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5章 全世界にバレた僕の顔
67話 彼女たちの夜
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「……こはねさん。私と同じくらいの、女の子……」
……かきかき。
天野ひよりは机に向かい……誕生日にねだって買ってもらったタブレットで、静かに絵を描いている。
「男の人の声は、ボイスチェンジャー……それは残念だったけど、でも」
かきかき。
少女の目は、手元に吸い寄せられている。
「……それでも、これまで聞いてきたこはねさんは、間違いなくこはねさん。私と同じくらいの歳に見えるし聞こえる体だけど、心は大人の男の人……そんな感じって、介護班のチャットで……」
かきかき。
少女の手は、無自覚で動いている。
「あれだけ大変なことになっちゃうほど、つらいことがあった……けど、そうじゃないときはすごく落ち着いてて、物知りで、でもいつも自分を卑下して……」
かきかき。
少女の口は、無自覚で動いている。
「ふぅ、ふぅ……」
その口からは、吐息が漏れている。
「そう……自分のことはいつも雑に言うくせに、私とか他の人へは優しくて……思いやりがあって……クラスの男子たちとは全然違って……ろくに話したこと、ないけど……」
かきかき。
「……そんな人が。かっこいい人が、あんな声で泣いて、あんな声で泣きわめいて……吐いて、漏らして」
かき。
そのイラストは――顔だけは普段の通りに緩い絵柄で整っていて、でも体は彼女が描いたことのないポーズとあってデッサンは壊滅的だが、その意図がはっきりと分かる――
「それを聞いてたら、なぜか――――――きゃあっ!?」
――「こはねちゃん」のイラストでTLに流れてきて目にしてしまったような、幼い少女が顔を赤くして股を抑えるも、そこからじわりと広がる布のシミとふとももをつたう液体が――
「だめだめだめぇっ!? こはねちゃん――さんに、こんなことさせちゃ!?」
彼女は一瞬で顔を真っ赤にすると、慌てて全部を選択肢してデリート――デジタルだったのが幸いして、彼女の過ちは瞬時にこの世界に存在しなくなった。
「……はぁ……」
へにゃへにゃと机へ倒れ込み、ぱさりと彼女の栗色の髪が流れる。
「うぅ……か、介護班さんへの『ご褒美』を聞いちゃってから、私……」
少女は――人生で初めて。
おぼろげながらも「R18なイラストが投稿されている理由」を、知ってしまった。
「………………………………」
そして……紅い顔のまま、数分。
彼女はおもむろに「ひとつ戻る」操作をし――デジタルのおかげで復活したイラストを――
◇
「あ゛ー……よかったよかったぁ」
「うん……本当に、死んじゃうかって」
「こういうときはさぁ、古参として認知されてて『介護班』に入れてもらえて……よかったなーって思うよね」
「す、少しでも役に立てた気がする、かも……」
幸運にも会社を抜け出せた、社会人女子。
介護班の中でシミュレートしていたプランの中から自分を使ってもらえるようアピールをし――優花をバイクに乗せて、自宅まで送り届けた彼女。
普段は短めの勤務時間で会社勤めをし、夜や休日は「紅目ハルナ」――そういう演者名で、とある事務所――「箱」のVTuberとして活躍している女性。
人気商売なVTuberでありつつも自分はNo.1になれないポテンシャルとそもそものモチベーションやメンタルしか持っていないと割り切り、ほどほどのバランスでダブルワークをしている彼女が、親友との通話をしながら缶ビールをしゅこっと開ける。
すらりと伸びた手脚、今どきの女子としてもかなりの高身長――それに見合う胸がことごとくの男性の目を引くのが自慢でもあり、悩みでもあり。
