのは、制服姿の活発そうな女子生徒だった。
(えっ!? 女の子!? ここは男子寮なのにどうして!?)
困惑する僕の前で二人は会話を始める。
「そもそも、あんたの最初の挨拶は何? おいっ! だなんてありえないわ」
「違うよ姉ちゃん。俺は、おいっすって言ったんだよ。ちょっと気合いが入りすぎて『っす』の部分が聞こえにくかっただけで」
女子生徒は僕の前の席に運んできたトレイを置いた。
「突然ごめんね、アタシ、桜井智歌。今日からキミのクラスメイトだから。で、そこに突っ立ってる電信柱みたいなのが」
「桜井智樹。同じくお前のクラスメイトだ。ちなみに俺はこの寮で暮らしてるから、寮メイトでもあるんだぜ」
女子生徒の隣にトレイを置いた男子生徒が、軽く右手を上げて見せる。
「えっ、二人とも同じクラス?」
「どっちかが留年してるとかって話じゃないぜ。俺達、同い年なんだよ」
「そーそー。アタシ達、双子なんだ。とてもそーは見えないだろうけど」
確かに見えなかった。少し驚きつつも、僕は自己紹介をする。
「えっと、高倉貴之です。よろしくお願いします」
「ちょっと、敬語なんて他人行儀は止めてよ。慣れないからこっちが緊張しちゃう」
女子生徒がケラケラと笑った。
「もっと気楽に話してくれていいんだよ。あと、アタシのことは名前で呼んで。みんなそうしてるし。私も、貴之クンって呼ぶから」
「あ、俺もそんな感じで頼む。呼び捨てでいいからな。頼んだぜ、貴之」
二人とも半ば強引に距離を縮めてくる。だけど、僕は決して悪い気はしなかった。誰も知り合いのいないこの場所で、少し心細くも感じていたのだから。
「よろしく、智樹、智歌さん」
僕がそう言うと、二人は満足そうに笑った。
「じゃ、続きはご飯食べながらにしよ。アタシもうお腹ペコペコ」
智歌さんが箸を握る。持ってきた朝食を猛然と食べ始める。かなり山盛りにされていたご飯がみるみるうちに減ってきた。
そこで、僕は最初に抱いていた疑問を口にする。
「でも、智歌さん。男子寮に入って大丈夫なの?」
「ひんはひひはひへ。ひふほほほほはんははは」
口一杯にご飯を頬張りながら智歌さんは返事をする。残念ながら僕には聞き取れない。
「心配しないで。いつものことなんだから。だってよ」
うんざりとした顔で智樹が訳す。
「姉ちゃん、しょっちゅうこの寮に潜り込んで飯を食ってくんだよ。自分とこの寮の飯がマズいってだけの理由でな。本当は規則違反なんだけど、もう今じゃすっかりお馴染みのことになってんだ。まっ、姉ちゃんに面と向かって文句言うような命知らずはそうそういないと思うけどよ。何てたって破壊…」
「黙れ智樹! 智樹黙れ!」
智歌さんが智樹を叱りつける。それから、僕に顔を向けた。
「でも、智樹が言ってた寮のご飯がマズいってのは本当のことなの。あちこち食べ歩いたけど、ここの寮のが一番よ。許されるなら引っ越してきたいぐらいなんだから」
半ば本気の様子だ。
「とにかく、今後もちょくちょくお邪魔するからよろしくね♪ それとも、貴之クン的に何か問題でもあったりする?」
「ううん、大丈夫だよちゃんと気をつけてれば」
「気をつける?」
「ああ、何でもない。こっちのことだから気にしないで」
僕は適当に誤魔化した。
「あ、そうだ。本題を忘れるとこだったぜ」
智樹が口を開く。
