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エピソード2 きもだめしの夜に彼女は
3、開かない記憶の扉
しおりを挟む真っ暗な旧サークル棟を、懐中電灯の明かりを頼りに歩く。
これが普段使っている校舎だったら、あちこちに設置された赤外線センサーに引っかかってすぐに警備会社がすっ飛んで来ることだろう。でも、取り壊し間際のこんな建物にそんな装置はついていない。何も気にすることなく歩き回ることができる。
「うわっ、すっごいとこねここ。まるで廃墟だわ。廃墟」
部屋を覗き込み中を懐中電灯で照らしたこずえが弾んだ声を上げる。
倉庫として使われていると聞いてはいたが、実際は不用品置き場と化していたようだ。それぞれの部活で使われていた物が転がっている。壊れた地球儀だったり、ガラスの割れた昆虫標本だったり、破られたキャンパスだったりETC。
当初は適当に済ませるつもりだった桔平だったけど、ダンジョン探索ゲームのようで桔平も楽しくなってくる。
あちこちを覗いた後、二階へと上がろうという時だった。不意にこずえが口を開く。
「そう言えば、桔平。ずっと前にもこんなことなかった? 小学校の時よ。覚えてる?」
「ああ、あったな」
桔平が懐かしそうに目を細める。
「確か…小学三、四年だったっけ? 小学校の校舎に夜忍び込んだの」
「そーそー、それぐらいよ」
こずえが頷く。
「本当は海斗も一緒のはずだったのに、あいつ来ないから仕方なしに二人で決行したのよ。あれはスリル満点だったわね」
「ああ、段々と細かいとこを思い出してきたぞ。図工室の窓の鍵を昼間の内に開けておいたんだよな。で、そこから忍び込んだんだ」
七年程前の出来事を、桔平は思い浮かべる。
今市桔平、9歳。相原こずえ、10歳。
小学四年、夏の夜の出来事だった。
★
静寂に包まれた夜の図工室、その窓がカラカラと音を立てて開かれる。
小さな人影が二つ、窓枠を乗り越えて室内へと入ってきた。
再びカラカラと音が鳴り窓が閉められる。続いて、懐中電灯の灯りがつけられた。
「潜入大成功♪」
と声を弾ませるのは色黒の少女、相原こずえだ。半袖半ズボンといった活発そうな格好をしている。髪の毛もかなり短く切っていて、まるで男子のようだ。実際、男子に間違えられることはしょっちゅうだった。
「ここの鍵をこっそり開けておいたのはオレなんだからな」
得意気に語るのは小柄の少年、今一桔平だ。こちらも半袖半ズボン姿だった。
二人は共に、ここ下福小学校に通う生徒だ。クラスは四年一組。幾度かクラス替えがあったものの、入学以来ずっと同じクラスを続けている。ちなみに言えば保育園も同じだった。
筋金入りの幼馴染といったところだろう。
「でも、海斗どうしたんだろーな? 絶対に来るって張り切ってたのに」
本来ならここにいるはずだった友人の名前を口にする。
「そんなの決まってるじゃない。あいつ、急に怖くなったのよ」
こずえが断言する。
「まあいいわ、懐中電灯はアタシが用意したし、桔平がカメラも持ってるんだから。海斗がいなくたって問題なしよ」
勇ましくこずえは拳を握り締めた。
「回るところはたくさんあるわ。早速始めるわよ!」
「ああ、そうしよー!」
二人は移動を開始する。懐中電灯で足元を照らしながら、図工室を出た。真っ暗な廊下を歩き始める。
電気を点けようとは思わなかった。時刻はもう夜の十時を過ぎている。こんな時間に校舎の電気が点いたりしたら、近隣に暮らす人々に不審に思われてしまうだろう。
それに、電気なんて点けたらせっかくの雰囲気が台無しになってしまう。
暗い夜の校舎を懐中電灯で照らして探検するのが面白いのだから。
今回の探検の目的は、下福小学校に語り継がれる学校七不思議の場所を巡ることだ。証拠写真を皆に見せれば、一躍ヒーローになれること間違いなしだろう。
「まずは理科室。それから玄関の鏡ね」
手近なところから制覇していくことにする。
図工室を出てすぐのところにあるのが理科室だ。扉を開け中に入ると、ほのかに実験で使う薬品に匂いがした。
懐中電灯で照らすと、学校の怪談ではお馴染みの骨格標本と人体模型が並んでいる。さすがに不気味さを感じてしまう。
夜なると運動会をするという噂だけど、当然両者は立っているだけだ。
「ほら、桔平。写真」
「オッケー」