控えめな赤に染めた髪を、ポニーテールよりは低い位置で結ぶ一つ結びな髪型の彼女は、バイクのキーを置く。
「ぷはぁっ……このときほど趣味でバイクやってたのを喜んだことはないなぁ」
「じ、事故だけは気をつけてね……?」
「だいじょーぶだいじょーぶ。他の人が信号とか操作してくれてたし、いろんな車両が……結果として渋滞は起きちゃってたけど、たぶん道を開けてくれてたから」
彼女――紅目ハルナ、もとい「はるな」は、昼間に自分の後ろにしがみついていた少女……いや、来年には大学生だから少女というほどの歳でもなかったが――「妹ちゃん」を思い起こす。
「妹ちゃんね、すっごい美人さんだった」
「……はるなよりも?」
「あの子は清楚系って感じ。私は……ほら。視聴者たちの呼び方みたいに『姉貴』になっちゃうから」
「め、面倒見が良いお姉さん……だから……」
「でもさ、そう呼んでくれるうちの視聴者たちって、年上のおじ様たちがメインなんだけど」
「そ、それは……」
「……あと、私のえっちなイラストとか、ほぼほぼショタっ子相手にーってやつなんだけど……視聴者層、どこ行ったんだろうね? ショタっ子、どこ……? ショタっ子相手ならめっちゃ嬉しいのにさぁ……」
「え、えっと……せ、性癖は自由だから……」
「うん、それはしょうがない。でもそれはそれ、これはこれ」
完全にリラックスし、表に出したらいろいろと――いや、彼女の「V」としてのキャラクター的には問題はないだろうが――まくし立てながら速攻で1缶目を飲み干す。
「でもさ、『みなみちゃん』も裏方でがんばってくれてたんでしょ?」
「うん。主にSNSでスクショとか上げるの、やめてって言って回って……」
「みなみ」と呼ばれた女性の声は、はるなよりも幼く――「弟をかわいがる系の姉」と評判の活発な声に比べると、よわよわしいもの。
だが彼女もまたVとして活動しているからか、それで聞きとりにくいわけでもなく、むしろウィスパーボイスが人気であって――彼女もまた、こはねと同じ「守護らねば」ポジションだった。
「……止めてくれない人のアカウントを掘って、その人が炎上しそうな過去の投稿を見つけて介護班総出で拡散して着火……あるいは複数の個人情報とかムェイスムックとかと連携してたりで名前と連絡先を突き止めて、介護班の怖い声の人に……それでもダメなときは、その投稿した地域一帯のネットを一時遮断……」
「改めて聞くとえっぐいわねぇ……ネットのスペシャリストが複数と、お偉いさんの権力と、数の暴力で凍結まで追い込んだりとか」
「……そうでもしないと、こんなに短期間で、収められなかったから。炎上は、ただの悪戯心で無限に広まっちゃうから」
「ま、そうねぇ。なにしろこはねちゃんの顔と姿……最後にちらっとだけど、妹ちゃんの学校の校章と妹ちゃんの顔も映っちゃったもんね。こはねちゃんはまだしも、あれだけは消さなきゃいけなかったから」
ほんの数時間……一瞬の大炎上、というよりは阿鼻叫喚の悲鳴だったが……が爆発していたにしては、現在のネットは驚くほど静かだ。
それはひとえに「よわよわすぎるかよわいいきものを守護らねば」という意思の元に団結した数十人――そして、それに同意した数「万」人の行動の結果だった。
「……でもさ。さっきの……聞いたよね?」
「聞いた……」
「……やばくない?」
「やばい……すごく、やばい……」
「正直……ねぇ……?」
「うん……この音声データ、家宝にする……大丈夫、妹様と交渉して権利はもらった……」
彼女たちは……一部切り取られた部分があるとはいえ、実質的に最上位ファン限定のコンテンツとなった「こはねちゃんからのお礼」を思い返す。
「……おもらし癖かぁ」
「いいよね……」
「ギャン泣きしながら妹ちゃんにすがりついて」
「いいよね……」
「配信ではあれだけしっかりしたお兄さんだったのに」