「貴之、三浦先生が始業前に職員室に来いってよ。俺が同じ寮だからって伝言を頼まれたんだ」
「三浦先生ってのは2年C組の担任の先生ね。楽しい先生よ。あ、でも授業中の下らない雑談は覚悟しておくよーに」
智歌さんが付け加える。
「飯食って少し休んだら一緒に学校に行こーぜ。迷いっこないけど、一応職員室まで案内してやっから」
「学園生活で分からないことがあったら、アタシでも智樹でもいいから何でも相談してよ。あ、後で番号とライン、交換ね」
本当に親切な二人だった。比べるのはよくないけれど、昨日の天宮さんとは雲泥の差だ。
感動している僕の前で、智歌さんが空になったご飯茶碗を隣に突き出した。
「智樹、お代わり」
「またかよ。たまには自分で行けって」
「あんたなら一瞬でしょ? ほら、さっさと行く」
智歌さんに急かされて、智樹は仕方ないといった様子で茶碗を受け取り立ち上がる。
「どれぐらいだ?」
「同じ、漫画盛りで」
「ったく、よく食うよな。やっぱり破壊…」
「行って!」
智香さんに睨まれて、智樹は肩を竦める。
「へいへい、分かったよ」
次の瞬間、驚くべきことが僕の目の前で起こった。
智樹の姿が一瞬で掻き消えたんだ。いや、かすかに残像を残していたから決して消えたわけではない。だけど、あまりに異常な速度だった。
「!?」
あまりの出来事に僕は息を飲む。その息を吐き出すよりも前に、智樹は同じぐらいの速度で戻ってきた。その手には、ご飯が漫画盛りに盛られた茶碗が握られている。
「ほらよ」
「ありがとー」
茶碗を受け取った智歌さんは、満面の笑みでそれを食べ始める。智樹も再び席につき、中断していた食事を再開する。
まるで何事もなかったかのような感じだ。食堂にいる他の男子生徒達も、平然としたものだった。
「…………」
一人だけ唖然としている僕の様子に智樹が気付く。
「ん、貴之どうした? 俺の顔に飯粒でもついてんのか?」
「いや、そんなんじゃなくって。今のは?」
「今の?」
キョトンとした智樹だけど、すぐに僕が何に驚いているのかを察したようだ。
「ああ、俺の動きか。そうかそうか、度胆を抜かれたってわけだな。いいリアクションだ。
お前とは仲良くなれそうだぜ」
智樹は得意気にフフンと笑った。
「あれこそが、俺のスペ☆ギフ。『超高速移動』だ」
高らかに自分のスペ☆ギフ名を口にする智樹だけど、隣の智香さんがかぶせるようにして言う。
「『一瞬で買い出し』。それが智樹のスペ☆ギフだから。覚えといてね」
「その名前は姉ちゃんが作って勝手に広めてる名前だろ? 正式名は『超高速移動』なんだから」
「あ、それなんだけど。この間ちゃんと申請を出して正式に『一瞬で買い出し』に改名しておいたから」
「ええっ!?」
「だから今は『一瞬で買い出し』が正解。覚えやすくていいでしょ?」
智樹がしばし口をパクパクとさせてから、がっくりと肩を落とす。
「姉ちゃん、ひどすぎるぜ」
さすがにこれには僕も同情してしまう。
「アタシのスペ☆ギフも披露したいとこだけど、ちょっと場所が悪いから勘弁してね。近いうちにたっぷり見せてあげるから」
智香さんはテーブルに身を乗り出すと、瞳をキラキラさせながら僕に質問した。
「それで、貴之クンのスペ☆ギフはどんなななのかな?」
「!? !? !?」
