TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~

あずももも

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1章 男でも女でも人見知りは変わらない

6話 なぜかTSを望まれた夜

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「……はーっ、終わったー……疲れたぁ」

ゲーム画面に「RANK 1」のトロフィーが表示されるのを見て、僕は大きく息を吐いた。

ぎしっ。
最後の10分間の緊張から解放され、僕は背もたれに体重を預ける。

【おめ】
【おー】
【勝ったか】
【今回はストレートだったな】
【10連戦おめ】

【ていうかランクマで10戦10勝……すごない?】

【すごい】
【今日はキレが違った】
【マッチ運つよつよなのもあったな】
【まぁ今回は明らかな初心者も混じってたし】

【過疎ゲーでもそれなりに入ってくるんだよな、新規って】

【そしてボロ負けしてやめてくという】
【ぶわっ】
【泣いた】
【悲しい……】
【なぜ初心者は対人戦の極致で自爆していくのか】

【ていうかこはねさんは普段からすごいぞ】
【本人は絶対認めないけどな】

【「ニートだからむしろ弱い方」とかどんだけなんだよ】

【草】
【自己評価がナメクジ過ぎる】
【「練習できる時間換算で」とか不思議すぎる自己評価】

【こはねちゃんがんばった】
【最後が特にすごかったな】
【やはりTSが効いたか……】

「TS言うな。本当、今日は何なのさ……とはいえ今シーズンも、セカンドリーグとはいえ1位維持か……まぁ試行回数と仲間のマッチ運のたまものだけど」

配信の視聴者とは基本的に配信主を褒めるもの。
褒めないのはBAN対象ともいう。

僕は人にけなされると胃液が上がってくるからそうせざるを得ず、つまりはこのコメントはただ僕を持ち上げているだけのもの。

だから素直に受け止めると痛い目を見る。
僕は僕の実力をよく知っているんだ。

【それでもすごい】
【すごいけどプレイ人口的に……】
【おいやめろ】

【こはねたんは貴重な配信者なんだぞ】
【さ、最近は世代が一周して新人さんが入ってきてはいるから……】
【サービス終了の気配がない程度には安定して人口自体は居るから……ほぼ外国勢だけど】
【英語で打ってくれる方がまだ安心できる悲しみ】

だーっと流れるコメント。

隙あらばTS談義してたせいで、今日は止まることのない頻度の会話が続く。

「うん……最後は賭けだったけど、何とかうまく行って良かった。あと、ゲーム自体の人気は……うん……僕は好きだけど、世間って移り気で残酷だからさ……」

僕は、好きだけど正直もう手遅れなしぼみ方をしている気がするゲームの画面を見て――すっと目を逸らす。

「メジャーじゃないよね、今の。ゲームの人気とか、流行ってないと基本下がる一方だし……うん……ゲーム業界にも一定周期で流行があるし……ほら、一時期は天下取ってたソシャゲとかも、今や……だし……このタイトル、その1世代前が最盛期だったし……うん……画質も今からすれば悪いし、良いところがあるとすれば低スペックのPCでも遊べるくらいで……うん……祇園精舎っていうか……源平合戦っていうか……」

かける言葉が見つからない。
こういうときのための言葉。

【草】
【「うん……」なんだよ草】
【言わないのがこはねちゃんの優しさだぞ】
【祇園精舎で草】
【源平合戦とかなんでそんなワード出てくるんだよ草】

【まぁしゃあない】
【それでもこうして過疎ゲーをプレイしてくれるだけでしあわせ】
【分かる】

【でも、こういうとき収益化してたら投げ銭で祝えるのになぁ】
【かといって普通に受け取るのは困るって言うし】
【ゲーム自体も、配信で収益化できるほど競技人口が……】

