TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~

あずももも

文字の大きさ
11 / 167
2章 Q.女の子になったら? A.引きこもる

11話 臭くて怖くて詰んで泣いちゃった

しおりを挟む
僕は、起きたら女の子になっていた。
そして、どうやら夢でもないらしい。

そんな事実を認識した僕は――脱いだ。

「………………………………」

振り返った先のベッドにへばりついた、寝る前に穿いていたはずで、なめくじしたらずり落ちたズボンとパンツ。

そして、こっちは自分から脱ぎ捨てたパジャマ。

脱ぎ捨てた理由?

――臭かったからだよ、男の体臭で。

全然気にならなかったはずの――2年くらい使ってるパジャマに染み付いてた、僕の臭いが。

「………………………………」

どう表現したら良いのか分からないけども、臭い。
とにかく臭い。

毎日ちゃんとお風呂に入ってドライヤーで乾かしていても綺麗好きな自覚はあったけども――それでも臭い。

なんていうか、男臭い。
汗臭いとか不潔な臭いとかそういうわけじゃなく……「男」の臭いがするんだ。

「うっぷ……うぇ……ぐす……」

それを「別人の男」のものとして認識してるって事実で僕は胃液が上がってきたけども、僕は耐える。

臭いけども、これは僕が振りまいてた体臭なんだって。
優花や家族も、これを我慢してくれてたんだって。

そういえば、この部屋自体も臭い。
そう意識すると臭いし臭くて臭い。

「……っとと、さすがにまずいよなぁ」

換気でもしようとカーテンに手を掛けるも、窓際に立つ姿が「下着のシャツ1枚で突っ立ってる――高く見積もっても中学生の女の子」だと気づいた僕はあわてて下がり、クローゼットに潜り込んで、しばし――あった!

「すんすん……しょうがない、ひとまずはこれで……」

冬から押し込めてあったパーカーを、もぞもぞと羽織る。

確か、優花がどっかのおみやげとして買ってきてくれたけども、1回着てから忘れてしまい込んでたやつ。

「……ぶかぶかだ……」

本来なら腰の位置までだったはずの裾が、ふとももが半分くらい隠れるサイズになっている。

鏡で見て「そういやこういう女の子のファッションとかあったな」って妙に感心して。

――ついでに、今の姿が、パーカーのサイズこそ違うものの「こはね」としての「大きめのパーカーの下にスカートという立ち絵そのまま」――スカートを穿いてないだけ――だと気がつく。

「ひぃっ……!」

――ぞくっ。

冷たいものが、背筋を伝う。

目じりに涙がにじむ。

お酒を飲みすぎたときみたいに、初対面の人間を相手にしたときみたいに、胃が冷たく硬くなってせり上がってこようとする。

「……立ち絵そのままの姿。僕がおかしくなったんじゃなければ――いや、体はおかしくなってるけども――何か、あるよなぁ……」

思考能力は寝起きとあってクリア、五感も普段より敏感なまである上、シャツにパーカーだけの姿だからおなかとふとももがこそばゆいし、すーすーと寒い。

「呪い? いやいや、僕は呪われるほど世界に出てないし……いや、優花とか父さん母さんならあり得るのか……? でも、そんなことするなら、こんなかわいい姿とかじゃなく、いっそのこと醜悪な虫にでもして合法的にたたき出せるようにするはずだしなぁ……」

僕は本棚にあるはずの、かわいそうなことにある日突然に嫌悪感しかない存在に変身しちゃった、何も悪くないのにかわいそうな青年の末路についての本を思い浮かべる。

「……うん、穀潰しの虫とでも思っているんなら、その方が楽なはず……いや、処分するにしても人間代の虫は嫌か、そうだよなぁ……でも、こんな女の子を叩き出せるような人たちじゃないしなぁ……そうだったらとっくに追い出されてるはずだし……うん、家族じゃない……いっそのことハエにでもしてくれるはず……」

非科学的でオカルト的な動画は距離を置きつつも全力で楽しむスタイルの僕だけども、さすがにこの状況にはそういうものしか当てはまらないとも認識している。

――呪いで、女の子に?

