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2章 Q.女の子になったら? A.引きこもる
11話 臭くて怖くて詰んで泣いちゃった
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僕は、起きたら女の子になっていた。
そして、どうやら夢でもないらしい。
そんな事実を認識した僕は――脱いだ。
「………………………………」
振り返った先のベッドにへばりついた、寝る前に穿いていたはずで、なめくじしたらずり落ちたズボンとパンツ。
そして、こっちは自分から脱ぎ捨てたパジャマ。
脱ぎ捨てた理由?
――臭かったからだよ、男の体臭で。
全然気にならなかったはずの――2年くらい使ってるパジャマに染み付いてた、僕の臭いが。
「………………………………」
どう表現したら良いのか分からないけども、臭い。
とにかく臭い。
毎日ちゃんとお風呂に入ってドライヤーで乾かしていても綺麗好きな自覚はあったけども――それでも臭い。
なんていうか、男臭い。
汗臭いとか不潔な臭いとかそういうわけじゃなく……「男」の臭いがするんだ。
「うっぷ……うぇ……ぐす……」
それを「別人の男」のものとして認識してるって事実で僕は胃液が上がってきたけども、僕は耐える。
臭いけども、これは僕が振りまいてた体臭なんだって。
優花や家族も、これを我慢してくれてたんだって。
そういえば、この部屋自体も臭い。
そう意識すると臭いし臭くて臭い。
「……っとと、さすがにまずいよなぁ」
換気でもしようとカーテンに手を掛けるも、窓際に立つ姿が「下着のシャツ1枚で突っ立ってる――高く見積もっても中学生の女の子」だと気づいた僕はあわてて下がり、クローゼットに潜り込んで、しばし――あった!
「すんすん……しょうがない、ひとまずはこれで……」
冬から押し込めてあったパーカーを、もぞもぞと羽織る。
確か、優花がどっかのおみやげとして買ってきてくれたけども、1回着てから忘れてしまい込んでたやつ。
「……ぶかぶかだ……」
本来なら腰の位置までだったはずの裾が、ふとももが半分くらい隠れるサイズになっている。
鏡で見て「そういやこういう女の子のファッションとかあったな」って妙に感心して。
――ついでに、今の姿が、パーカーのサイズこそ違うものの「こはね」としての「大きめのパーカーの下にスカートという立ち絵そのまま」――スカートを穿いてないだけ――だと気がつく。
「ひぃっ……!」
――ぞくっ。
冷たいものが、背筋を伝う。
目じりに涙がにじむ。
お酒を飲みすぎたときみたいに、初対面の人間を相手にしたときみたいに、胃が冷たく硬くなってせり上がってこようとする。
「……立ち絵そのままの姿。僕がおかしくなったんじゃなければ――いや、体はおかしくなってるけども――何か、あるよなぁ……」
思考能力は寝起きとあってクリア、五感も普段より敏感なまである上、シャツにパーカーだけの姿だからおなかとふとももがこそばゆいし、すーすーと寒い。
「呪い? いやいや、僕は呪われるほど世界に出てないし……いや、優花とか父さん母さんならあり得るのか……? でも、そんなことするなら、こんなかわいい姿とかじゃなく、いっそのこと醜悪な虫にでもして合法的にたたき出せるようにするはずだしなぁ……」
僕は本棚にあるはずの、かわいそうなことにある日突然に嫌悪感しかない存在に変身しちゃった、何も悪くないのにかわいそうな青年の末路についての本を思い浮かべる。
「……うん、穀潰しの虫とでも思っているんなら、その方が楽なはず……いや、処分するにしても人間代の虫は嫌か、そうだよなぁ……でも、こんな女の子を叩き出せるような人たちじゃないしなぁ……そうだったらとっくに追い出されてるはずだし……うん、家族じゃない……いっそのことハエにでもしてくれるはず……」
非科学的でオカルト的な動画は距離を置きつつも全力で楽しむスタイルの僕だけども、さすがにこの状況にはそういうものしか当てはまらないとも認識している。
――呪いで、女の子に?
