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48話 彼の、準備 2 3/7
しおりを挟む日ごろのストレスを吐き出してふしゃーっとなっている猫島子さんと、少し顔が赤い、けど髪の毛を下ろしているせいでやっぱり違う印象を覚える岩本さん。
髪の毛を下ろすだけでここまでおとなっぽく……元の感じになるんだから、僕の好み的には普段からそうしていればいいのにって感じの岩本さん。
いつものようなポニーテールがなくって雰囲気ががらりと変わるし、僕としてはこっちの方がいいのになって思うんだけど、そこはそこ、女性という年齢を極度に気にする種族なんだからしょうがないんだろう。
けどこうして下ろしていると肩まで完全に隠れるような、長くて少しくせっ毛のある栗色が新鮮だ。
「……ま、まぁいいじゃないみさきちゃん! それよりほら、ね? あんまりそう大きな声になっちゃうとさっ、人目引いちゃうし! ね?」
「大体ですにゃ、響さんが……響さん、ごめんなさいですにゃ? 体が女の子なのは、まぁ、なんにも言いませんですにゃ。 先輩の方たちや知り合いの方たちでも男性同士とか女性同士のカップルだっていますし、響さんの心は男の子なので、そのへんはまったく問題ないんですにゃ」
「そ、そうでしょ!? だから響くんのこと言ったって!」
「最近は性別とかのことって見た目よりも中身っていう風潮ですし、私自身もそう思いますからそこは別にいいのですにゃ。 たとえひかりさんが響さんみたいな子に懸想してたって誰にも文句は言えないのですにゃ……だけど、だけどですにゃ! トシを考えてくださいですにゃ! いくらねこみみ病で若返ったとはいえ中身は元のままなんですにゃよね? だからつまり、えっと……15くらい!? 15くらいも年下の、しかも中学生の男の子のことずっと話してるだなんてやべーですにゃ。 27と13ですにゃ! あ、これ倍を超えていますにゃあ!?」
「ごめん、僕って実は25だから歳の差はたったの2なんだ……」って言ったらどんな反応するんだろ。
「正直ドン引きしてましたにゃ、だって犯罪ですにゃよ? やべーですにゃ、やべーんですにゃ。 すっぱ抜かれたらおしまいですにゃ!」
ねこみみとしっぽが服の外からでも激しくもぞもぞって……たぶんこれ島子さんも興奮しすぎて今は芸能人だって隠しておかなきゃいけないってこと忘れかけているな。
「え……えぇーっとね、響くん?」
髪の毛をばさっと広げながらこっちに振り向いてきた岩本さん、だらだら汗をかいていて顔も真っ赤だ。
ハンカチで拭くほどに汗が出ている。
……この後のこと、大丈夫なんだろうか。
まぁ楽屋とかでお化粧し直すんだろうから平気なのかもしれないけど。
女の人って大変だよね、外に出るときは必ずお化粧って……男の方がやっぱり楽なんだ。
「みさきちゃんはね? そのね? ちょーっと大げさに言ってるだけだからね? ね? それにほら、狙ってるって言われちゃいましたけど、その……あ、あれですよ!」
「あれってなんですかにゃ」
トーンが下がった。
わりと本気で怒っているらしい島子さん。
あれ、さっき仲が良いって思ったけどもしかしてやっぱり上下関係厳しいの?