それも、アニメとかマンガの美少女をそのままリアルに変換して持ってきたみたいな、とんでもなくかわいい子に?

「………………………………」

認めたくはないし、認知したくはないし、自覚したくはない。

けれど――少なくともこう考えられている以上、僕は女の子になってしまった。

なってしまっている。

ついさっきに見たことのない体つきと感じたことのない刺激で頭が沸騰しそうになったんだ、事実は事実として認めないと。

しかも――学校一の美人と鼻が高い優花に勝るとも劣らない、けれども絶対的に遺伝子の違う顔立ちの、幼い子に。

――きゅぽんっ。

「……ぷは。……とりあえず、味覚は元のままで良かったぁ……」

そんなかわいい子になった僕は――そんなかわいい子の吐息を酒臭く汚染した。

あと――こんな見た目と肉体でも、中身は僕のままだったらしい。
とりあえず、普段程度のアルコールは無事分解できるようだった。





「おはよう……と」

ぽちぽち。

スマホを操作して、しばらく待つ。

――ぴこん。

【おはよう】
【もう夕方だぞ】
【まーた昼夜逆転か】
【知ってた】

【ねぇねぇTSした? した?】

「ひゅっ……」

息が止まる。

お腹がぎゅっと縮み上がり、冷や汗がにじむ。

「うぇっ……ぐす、うぷっ……」

僕は思わずスマホを取り落として体を丸める。

「ふぇ……ダメ、泣いちゃ……ぐす……」

そして自然に泣き出そうとしている体をなだめようと努力する。

「……すん、こわいのやだぁ……」

外見通りの幼い精神年齢な肉体が怖がるのを自覚しながら、震える手で開きっぱなしの画面をのぞき込む。

「あぇあぁぁぁぁ……」

ぷるぷる震える体が自発的な鳴き声を上げる。

【? 何の話?】
【あ、昨夜はなぜかこはねちゃんの配信でTSが盛り上がったんよ】
【そうそう、こはねちゃんさんがTSロリっ子だったってことになった】
【草】

【こはねさんがこはねちゃんになってるしTSの話題とか……なぜ昨日見に行かなかったんだ俺は……】

【かなしい】
【草】
【アーカイブで見ろ  やたらテンション高かったからTS僕っ子に脳内変換すると捗るぞ】

「……ふぅ。大丈夫だ、昨日のネタなだけだ」

ばくばくとうるさい心臓を抑え、夕方のおはツイというものをしてぶら下がってくるリプライを読みながら、しばらくやりとりする。

……大丈夫だ、見た感じ昨日のネタを引きずっているだけで、誰も本気になんて当然ながらしていない。

そりゃあそうだ、TSなんて普通はあり得ないからな。

たぶん今日の配信でも似た感じになるだろうけど、軽く「そろそろやめよっか」って言えば、やめてくれるはず。

そうだ、基本的にコアなファンは聞き分けが良い。
だから、ちゃんと配信で言えば――――――って。

「……この声で? 女の子の?」

口から響いてくる声は、どう聞いたって幼い女の子そのもの。

――こんな声で配信なんかしたら、本当にTSしたってバレ――

「……ないない。そうだな、ボイチェンだって思われるはずだ……うん、とりあえずは問題ない。これまで何年も男声だったんだし……そうだ、ヒマなときひたすらムーチューブを更新しておすすめで出てくる動画とかの中に『男がボイチェン使って釣ってみた』とかあったし、この界隈ならみんなそう思うはず……」