「実際には、あんなに弱くって……私よりも……」
「――んで、こはねちゃんが『女の子』――少なくとも肉体的には――って情報も、介護班だからこそ、もらえた。だから」
「……私たち、も、もう……」
「うん。『こはね様』に迷惑をかけちゃいけないっていう遠慮は――も、要らないよね……?」
――じとっ。
電話越しの彼女たちの周囲が、湿度を高めていく。
「……こはねさんがひよりちゃん先生――分かってはいたけど、やっぱり女の子だったね――を、『異性だから』って理由で意図的に突き放してのは、介護班になった私たちなら誰だって知ってる」
「それが、紳士的――そう思っていたから、今まではリスナーに徹してたけど……」
「うん。私たち、配信者だから――どこかでバレてリークされたら、一瞬でファンを全員失う危険があったし」
「それでも良いとは思ってたけど……やっぱり、迷惑かけちゃうかもって、だから。でも――」
彼女たちの瞳は――「獲物」を見すえている。
「……今後、こはねちゃんのリハビリとかさ、ゆっくりしてくんだって。あの子の検査とかしてくれた人からの情報共有」
「ん……こはね様――じゃない、こはねさんが嫌がらないんなら、少しずつ人見知りを改善……そう、妹様から……」
「――『同世代の範疇、かつ、肉体的な同性からスタート』って」
「……女に生まれて、良かったね」
「古参、やってて良かったね」
「うん。良かった」
彼女たちの振りまく湿度は――苔が繁茂し、キノコが生えるほどに密集していく。
「やっぱ登録者……一ケタは無理だったけど、二桁からの古参の特典ね」
「他の人が『ただ数字がないからつまらないはず』って理由で見向きもしないけど、魅力的な人――見つけたのは、私たち、だから」
「私たちが、最初」
「私たちだけのもの」
「……うふふふふ……」
「うぇへ、えへへ……」
彼女たちは――笑う。
「楽しみだね」
「楽しみ」
「あのときの恩を」
「死んでたはずの命を」
彼女たちは、詠唱する。
「「早く、捧げたいね」」
「男の人じゃなかったのは、ちょっと……いや、かなり残念だけど」
「でも、おかげで――殺し合わなくて、済むね」
「今の法律では、結ばれるのは男女で1人ずつだからね」
「でも、女の子なら……どの道、正式な関係じゃなければ」
「配信で聞いたもんね」
「女の子同士――百合は、好きな方だって」
「彼自身はユニコーンじゃないけど」
「できたら最初で最後の人になりたいって言ってた」
「だから」
「人気になったとたんにモテたのも、全部断ってきた」
「性癖も趣味も、何年もかけて蒐集した」
「私たちも、見た目をがんばって磨いて……『ニート』だったとしても、養える程度には……もうちょっとがんばれば、なる」
「彼の好きなゲームにも精通した」
「彼の好きな作品も、全部暗記した」
「「なら」」
「「――共有、しちゃえば良いよね」」
「「………………………………」」
「……まずは、あの真面目そうなお姉ちゃんに気に入られないとかぁ……」
「妹様……お姉様?のプロファイリングは完璧……それによると、実は……」
……かきかき。
天野ひよりは机に向かい……誕生日にねだって買ってもらったタブレットで、静かに絵を描いている。
「男の人の声は、ボイスチェンジャー……それは残念だったけど、でも」
かきかき。
少女の目は、手元に吸い寄せられている。
「……それでも、これまで聞いてきたこはねさんは、間違いなくこはねさん。私と同じくらいの歳に見えるし聞こえる体だけど、心は大人の男の人……そんな感じって、介護班のチャットで……」
かきかき。
少女の手は、無自覚で動いている。
「あれだけ大変なことになっちゃうほど、つらいことがあった……けど、そうじゃないときはすごく落ち着いてて、物知りで、でもいつも自分を卑下して……」
かきかき。
少女の口は、無自覚で動いている。