「響くんってクールで知的な雰囲気だし、芸能人、有名人だからっていうので態度を変えたりしなくって……なんていうのかな、色めがねがないっていうの、で、将来有望そうだよねっていう感じのこと話していただけでね! 一般論! 一般論で褒めただけなのよ!?」
ごめんなさい、それただ全く興味がないからなんです……恋愛関係と有名人への。
「嘘ばっかしですにゃ。 ひかりさん、実は年下がタイプで、だからアイドルは恋愛禁止以前にそもそも本気になれる人が近くにいなかったの、だからつまりは響さんくらいの幼い……ひかりさんにとってはですからにゃ? だからつまりはショタコンなのってお酒の席で自分から言っていましたし? あとは『中学生の男の子が喜ぶ話題ってなんだろう』とか『響さんって年上の子でも大丈夫なのかなぁ……うふふ』と『世代が違っても話合うかなぁ……はーと』とか全力で女の子女の子してからに! 誰がどう聞いても15ほども年下の中学生な響さんを狙っているとしか思えない発言ばかりでしたにゃ! 響さん、気をつけるですにゃ……こういう人が犯罪するんですにゃ!!」
ひたすらにゃあにゃあ言ってる島子さん。
うん……女の子ってストレスとか溜めるよね……。
「はぁ、まったく情けないですにゃ。 だって精神年齢27歳のオバあいたたたた!?」
午前の喫茶店だからこれだけ騒いでいても店員さんが来ないくらいにはお店はがらがらで、だから聞かれている心配もないからいいけど……女性って、女の子って、年齢に全然関係なく本気で恋愛っていうのが好きなんだな。
それはもう本能レベルで。
今の僕になってからは……主にかがりのせいで慣れはしたけど、でもこういうのを見ていてもやっぱりどうしても「あぁ悲しきは女性の本能な恋愛脳……」ってしか感じない。
……恋愛に耐性のないどころか人間関係すらゼロだった僕にとって、この1年は疲れるけど有意義なものだったっていうのがよくわかる。
ほっぺを掴んでいる岩本さんと猫ぱんちを出して応戦している島子さんをみて、そう思う。
だってそもそも褒められるのに慣れていないから、しかも相手が女性だったら……褒められたら顔には出なくてもきっと舞い上がっちゃうだろうし浮かれちゃう。
それが経験の無い男の悲しい性なんだ。
それがたとえ社交儀礼だったとしても、僕を上手く利用しようとするものだったりしても、そういうのを薄々わかっていたとしても。
女性に好意を向けられるような発言とか……それこそ今みたいなものを聞いた時点できっと僕にはどうしようもなくって、流されるだけになっていたはずだもん。
僕の中身は中学生から成長してないんだから。
まぁ肉体が幼女だっていうのがブレーキになっているっていうのが大きいんだろうけど、でもこういう経験、耐性は言われ慣れるしかないんだろう。
「――そのへんでよろしいですかー? おふたりともー?」
「!?」
「ひぇっ!?」
「にゃあ!?」
僕も声が出そうになったけど、さっきからぼーっとふたりを見ていただけだったから喉で止められてよかった。
お腹の中がぎゅってなる感じの女の人が怒っている系統の声。
その主は悪魔、じゃなくって今井さん。
……苦手意識が抜けないでいてもしょうがないよね……うん。
第一印象は大切。
それを痛感する。
いくら僕がこっそり呼んだお相手であっても、苦手なものは苦手なんだ。
「外出時には、それも予定があるときにはどんなときでも連絡が取れるようにって、いっつもあれほど言っていますよねー? 特にひかりさんはなーにをやっているんですかー? この前にも大変だったの、もー忘れたんですー??」
「え、えぇっとね? ちおりちゃん、違うの」
今井さんの下の名前。
……そうだよね、岩本さんの方が年上だもんね……今は若くなってるけども。
今井ちおり。
通称悪魔さん。
「おふたりは立場が立場なんですから気をつけてくださいって何度も何度も言ってきましたよねー? 今は護衛の方も増やしてもらっていますしなんとかなるはずではありますけどー?」
「そ、そうですにゃちおりさん! だから、ちょっとスマホから意識が外れていたくらいで」
「け――――れ――――ど――――も――――? 騒ぎになるだけでもSNSとかマスコミとか政府の方とかに対する対策って、ぜーんぶ私たちに来てしまうって。 どれだけ大変なのかって、電話の相手だけでも死にそうになるんだって……何十回も、言ってきましたよねー?」
本気で怒った女性は、こわい。
怒りがこっちに向いていなくってもおなかが冷たくなるのを感じつつ「やっぱり今井さんは要警戒な人だな」って思いながら……お説教モードに入って静かに怒り始めた今井さんと怒られる体勢になった岩本さんと島子さんを、気配を消しながら見守ることにした。
ないとは思うけどこっちに飛んでこないようにって、ちらちらこっちを見てくるふたりと目を合わさないようにして。
ごめんね。
でも怖いものは怖いよね……ほら、今の僕は幼女だから余計に怖いんだ。
だから許して?
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