そもそもとして配信も週7をノルマにしているわけじゃなく、なんかだるいとかでも休むし、理由もなしに1週間くらいふけるときもある。

趣味の配信だって公言しているし、事態が落ち着くまで休んでも変に思われることもないはずだ。

だから――

――――――こんこん。

「ひゅっ」

心臓が、わしづかみにされた感覚。
被捕食生物が天敵に見つかった感覚。

僕はもうだめだ。

「兄さん、卵、買ってきました」

「………………………………」

「? 兄さん? ……まだ寝ているのですね。それにしても、最近は卵まで高くなって……」

……とん、とん。

閉めたドア越しに――特段に不審に思った響きを含まないひとり言と、普段の通りの足音。

「………………………………」

「……はぁぁぁぁぁー……ぐす……こわくない、こわくない」

安心したからか、僕はへなへなと床に座り込んだ。
ついでに涙が勝手に出てきて、しばらくぐしぐしと手の甲でぬぐった。

なんだか幼児退行している気がするけども、この見た目の肉体相応だとしたら当然なのかもしれない。

そうだよな、人の性格とかなんて肉体に依存するんだ。

昨日までの僕を見ろ、幼いころから人見知りが治らないどころか盛大に悪化していたんだから。

――けどもそうだった、出かける前、そんなやりとりしたんだもんな。

学校から帰って来る途中に買ってきた卵。

それを伝えにきただけ。
特に理由があるわけでもない。

それに、僕がたまに徹夜をしたりして生活リズムをさらに崩すときがあるのを、彼女は知っている。

それか、単純に寝坊しているだけ。
そう、思ったはずだ。

落ち着け、落ち着こう。

妹にすら怯えて泣くようになったら、いよいよ人生終わりなんだから。

けども――そうか。

「優花への、朝の挨拶。……どうしよう」

困った。

これから半日を過ぎたあとに来る、明日の朝の会話。

妹との、唯一の――けれど、約束しているコミュニケーション。

1日2日ならごまかせるにしても――少なくともこの1年はがんばって起きてこなしていた儀式を、急にしなくなる。

不審に思って踏み込まれてもおかしくはない状況だ。

何しろ僕には、この部屋で勝手にすっ転んで意識を失ったのを発見されて泣きながら救急車で付き添われたっていう情けなさすぎる前科があるんだから。

「……これ、詰んだ?」

ふと気がつくと、僕は座り込んだ姿勢がいわゆる「女の子座り」というものになっていて、「ああ、本当に骨格まで女の子になっているんだな」なんてどうでも良い感想を覚えていた。

「……ふぇ、うぇぇ……」

――そして、やっぱり体は泣くのをやめられなかった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

辺境ギルドの受付嬢ですが、冒険者の嘘は帳簿でぜんぶバレます

蒼月よる
ファンタジー
素材の重さが申告と合わない。鑑定書の書式がおかしい。冒険者が持ち込む報告書には、いつもどこかに嘘がある。 辺境の小さなギルド支部で、受付嬢ナタリアは今日も一人、帳簿を武器に冒険者たちの嘘と向き合っている。剣も魔法も使えない。でも素材を見る目と、数字の辻褄を見抜く勘だけは、誰にも負けない。 持ち込まれた棘鱗の産地が違う。新人冒険者の目が妙に鋭い。腕のいい薬師が素性を隠している。書類を処理するだけの毎日のはずが、カウンターの向こうには不思議な人々と、小さな謎が絶えない。 一話完結の日常謎解き。辺境の受付カウンターから覗く、冒険者たちの嘘と真実の物語。 この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。 ・世界観・設定の管理補助 ・プロット段階の壁打ち ・作者による執筆後の校正

しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる

長月 鳥
ファンタジー
町の電気屋として細々と暮らしていた俺、轟電次郎(とどろき でんじろう)。 ある日、感電事故であっけなく人生終了──のはずが、目を覚ましたら異世界だった。 そこは魔法がすべての世界。 スマホも、ドライヤーも、炊飯器も、どこにもない。 でもなぜか俺だけは、“電力を生み出し家電を召喚できる”という特異体質を持っていて── 「ちょっと暮らしやすくなればそれでいい」 そんなつもりで始めた異世界ライフだったのに…… 家電の便利さがバレて、王族に囲まれ、魔導士に拉致され、気が付けば── 「この男こそ、我らの神(インフラ)である!」 えぇ……なんでそうなるの!? 電気と生活の知恵で異世界を変える、 元・電気屋おっさんのドタバタ英雄(?)譚!