それも、アニメとかマンガの美少女をそのままリアルに変換して持ってきたみたいな、とんでもなくかわいい子に?
「………………………………」
認めたくはないし、認知したくはないし、自覚したくはない。
けれど――少なくともこう考えられている以上、僕は女の子になってしまった。
なってしまっている。
ついさっきに見たことのない体つきと感じたことのない刺激で頭が沸騰しそうになったんだ、事実は事実として認めないと。
しかも――学校一の美人と鼻が高い優花に勝るとも劣らない、けれども絶対的に遺伝子の違う顔立ちの、幼い子に。
――きゅぽんっ。
「……ぷは。……とりあえず、味覚は元のままで良かったぁ……」
そんなかわいい子になった僕は――そんなかわいい子の吐息を酒臭く汚染した。
あと――こんな見た目と肉体でも、中身は僕のままだったらしい。
とりあえず、普段程度のアルコールは無事分解できるようだった。
◇
「おはよう……と」
ぽちぽち。
スマホを操作して、しばらく待つ。
――ぴこん。
【おはよう】
【もう夕方だぞ】
【まーた昼夜逆転か】
【知ってた】
【ねぇねぇTSした? した?】
「ひゅっ……」
息が止まる。
お腹がぎゅっと縮み上がり、冷や汗がにじむ。
「うぇっ……ぐす、うぷっ……」
僕は思わずスマホを取り落として体を丸める。
「ふぇ……ダメ、泣いちゃ……ぐす……」
そして自然に泣き出そうとしている体をなだめようと努力する。
「……すん、こわいのやだぁ……」
外見通りの幼い精神年齢な肉体が怖がるのを自覚しながら、震える手で開きっぱなしの画面をのぞき込む。
「あぇあぁぁぁぁ……」
ぷるぷる震える体が自発的な鳴き声を上げる。
【? 何の話?】
【あ、昨夜はなぜかこはねちゃんの配信でTSが盛り上がったんよ】
【そうそう、こはねちゃんさんがTSロリっ子だったってことになった】
【草】
【こはねさんがこはねちゃんになってるしTSの話題とか……なぜ昨日見に行かなかったんだ俺は……】
【かなしい】
【草】
【アーカイブで見ろ やたらテンション高かったからTS僕っ子に脳内変換すると捗るぞ】
「……ふぅ。大丈夫だ、昨日のネタなだけだ」
ばくばくとうるさい心臓を抑え、夕方のおはツイというものをしてぶら下がってくるリプライを読みながら、しばらくやりとりする。
……大丈夫だ、見た感じ昨日のネタを引きずっているだけで、誰も本気になんて当然ながらしていない。
そりゃあそうだ、TSなんて普通はあり得ないからな。
たぶん今日の配信でも似た感じになるだろうけど、軽く「そろそろやめよっか」って言えば、やめてくれるはず。
そうだ、基本的にコアなファンは聞き分けが良い。
だから、ちゃんと配信で言えば――――――って。
「……この声で? 女の子の?」
口から響いてくる声は、どう聞いたって幼い女の子そのもの。
――こんな声で配信なんかしたら、本当にTSしたってバレ――
「……ないない。そうだな、ボイチェンだって思われるはずだ……うん、とりあえずは問題ない。これまで何年も男声だったんだし……そうだ、ヒマなときひたすらムーチューブを更新しておすすめで出てくる動画とかの中に『男がボイチェン使って釣ってみた』とかあったし、この界隈ならみんなそう思うはず……」
そもそもとして配信も週7をノルマにしているわけじゃなく、なんかだるいとかでも休むし、理由もなしに1週間くらいふけるときもある。
趣味の配信だって公言しているし、事態が落ち着くまで休んでも変に思われることもないはずだ。
だから――
――――――こんこん。
「ひゅっ」
心臓が、わしづかみにされた感覚。
被捕食生物が天敵に見つかった感覚。