桔平は使い捨てカメラを構える。フラッシュの充填ボタンをカチャカチャと鳴らしてから骨格標本と人体模型を同時にカメラに収めた。
続いて正面玄関にある大鏡へと向かう。赤い服を着た少女が手招きをしていてそれに応じると鏡の中に吸い込まれるという言い伝えだ。もちろん、そんな少女は写っていない。
ここでも写真を一枚撮った。
さらに探検は続く。
蛇口から血が出るという二階端の水道。便器から手が出てきてひきずり込まれるという体育館近くのトイレ。上りと下りで段数が変わるという呪われた階段。
校門の銅像に関しては校舎内に侵入する前にすでに写真を撮っていたから、残りあと一つということになる。
場所は音楽室。夜中一人でに鳴り出すピアノだ。
最上階の端にある音楽室へと向かう。他の教室とは違う防音仕様の扉をゆっくりと開く。
そして………。
★
「………」
旧サークル棟の二階を歩いている途中で、桔平はふと足を止める。
うかない顔で小首を傾げた。
「どーしたのよ? いきなり立ち止まったりして。もうちょっとであんたの背中にぶつかるところだったじゃない」
すぐ後ろを歩いていたこずえが文句を口にする。
「いや、ちょっと…な」
少し考え込んでから、桔平はゆっくりと振り向く。
「なあ、こずえ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
そう前置きし、桔平は尋ねる。
「ほら、二人で小学校の校舎に忍び込んだ時、七不思議の場所をあちこち回ったよな?」
「そうね。理科室に鏡にトイレに、蛇口なんかの写真も撮って喜んでたっけ? 子供だったわね」
昔を懐かしみ、こずえが笑う。
「で、最後に音楽室に向かったよな?」
「そーよ。近い場所から攻略してったのよ。で、自然と最上階の音楽室が最後になったのよ」
「音楽室の扉を開いて、その後どうしたんだっけ?」
「どーしたもこーしたもないわ。中に入って…」
こずもまたうかない顔つきになる。
「あれ? どーしたんだっけ? アタシ、何も覚えてないんだけど」
「オレもなんだ。その後覚えてることって言ったら…もう校門での出来事なんだ」
「ああ、あの地獄のような光景ね。アタシ達の両親が待ち構えてたって言う」
こずえが苦笑する。
「あれって、海斗のせいだったのよね。家を抜け出そうとしてたとこを親に見つかって、問い詰められてとうとう探検のことをバラしたのよ。でも、アタシ達の家にも連絡が来て慌てて学校に飛んできたってわけ。あの時はお父さんにお尻を何発叩かれたか分からないわ」
その時のお尻の痛みを思い出したのだろう。こずえが顔をしかめる。
でも、肝心の音楽室での出来事は何も思い出すことができない。
しばし悩んでから、こずえが敗北宣言を口にする。
「いくら考えても駄目ね。何にも出てこないわ。ま、真剣に悩むほどのことでもないけどね。どーせピアノの写真撮ってそれで終わり。あまりにつまらないことだから忘れてるのよ」
確かにもっともな意見だったけど、それでも違和感はぬぐえない。
だっても、それまでの六ヶ所のことはすべて思い出せるのだ。特別記憶に残るような特別なことなどなかったのに。
最後の音楽室のことだけが記憶から欠落しているのはやっぱり不自然だった。
撮った写真を糸口に思い出せないかとも思ったが、あの時持っていた使い捨てカメラがどうなったのかも記憶になかった。
「ほらほら、いつまでもしょーもないことで悩んでても仕方ないわ。行くわよ」
こずえが歩き出す。そして、最後の部屋の前へと立った。
『演劇部倉庫』
と書かれたプレートが貼り付けられている。
きもだめしスタート前にリムルが言っていた、女子生徒が命を落としたという場所だ。
「さっきは言わなかったんだけど、璃夢瑠っちの言ってた話って本当っぽいのよ。アタシも部活の先輩から聞いたことがあったし」
こずえがポツリと呟く。
「そう…なのか」
幾分表情を硬くする。
前だったら、『幽霊なんているわけない』と鼻で笑っていたところだろう。
でも、今は違う。
死神だっているんだから幽霊だってひょっとしているかも?
そんな風に思えてしまうのだ。
(って、何をビクビクしてるんだよ。男として情けないぞ)
強く首を振ってから、桔平は前へと歩み出る。
「よし、開けるぞ」
「う、うん」
桔平は、演劇部倉庫の扉をゆっくりと開いた。
そして………。
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