神楽坂gimmick

涼寺みすゞ

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神楽坂gimmick

魔除け

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◆◆◆◆◆

「――と、いう流れでした。聞いていた話と同じですか? 」

 侯爵とのやり取りを出来る限り話した。
 もちろん全てではない、知れば親子仲が険悪になりかねない発言である「宮津子に会うな」以降は、敢えて口にしなかった。

「いいえ。縁談の申し入れがあり、断ったと聞かされただけです」
「そうですか、まあ要約すればその通り。つまり、私達の結婚は許可が下りないと……駆け落ちするワケにもいきませんしね、仕方ない」

 トランクを開き、綺麗に畳まれた衣類を漁り出す惟前に、宮津子は唇を軽く噛む。

「諦めるのが早くありませんか? 」
「結果が出ないものに時間を掛けるのは、無駄です。あ、ほらコレ……」

 パシン――ッ‼︎

「痛っ‼︎ 」

 衣類の間から小さな箱を見つけ、口元を綻ばせた惟前の手から、空気を割く音が出た。
 今にも泣きそうな顔をした宮津子が、払い落としたのだ。カルタのように畳を駆ける箱は、襖に当たり転がった。

「ちょっと! 何を……ッ! 」

 制止するが、宮津子の反抗は止まらない。
 猫のようにトランクへ飛び掛かると、無遠慮に掻き回す。仕舞われた衣類を掴み取り、あっちこっちに投げつける。
 帯、着物は、遠慮なく。難しそうな本は、ページが折れないように投げやり、拾い集めるのに時間がかかるよう、四方八方に。

「いい加減にしなさい! 」

 細い手首を掴み上げる惟前の険しい顔を、負けじと睨む。

「いい加減? そっちこそ! 私を欲しいと言った口が、今 結果が出ないから諦めると言ったのです! 何故です? もっと考える頭をお持ちでしょう!? 」

 拳を振り上げ、ドンッ! と畳を叩く宮津子は、細い肩を震わせた。
 幼い頃から教育を受けた宮津子が、喜びならまだしも、怒りの感情をここまで露にするのは、珍しいだろう。

「ここで、ジッと考えても埒があかないのです! 諸手を挙げてバンザイと、有り難く養子に収まっても得などない、自分の手当てで裕福に暮らせるのです。貴族院議員に興味もありません、爵位もいらない」
「それでも求婚したのは、私を妻に欲しいと思ったのでしょう!? 夜這いだって……」

 畳に落ちる紺絣をギュッと握りしめ、引き留める言葉を必死に探す宮津子の口を、咄嗟についたのは、自分への欲を確信させてくれた行動だ。
 パッと、華やいだ表情が惟前を見上げた。
 希望を見いだしたかのように、桃色に染まる頬は、蚊帳の秘め事を思い出したのだろう。
 恐る恐る伸ばされた指は、よく火熨斗ひのしのあてられたシャツ越しに腕を掴む。
 目の前の熱を孕む目が、何を言いたいのか察せられない程、ウブではない。
 惟前は、深く呼吸をすると言い切った。

「申し訳ありません、アレ勘違いです」
「……え? 」
「足の様子を見に入ったのです。声を上げられたら大変なことになるので不本意ながら。そもそも私が、不届きなことをするワケないでしょう? 破廉恥な考えは止めてください。こっちが恥ずか……」
「もう結構よ‼︎ 」

 言いかけた言葉より先に金切り声と、強い衝撃が腹に加わった。
 ドッ! と、横殴りに吹き飛んだ惟前の身体は倒れ込み、体当たりした宮津子は、そのまま畳に顔を伏せた。
 男に、体当たりを喰らわせる令嬢なんて聞いたことがないと惟前は、大いに呆れた。

「貴女ね……ご令嬢の鏡という評判が聞いて呆れ……え、泣いているのですか」
「こんなことを言われて、泣かない人なんて……」

 泣き顔は見慣れているが突っ伏し、声を殺す姿は初めて見た。疎遠になった十年間を無性に腹立たしく思い、転がった小箱の包みを破る。
 出てきたソレは、小さな輪っか。

「何か知っていますか? 」

 宮津子の肩を抱き、顔を上げさせた。

「 興味ありません! 」
「知っているかと聞いているんです! 」

 惟前が宮津子を知るのと同時に、宮津子も惟前をよく知る、答えるまで許さない男だと。
 口を聞きたくなかったが、渋々答えた。

「からくりのネジ? 」
「……ま、そのような物です」

 ふふふ、と忍び笑いを漏らす惟前は、細く美しい指を掬い上げると、金色に輝くソレを滑らせた。

「ああ、良かった。実は少し心配だったのですよ、ピッタリだ」
「なんです? 私を怒らせて、ネジでご機嫌とりですか? いい加減にして頂戴! 」

 引き抜かれそうになった手を、力一杯握りしめ、話は終わっていないと言う。

「これは指輪と言います。欧州で見かけて貴女の土産にと買い求めました。学生でしたから安物です。しかし、込める想いは変わりません。ほら、円が切れることがないでしょう? まじないというか、魔除けというか……私と貴女のえにしが切れることがないという物です」
「どの口が……! 」

 惟前は、苦笑いを漏らすと首を横に振った。

「どの指にはめても良いそうです。左が心臓に近いので、そちらにする人もいるらしいですが、まだ心を掴むには早いようですので右に」

 眉を寄せる宮津子に構わず、金色の指輪を自身の指で何度も撫でる。

「魔除け、覚えていてください。必要なくなったら外して結構」
「魔除けが必要なくなるなんて、死ぬ時ではなくて?」
「もしくは、別の魔除けを手に入れたら」
「そんなにいくつもいりません」
「それは有難い」

 笑う惟前との会話は、成り立っていないのだろう――そんなことを思いながら、自身の指を優しく撫でる世界一憎らしい男を見つめた。
 視線を絡ませる気はないのか、顔を上げない眼前の人は、魔除けのまじないと言いながら、何度も同じ言葉を繰り返す。
 I love you、I love you、と。
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