僕はもうだめだ。
「兄さん、卵、買ってきました」
「………………………………」
「? 兄さん? ……まだ寝ているのですね。それにしても、最近は卵まで高くなって……」
……とん、とん。
閉めたドア越しに――特段に不審に思った響きを含まないひとり言と、普段の通りの足音。
「………………………………」
「……はぁぁぁぁぁー……ぐす……こわくない、こわくない」
安心したからか、僕はへなへなと床に座り込んだ。
ついでに涙が勝手に出てきて、しばらくぐしぐしと手の甲でぬぐった。
なんだか幼児退行している気がするけども、この見た目の肉体相応だとしたら当然なのかもしれない。
そうだよな、人の性格とかなんて肉体に依存するんだ。
昨日までの僕を見ろ、幼いころから人見知りが治らないどころか盛大に悪化していたんだから。
――けどもそうだった、出かける前、そんなやりとりしたんだもんな。
学校から帰って来る途中に買ってきた卵。
それを伝えにきただけ。
特に理由があるわけでもない。
それに、僕がたまに徹夜をしたりして生活リズムをさらに崩すときがあるのを、彼女は知っている。
それか、単純に寝坊しているだけ。
そう、思ったはずだ。
落ち着け、落ち着こう。
妹にすら怯えて泣くようになったら、いよいよ人生終わりなんだから。
けども――そうか。
「優花への、朝の挨拶。……どうしよう」
困った。
これから半日を過ぎたあとに来る、明日の朝の会話。
妹との、唯一の――けれど、約束しているコミュニケーション。
1日2日ならごまかせるにしても――少なくともこの1年はがんばって起きてこなしていた儀式を、急にしなくなる。
不審に思って踏み込まれてもおかしくはない状況だ。
何しろ僕には、この部屋で勝手にすっ転んで意識を失ったのを発見されて泣きながら救急車で付き添われたっていう情けなさすぎる前科があるんだから。
「……これ、詰んだ?」
ふと気がつくと、僕は座り込んだ姿勢がいわゆる「女の子座り」というものになっていて、「ああ、本当に骨格まで女の子になっているんだな」なんてどうでも良い感想を覚えていた。
「……ふぇ、うぇぇ……」
――そして、やっぱり体は泣くのをやめられなかった。
そして、どうやら夢でもないらしい。
そんな事実を認識した僕は――脱いだ。
「………………………………」
振り返った先のベッドにへばりついた、寝る前に穿いていたはずで、なめくじしたらずり落ちたズボンとパンツ。
そして、こっちは自分から脱ぎ捨てたパジャマ。
脱ぎ捨てた理由?
――臭かったからだよ、男の体臭で。
全然気にならなかったはずの――2年くらい使ってるパジャマに染み付いてた、僕の臭いが。
「………………………………」
どう表現したら良いのか分からないけども、臭い。
とにかく臭い。
毎日ちゃんとお風呂に入ってドライヤーで乾かしていても綺麗好きな自覚はあったけども――それでも臭い。
なんていうか、男臭い。
汗臭いとか不潔な臭いとかそういうわけじゃなく……「男」の臭いがするんだ。
「うっぷ……うぇ……ぐす……」
それを「別人の男」のものとして認識してるって事実で僕は胃液が上がってきたけども、僕は耐える。
臭いけども、これは僕が振りまいてた体臭なんだって。
優花や家族も、これを我慢してくれてたんだって。
そういえば、この部屋自体も臭い。
そう意識すると臭いし臭くて臭い。
「……っとと、さすがにまずいよなぁ」
換気でもしようとカーテンに手を掛けるも、窓際に立つ姿が「下着のシャツ1枚で突っ立ってる――高く見積もっても中学生の女の子」だと気づいた僕はあわてて下がり、クローゼットに潜り込んで、しばし――あった!