まさかこんなにも早く自分のスペ☆ギフのことを尋ねられると思っていなかったから、僕は大いに戸惑った。
もちろん正直に答えられるはずがない。あんなスペ☆ギフを知られるぐらいなら、海に飛び込んだ方がマシだった。
かと言って昨日の天宮さんを見習って、『君に答える必要はない』なんて答えるのも無理だ。せっかっく芽生えかけた友情が崩れ落ちてしまうに決まっている。
僕はおずおずと尋ねる。
「そのことって、皆オープンにしてるものなの?」
「まあ、大抵はね。中にはかたくなに隠してる生徒もいるけど、それだとどうしても孤立しちゃうんだ。ちなみに、うちのクラスでは誰一人そんな子はいないから。隠し事のない和やかなクラスだよ」
にこやかに言ってから、智香さんは再び尋ねてくる。
「それで、貴之クンのスペ☆ギフはどんなの?」
「それは………」
口ごもる僕。しばしの沈黙。
助け舟を出してくれたのは智樹だった。
「姉ちゃん、そんなの無理して聞くなよな」
(ああ、智樹。ありがとう)
心の中で感謝を告げる僕だけど、直樹はとんでもないことを言い出す。
「そういったのは、HRの自己紹介で発表するもんだろ?」
「あ、そーだったわね。アタシ達だけ先に教えてもらってたら、クラスの皆に文句言われるとこだったわ」
智香さんが納得した。
「じゃ、貴之クン。朝のHRを楽しみにしてるから。そこで披露してね。きっと誰かが質問するだろうから、それに答えてくれればいいよ」
「俺も期待してるぜ。お前のスペ☆ギフで、クラスをあっと驚かせてくれよな」
二人とも、期待のこもった目で僕を見る。
(じょ、冗談じゃない! 教室で僕がスペ☆ギフを使ったら、驚くどころじゃすまないよ!)
僕は心の中で大絶叫を響かせたのだった。
少し緊張しながら、僕は食堂奥のカウンターへと向かった。セルフサービスの朝食をトレイに乗せる。
ご飯とみそ汁は自分でよそい、好きなオカズを選ぶ。ミニオムレツとシャケの切り身、いんげんのゴマだれ和え、ハムエッグもついでに取った。
一緒に朝食をとるような知り合いがいるはずもなく、僕は食堂の一番隅、開いているテーブルへとトレイを運ぶ。
「いただきます」
空腹だったことをさっぴいたとしても、かなりおいしかった。特にみそ汁が絶品だった。あまり期待していなかっただけに僕は少し感動してしまう。
僕が夢中になって食べている時だった。頭上からその声はかけられる。
「おいっ!」
箸を止め見上げる。トレイを持った男子生徒が立っていた。かなりの長身だ。180を軽く越え190近くあるだろう。男子にしては長い髪の毛がよく似合っている。文句なしのイケメンだった。
(ひょっとして、この席はこの人の席だったとか? きっとそうに違いない)
僕は慌てて椅子から腰を浮かした。トレイを持って移動をしようとする。
「おいおい、どこに行こうってんだよ?」
男子生徒が驚いた様子で言う。
「えっ? 席を開けろってことじゃ」
「ちげーよ。俺がそんなイチャモンつけるような奴に見えるか? くそっ、ショックだぜ」
大袈裟に嘆く男子生徒の後ろから、新たな声が響く。
「あんたの態度が悪いから転校生クンに誤解させちゃったんでしょーが!」
姿を見せたのは、制服姿の活発そうな女子生徒だった。
(えっ!? 女の子!? ここは男子寮なのにどうして!?)