【このゲームでも海外勢は再生数伸びてるのになぁ】

【何カ国では今ブームになってきてるらしいし】
【言語の壁か】
【おいやめろ】
【心が痛くなってきた】

時計を見上げると、たまたまうまくいったけど疲れた2時間が過ぎたことを実感する。

深夜の3時。
同接は、珍しくちょっと増えている。

この時間のことを考えると、むしろバズったといっても良い増え方。

――でもどうせ、次の配信では普段のぽつぽつとしか話さないしコメントも流れない地味な配信に戻るのは知っている。

僕には魅力がないから。
分かっているから、傷つきはしない。

でも、僕はこういうのが好きなんだ。

廃れた路地裏でパフォーマンスをしていて、酔っ払ってるからなんでも楽しんでくれる優しい人たちだけが見てくれているっていう、こんな場末の雰囲気が。

……だからそんな彼らがTSってのを望むのなら、1回くらいボイチェンでも使って女の子のフリするバ美肉とかくらい――。

疲れた目元を、かいた汗を拭うついでで揉みふぐしてから開いて画面へ向けると――ワンテンポずれて、僕と同じように目を閉じていたアニメ調の女の子が目を開く。

アバター。
VTuber。

僕は、そういうものをやっている。

もっとも――僕は、こんなかわいい子とはほど遠い、ごく普通の男だけど。
さらには、別にこれで生計を立てているわけでももくろんでいるわけでもない。

ただの、趣味。

無趣味なニートをしてると発狂しそうになるからの、せめて「何かしてる感」を実感したいだけのそれ。

僕っていう存在はクラスのどこにもなくって、同世代がみんな社会に羽ばたいて所属している今となっては、もはや霧のような何か。

「だからせめて誰かには認知してもらいたい」。

それだけの気持ちから生まれた「等身大の、もうひとりの僕」。

いくら自堕落なニートであっても、何かをしている錯覚でもないと考えたくもない将来の不安がやってくるんだから。
逃避先としての娯楽コンテンツをひととおり楽しみ尽くした後のニートは悲惨なんだ。

【こはねちゃんぺろぺろ】

【かわいい】
【男だぞ?】
【だが】
【それがいい】
【TSっ子だからな】

【それに、声に関しては脳内変換してロリヴォイスにすれば良いだけのことだしな】

【分かる】
【俺レベルになると声も顔も自由自在だぞ】
【それって相手が誰でも良いんじゃ……】
【そうとも言う】
【草】
【上級者で草】

「うん、僕はともかく、ひより先生が描いてくれた『こはねちゃん』はかわいいよね。僕はともかく」

【は??】
【かわいいんだが??】
【照れちゃって】
【かわいい】

【男口調で一人称僕な美少女とか大好物なんだが??】
【それでいて性自認が男ってのも……ふぅ……】
【「僕はかわいくないからな!」って真っ赤なTSっ子……ふぅ……】
【えぇ……】

VTuberとは、動くアニメイラストのガワをかぶり、そのキャラクターになりきって配信するスタイルの配信者だ。
そして僕は、俗に言う「バ美肉」――バーチャル美少女受肉、つまりはネカマをしているタイプ。

声とかまでもやってないし女の子なしゃべり方とか接し方もしてないから、本物のバ美肉さんたちには失礼だけど。

でも別に僕に女装願望があるわけじゃないし、ましてやTSとかファンタジーな願望もあるはずがない。

TSな話題が盛り上がったのも、今日が初めてだしな。
なんでか知らないけども今日が異常なんだ。

――僕は、もう25だ。

さすがにこの世界に魔法みたいなことなんて存在しないと、心の底で確かに理解しているんだ。

1年くらい前、この配信中に流れた「せっかく配信するんだし、せめて華が欲しいよなぁ」ってコメント欄で思いつき、推しの絵師さん――ひより大菩薩先生に頼み込んで描いてもらっただけのガワ。

それまでは本当に声だけでやってたから、そのときまではただの配信者。
それが今はVTuberという括りにはなったものの、やってることは変わらない。

ふわふわとしたセミロング――腰まで伸びる薄い紫の髪の毛、片方のサイドには小さな三つ編み。

今どきのアニメ、というよりは少女マンガに近い幼い印象の作画、琥珀の大きな目。

人懐っこそうな笑顔がデフォルトだから、配信ソフトで常に僕の動かない表情筋をモニターしているはず。
なのに画面に映って動いているキャラクターは、甘えたさそうにこちらを見つめている。

服はパーカーにスカート――ただし配信画面には上半身しか映らず、つまりはおしゃれというよりは普段着な、妹みたいな印象を与える子。

それが、僕のガワの「綾咲こはね」だ。

……本名の「綾瀬直羽」をもじっただけの、だけどバーチャルな分身として違和感のない名前。

こんな呼ばれ方はしたことないけども、名前の漢字を見てたらふと思いついた名前――小さな羽を、なんとなくでひらがなにしただけ。

特に理由は無い、ただの「こはね」。

そりゃあこんなかわいい子にTSとかできたら、きっと人生バラ色だろう。
僕だってできるんならそうなりたいさ。

きっとちやほやされて自己評価も壊滅しているコミュニケーション能力も回復するだろう。

でもここは現実なんだ、異性に――別人になんて、なるはずがないんだから。
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