「すんすん……しょうがない、ひとまずはこれで……」
冬から押し込めてあったパーカーを、もぞもぞと羽織る。
確か、優花がどっかのおみやげとして買ってきてくれたけども、1回着てから忘れてしまい込んでたやつ。
「……ぶかぶかだ……」
本来なら腰の位置までだったはずの裾が、ふとももが半分くらい隠れるサイズになっている。
鏡で見て「そういやこういう女の子のファッションとかあったな」って妙に感心して。
――ついでに、今の姿が、パーカーのサイズこそ違うものの「こはね」としての「大きめのパーカーの下にスカートという立ち絵そのまま」――スカートを穿いてないだけ――だと気がつく。
「ひぃっ……!」
――ぞくっ。
冷たいものが、背筋を伝う。
目じりに涙がにじむ。
お酒を飲みすぎたときみたいに、初対面の人間を相手にしたときみたいに、胃が冷たく硬くなってせり上がってこようとする。
「……立ち絵そのままの姿。僕がおかしくなったんじゃなければ――いや、体はおかしくなってるけども――何か、あるよなぁ……」
思考能力は寝起きとあってクリア、五感も普段より敏感なまである上、シャツにパーカーだけの姿だからおなかとふとももがこそばゆいし、すーすーと寒い。
「呪い? いやいや、僕は呪われるほど世界に出てないし……いや、優花とか父さん母さんならあり得るのか……? でも、そんなことするなら、こんなかわいい姿とかじゃなく、いっそのこと醜悪な虫にでもして合法的にたたき出せるようにするはずだしなぁ……」
僕は本棚にあるはずの、かわいそうなことにある日突然に嫌悪感しかない存在に変身しちゃった、何も悪くないのにかわいそうな青年の末路についての本を思い浮かべる。
「……うん、穀潰しの虫とでも思っているんなら、その方が楽なはず……いや、処分するにしても人間代の虫は嫌か、そうだよなぁ……でも、こんな女の子を叩き出せるような人たちじゃないしなぁ……そうだったらとっくに追い出されてるはずだし……うん、家族じゃない……いっそのことハエにでもしてくれるはず……」
非科学的でオカルト的な動画は距離を置きつつも全力で楽しむスタイルの僕だけども、さすがにこの状況にはそういうものしか当てはまらないとも認識している。
――呪いで、女の子に?
それも、アニメとかマンガの美少女をそのままリアルに変換して持ってきたみたいな、とんでもなくかわいい子に?
「………………………………」
認めたくはないし、認知したくはないし、自覚したくはない。
けれど――少なくともこう考えられている以上、僕は女の子になってしまった。
なってしまっている。
ついさっきに見たことのない体つきと感じたことのない刺激で頭が沸騰しそうになったんだ、事実は事実として認めないと。
しかも――学校一の美人と鼻が高い優花に勝るとも劣らない、けれども絶対的に遺伝子の違う顔立ちの、幼い子に。
――きゅぽんっ。
「……ぷは。……とりあえず、味覚は元のままで良かったぁ……」
そんなかわいい子になった僕は――そんなかわいい子の吐息を酒臭く汚染した。
あと――こんな見た目と肉体でも、中身は僕のままだったらしい。
とりあえず、普段程度のアルコールは無事分解できるようだった。
◇
「おはよう……と」
ぽちぽち。
スマホを操作して、しばらく待つ。
――ぴこん。
【おはよう】
【もう夕方だぞ】
【まーた昼夜逆転か】
【知ってた】
【ねぇねぇTSした? した?】
「ひゅっ……」
息が止まる。
お腹がぎゅっと縮み上がり、冷や汗がにじむ。
「うぇっ……ぐす、うぷっ……」
僕は思わずスマホを取り落として体を丸める。
「ふぇ……ダメ、泣いちゃ……ぐす……」
そして自然に泣き出そうとしている体をなだめようと努力する。
「……すん、こわいのやだぁ……」
外見通りの幼い精神年齢な肉体が怖がるのを自覚しながら、震える手で開きっぱなしの画面をのぞき込む。
「あぇあぁぁぁぁ……」
ぷるぷる震える体が自発的な鳴き声を上げる。
【? 何の話?】
【あ、昨夜はなぜかこはねちゃんの配信でTSが盛り上がったんよ】
【そうそう、こはねちゃんさんがTSロリっ子だったってことになった】