困惑する僕の前で二人は会話を始める。
「そもそも、あんたの最初の挨拶は何? おいっ! だなんてありえないわ」
「違うよ姉ちゃん。俺は、おいっすって言ったんだよ。ちょっと気合いが入りすぎて『っす』の部分が聞こえにくかっただけで」
女子生徒は僕の前の席に運んできたトレイを置いた。
「突然ごめんね、アタシ、桜井智歌。今日からキミのクラスメイトだから。で、そこに突っ立ってる電信柱みたいなのが」
「桜井智樹。同じくお前のクラスメイトだ。ちなみに俺はこの寮で暮らしてるから、寮メイトでもあるんだぜ」
女子生徒の隣にトレイを置いた男子生徒が、軽く右手を上げて見せる。
「えっ、二人とも同じクラス?」
「どっちかが留年してるとかって話じゃないぜ。俺達、同い年なんだよ」
「そーそー。アタシ達、双子なんだ。とてもそーは見えないだろうけど」
確かに見えなかった。少し驚きつつも、僕は自己紹介をする。
「えっと、高倉貴之です。よろしくお願いします」
「ちょっと、敬語なんて他人行儀は止めてよ。慣れないからこっちが緊張しちゃう」
女子生徒がケラケラと笑った。
「もっと気楽に話してくれていいんだよ。あと、アタシのことは名前で呼んで。みんなそうしてるし。私も、貴之クンって呼ぶから」
「あ、俺もそんな感じで頼む。呼び捨てでいいからな。頼んだぜ、貴之」
二人とも半ば強引に距離を縮めてくる。だけど、僕は決して悪い気はしなかった。誰も知り合いのいないこの場所で、少し心細くも感じていたのだから。
「よろしく、智樹、智歌さん」
僕がそう言うと、二人は満足そうに笑った。
「じゃ、続きはご飯食べながらにしよ。アタシもうお腹ペコペコ」
智歌さんが箸を握る。持ってきた朝食を猛然と食べ始める。かなり山盛りにされていたご飯がみるみるうちに減ってきた。
そこで、僕は最初に抱いていた疑問を口にする。
「でも、智歌さん。男子寮に入って大丈夫なの?」
「ひんはひひはひへ。ひふほほほほはんははは」
口一杯にご飯を頬張りながら智歌さんは返事をする。残念ながら僕には聞き取れない。
「心配しないで。いつものことなんだから。だってよ」
うんざりとした顔で智樹が訳す。
「姉ちゃん、しょっちゅうこの寮に潜り込んで飯を食ってくんだよ。自分とこの寮の飯がマズいってだけの理由でな。本当は規則違反なんだけど、もう今じゃすっかりお馴染みのことになってんだ。まっ、姉ちゃんに面と向かって文句言うような命知らずはそうそういないと思うけどよ。何てたって破壊…」
「黙れ智樹! 智樹黙れ!」
智歌さんが智樹を叱りつける。それから、僕に顔を向けた。
「でも、智樹が言ってた寮のご飯がマズいってのは本当のことなの。あちこち食べ歩いたけど、ここの寮のが一番よ。許されるなら引っ越してきたいぐらいなんだから」
半ば本気の様子だ。
「とにかく、今後もちょくちょくお邪魔するからよろしくね♪ それとも、貴之クン的に何か問題でもあったりする?」
「ううん、大丈夫だよちゃんと気をつけてれば」
「気をつける?」
「ああ、何でもない。こっちのことだから気にしないで」
僕は適当に誤魔化した。
「あ、そうだ。本題を忘れるとこだったぜ」
智樹が口を開く。
「貴之、三浦先生が始業前に職員室に来いってよ。俺が同じ寮だからって伝言を頼まれたんだ」
「三浦先生ってのは2年C組の担任の先生ね。楽しい先生よ。あ、でも授業中の下らない雑談は覚悟しておくよーに」
智歌さんが付け加える。
「飯食って少し休んだら一緒に学校に行こーぜ。迷いっこないけど、一応職員室まで案内してやっから」
「学園生活で分からないことがあったら、アタシでも智樹でもいいから何でも相談してよ。あ、後で番号とライン、交換ね」
本当に親切な二人だった。比べるのはよくないけれど、昨日の天宮さんとは雲泥の差だ。
感動している僕の前で、智歌さんが空になったご飯茶碗を隣に突き出した。
「智樹、お代わり」
「またかよ。たまには自分で行けって」
「あんたなら一瞬でしょ? ほら、さっさと行く」
智歌さんに急かされて、智樹は仕方ないといった様子で茶碗を受け取り立ち上がる。
「どれぐらいだ?」
「同じ、漫画盛りで」