無自覚に世界最強だった俺、追放後にチートがバレて全員ざまぁされる件

fuwamofu
ファンタジー
冒険者団から「役立たず」と追放された青年リオ。 実は彼のスキル《創造》は、世界の理を作り替える最強の能力だった。 追放後、孤独な旅に出るリオは、自身の無自覚な力で人々を救い、国を救い、やがて世界の中心に立つ。 そんな彼の元には、かつて彼を見下していた美少女たちが次々と跪いていく──。 これは、無自覚に世界を変えてしまう青年の、ざまぁと覇道の物語。

ダンジョン嫌いの元英雄は裏方仕事に徹したい ~うっかりA級攻略者をワンパンしたら、切り抜き動画が世界中に拡散されてしまった件~

厳座励主(ごんざれす)
ファンタジー
「英雄なんて、もう二度とごめんだ」 ダンジョン出現から10年。 攻略が『配信』という娯楽に形を変えた現代。 かつて日本を救った伝説の英雄は、ある事情から表舞台を去り、ダンジョン攻略支援用AI『アリス』の開発に没頭する裏方へと転身していた。 ダンジョンも、配信も、そして英雄と呼ばれることも。 すべてを忌み嫌う彼は、裏方に徹してその生涯を終える……はずだった。 アリスの試験運用中に遭遇した、迷惑系配信者の暴挙。 少女を救うために放った一撃が、あろうことか世界中にライブ配信されてしまう。 その結果―― 「――ダンジョン嫌いニキ、強すぎるだろ!!」 意図せず爆増するファン、殺到するスポンサー。 静寂を望む願いをよそに、世界は彼を再び『英雄』の座へと引きずり戻していく。

強制ハーレムな世界で元囚人の彼は今日もマイペースです。

きゅりおす
SF
ハーレム主人公は元囚人?!ハーレム風SFアクション開幕! 突如として男性の殆どが消滅する事件が発生。 そんな人口ピラミッド崩壊な世界で女子生徒が待ち望んでいる中、現れる男子生徒、ハーレムの予感(?) 異色すぎる主人公が周りを巻き込みこの世界を駆ける!

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

異世界で鍛冶屋をやってるだけのはずが、神々に最強認定されてハーレムができてた件

えりぽん
ファンタジー
平凡な青年リクは、異世界に転生して鍛冶屋として静かに暮らしていた――はずだった。 だが、彼が何気なく作った剣は竜を貫き、魔王をも滅ぼすほどの威力を秘めていた。本人はただの職人のつもりでも、周囲からは「神の使徒」として崇められ、王女や聖女、果ては魔族までが次々と彼の元に集う。 「俺、本当にただの鍛冶屋なんですが……?」 気づけば彼は、闇の勢力も聖なる教団も巻き込む世界最大の戦争の鍵を握る存在に――。 これは、無自覚に最強となった青年が世界を変える、“作るだけ無双ファンタジー”。

たとえ夜が姿を変えても ―過保護な兄の親友は、私を逃がさない―

佐竹りふれ
恋愛
重なる吐息、耳元を掠める熱、そして——兄の親友の、隠しきれない独占欲。 19歳のジャスミンにとって、過保護な兄の親友・セバスチャンは、自分を子供扱いする「第二の兄」のような存在だった。 しかし、初めてのパーティーの夜、その関係は一変する。 突然降ってきた、深く、すべてを奪うような口づけ。 「焦らず、お前のペースで進もう」 そう余裕たっぷりに微笑んだセバスチャン。 けれど、彼の言う「ゆっくり」は、翌朝には早くも崩れ始めていた。 学内の視線、兄の沈黙、そして二人きりのアパート――。 外堀が埋まっていくスピードに戸惑いながらも、ジャスミンは彼が隠し持つ「男」の顔に、抗えない好奇心を抱き始める。 「……どうする? 俺と一緒に、いけないことするか?」 余裕の仮面を被るセバスチャンに、あどけない顔で、けれど大胆に踏み込んでいくジャスミン。 理性を繋ぎ止めようとする彼を、翻弄し、追い詰めていくのは彼女の方で……。 「ゆっくり」なんて、ただの建前。 一度火がついた熱は、誰にも止められない。 兄の親友という境界線を軽々と飛び越え、加速しすぎる二人の溺愛ラブストーリー。

処理中です...