【草】
【こはねさんがこはねちゃんになってるしTSの話題とか……なぜ昨日見に行かなかったんだ俺は……】
【かなしい】
【草】
【アーカイブで見ろ やたらテンション高かったからTS僕っ子に脳内変換すると捗るぞ】
「……ふぅ。大丈夫だ、昨日のネタなだけだ」
ばくばくとうるさい心臓を抑え、夕方のおはツイというものをしてぶら下がってくるリプライを読みながら、しばらくやりとりする。
……大丈夫だ、見た感じ昨日のネタを引きずっているだけで、誰も本気になんて当然ながらしていない。
そりゃあそうだ、TSなんて普通はあり得ないからな。
たぶん今日の配信でも似た感じになるだろうけど、軽く「そろそろやめよっか」って言えば、やめてくれるはず。
そうだ、基本的にコアなファンは聞き分けが良い。
だから、ちゃんと配信で言えば――――――って。
「……この声で? 女の子の?」
口から響いてくる声は、どう聞いたって幼い女の子そのもの。
――こんな声で配信なんかしたら、本当にTSしたってバレ――
「……ないない。そうだな、ボイチェンだって思われるはずだ……うん、とりあえずは問題ない。これまで何年も男声だったんだし……そうだ、ヒマなときひたすらムーチューブを更新しておすすめで出てくる動画とかの中に『男がボイチェン使って釣ってみた』とかあったし、この界隈ならみんなそう思うはず……」
そもそもとして配信も週7をノルマにしているわけじゃなく、なんかだるいとかでも休むし、理由もなしに1週間くらいふけるときもある。
趣味の配信だって公言しているし、事態が落ち着くまで休んでも変に思われることもないはずだ。
だから――
――――――こんこん。
「ひゅっ」
心臓が、わしづかみにされた感覚。
被捕食生物が天敵に見つかった感覚。
僕はもうだめだ。
「兄さん、卵、買ってきました」
「………………………………」
「? 兄さん? ……まだ寝ているのですね。それにしても、最近は卵まで高くなって……」
……とん、とん。
閉めたドア越しに――特段に不審に思った響きを含まないひとり言と、普段の通りの足音。
「………………………………」
「……はぁぁぁぁぁー……ぐす……こわくない、こわくない」
安心したからか、僕はへなへなと床に座り込んだ。
ついでに涙が勝手に出てきて、しばらくぐしぐしと手の甲でぬぐった。
なんだか幼児退行している気がするけども、この見た目の肉体相応だとしたら当然なのかもしれない。
そうだよな、人の性格とかなんて肉体に依存するんだ。
昨日までの僕を見ろ、幼いころから人見知りが治らないどころか盛大に悪化していたんだから。
――けどもそうだった、出かける前、そんなやりとりしたんだもんな。
学校から帰って来る途中に買ってきた卵。
それを伝えにきただけ。
特に理由があるわけでもない。
それに、僕がたまに徹夜をしたりして生活リズムをさらに崩すときがあるのを、彼女は知っている。
それか、単純に寝坊しているだけ。
そう、思ったはずだ。
落ち着け、落ち着こう。
妹にすら怯えて泣くようになったら、いよいよ人生終わりなんだから。
けども――そうか。
「優花への、朝の挨拶。……どうしよう」
困った。
これから半日を過ぎたあとに来る、明日の朝の会話。
妹との、唯一の――けれど、約束しているコミュニケーション。
1日2日ならごまかせるにしても――少なくともこの1年はがんばって起きてこなしていた儀式を、急にしなくなる。
不審に思って踏み込まれてもおかしくはない状況だ。
何しろ僕には、この部屋で勝手にすっ転んで意識を失ったのを発見されて泣きながら救急車で付き添われたっていう情けなさすぎる前科があるんだから。
「……これ、詰んだ?」
ふと気がつくと、僕は座り込んだ姿勢がいわゆる「女の子座り」というものになっていて、「ああ、本当に骨格まで女の子になっているんだな」なんてどうでも良い感想を覚えていた。
「……ふぇ、うぇぇ……」
――そして、やっぱり体は泣くのをやめられなかった。
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