「ったく、よく食うよな。やっぱり破壊…」
「行って!」
智香さんに睨まれて、智樹は肩を竦める。
「へいへい、分かったよ」
次の瞬間、驚くべきことが僕の目の前で起こった。
智樹の姿が一瞬で掻き消えたんだ。いや、かすかに残像を残していたから決して消えたわけではない。だけど、あまりに異常な速度だった。
「!?」
あまりの出来事に僕は息を飲む。その息を吐き出すよりも前に、智樹は同じぐらいの速度で戻ってきた。その手には、ご飯が漫画盛りに盛られた茶碗が握られている。
「ほらよ」
「ありがとー」
茶碗を受け取った智歌さんは、満面の笑みでそれを食べ始める。智樹も再び席につき、中断していた食事を再開する。
まるで何事もなかったかのような感じだ。食堂にいる他の男子生徒達も、平然としたものだった。
「…………」
一人だけ唖然としている僕の様子に智樹が気付く。
「ん、貴之どうした? 俺の顔に飯粒でもついてんのか?」
「いや、そんなんじゃなくって。今のは?」
「今の?」
キョトンとした智樹だけど、すぐに僕が何に驚いているのかを察したようだ。
「ああ、俺の動きか。そうかそうか、度胆を抜かれたってわけだな。いいリアクションだ。
お前とは仲良くなれそうだぜ」
智樹は得意気にフフンと笑った。
「あれこそが、俺のスペ☆ギフ。『超高速移動』だ」
高らかに自分のスペ☆ギフ名を口にする智樹だけど、隣の智香さんがかぶせるようにして言う。
「『一瞬で買い出し』。それが智樹のスペ☆ギフだから。覚えといてね」
「その名前は姉ちゃんが作って勝手に広めてる名前だろ? 正式名は『超高速移動』なんだから」
「あ、それなんだけど。この間ちゃんと申請を出して正式に『一瞬で買い出し』に改名しておいたから」
「ええっ!?」
「だから今は『一瞬で買い出し』が正解。覚えやすくていいでしょ?」
智樹がしばし口をパクパクとさせてから、がっくりと肩を落とす。
「姉ちゃん、ひどすぎるぜ」
さすがにこれには僕も同情してしまう。
「アタシのスペ☆ギフも披露したいとこだけど、ちょっと場所が悪いから勘弁してね。近いうちにたっぷり見せてあげるから」
智香さんはテーブルに身を乗り出すと、瞳をキラキラさせながら僕に質問した。
「それで、貴之クンのスペ☆ギフはどんなななのかな?」
「!? !? !?」
まさかこんなにも早く自分のスペ☆ギフのことを尋ねられると思っていなかったから、僕は大いに戸惑った。
もちろん正直に答えられるはずがない。あんなスペ☆ギフを知られるぐらいなら、海に飛び込んだ方がマシだった。
かと言って昨日の天宮さんを見習って、『君に答える必要はない』なんて答えるのも無理だ。せっかっく芽生えかけた友情が崩れ落ちてしまうに決まっている。
僕はおずおずと尋ねる。
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「まあ、大抵はね。中にはかたくなに隠してる生徒もいるけど、それだとどうしても孤立しちゃうんだ。ちなみに、うちのクラスでは誰一人そんな子はいないから。隠し事のない和やかなクラスだよ」
にこやかに言ってから、智香さんは再び尋ねてくる。
「それで、貴之クンのスペ☆ギフはどんなの?」
「それは………」
口ごもる僕。しばしの沈黙。
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「姉ちゃん、そんなの無理して聞くなよな」
(ああ、智樹。ありがとう)
心の中で感謝を告げる僕だけど、直樹はとんでもないことを言い出す。
「そういったのは、HRの自己紹介で発表するもんだろ?」
「あ、そーだったわね。アタシ達だけ先に教えてもらってたら、クラスの皆に文句言われるとこだったわ」
智香さんが納得した。
「じゃ、貴之クン。朝のHRを楽しみにしてるから。そこで披露してね。きっと誰かが質問するだろうから、それに答えてくれればいいよ」
「俺も期待してるぜ。お前のスペ☆ギフで、クラスをあっと驚かせてくれよな」
二人とも、期待のこもった目で僕を見る。
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