「ふぅ、ふぅ……」
その口からは、吐息が漏れている。
「そう……自分のことはいつも雑に言うくせに、私とか他の人へは優しくて……思いやりがあって……クラスの男子たちとは全然違って……ろくに話したこと、ないけど……」
かきかき。
「……そんな人が。かっこいい人が、あんな声で泣いて、あんな声で泣きわめいて……吐いて、漏らして」
かき。
そのイラストは――顔だけは普段の通りに緩い絵柄で整っていて、でも体は彼女が描いたことのないポーズとあってデッサンは壊滅的だが、その意図がはっきりと分かる――
「それを聞いてたら、なぜか――――――きゃあっ!?」
――「こはねちゃん」のイラストでTLに流れてきて目にしてしまったような、幼い少女が顔を赤くして股を抑えるも、そこからじわりと広がる布のシミとふとももをつたう液体が――
「だめだめだめぇっ!? こはねちゃん――さんに、こんなことさせちゃ!?」
彼女は一瞬で顔を真っ赤にすると、慌てて全部を選択肢してデリート――デジタルだったのが幸いして、彼女の過ちは瞬時にこの世界に存在しなくなった。
「……はぁ……」
へにゃへにゃと机へ倒れ込み、ぱさりと彼女の栗色の髪が流れる。
「うぅ……か、介護班さんへの『ご褒美』を聞いちゃってから、私……」
少女は――人生で初めて。
おぼろげながらも「R18なイラストが投稿されている理由」を、知ってしまった。
「………………………………」
そして……紅い顔のまま、数分。
彼女はおもむろに「ひとつ戻る」操作をし――デジタルのおかげで復活したイラストを――
◇
「あ゛ー……よかったよかったぁ」
「うん……本当に、死んじゃうかって」
「こういうときはさぁ、古参として認知されてて『介護班』に入れてもらえて……よかったなーって思うよね」
「す、少しでも役に立てた気がする、かも……」
幸運にも会社を抜け出せた、社会人女子。
介護班の中でシミュレートしていたプランの中から自分を使ってもらえるようアピールをし――優花をバイクに乗せて、自宅まで送り届けた彼女。
普段は短めの勤務時間で会社勤めをし、夜や休日は「紅目ハルナ」――そういう演者名で、とある事務所――「箱」のVTuberとして活躍している女性。
人気商売なVTuberでありつつも自分はNo.1になれないポテンシャルとそもそものモチベーションやメンタルしか持っていないと割り切り、ほどほどのバランスでダブルワークをしている彼女が、親友との通話をしながら缶ビールをしゅこっと開ける。
すらりと伸びた手脚、今どきの女子としてもかなりの高身長――それに見合う胸がことごとくの男性の目を引くのが自慢でもあり、悩みでもあり。
控えめな赤に染めた髪を、ポニーテールよりは低い位置で結ぶ一つ結びな髪型の彼女は、バイクのキーを置く。
「ぷはぁっ……このときほど趣味でバイクやってたのを喜んだことはないなぁ」
「じ、事故だけは気をつけてね……?」
「だいじょーぶだいじょーぶ。他の人が信号とか操作してくれてたし、いろんな車両が……結果として渋滞は起きちゃってたけど、たぶん道を開けてくれてたから」
彼女――紅目ハルナ、もとい「はるな」は、昼間に自分の後ろにしがみついていた少女……いや、来年には大学生だから少女というほどの歳でもなかったが――「妹ちゃん」を思い起こす。
「妹ちゃんね、すっごい美人さんだった」
「……はるなよりも?」
「あの子は清楚系って感じ。私は……ほら。視聴者たちの呼び方みたいに『姉貴』になっちゃうから」
「め、面倒見が良いお姉さん……だから……」
「でもさ、そう呼んでくれるうちの視聴者たちって、年上のおじ様たちがメインなんだけど」
「そ、それは……」
「……あと、私のえっちなイラストとか、ほぼほぼショタっ子相手にーってやつなんだけど……視聴者層、どこ行ったんだろうね? ショタっ子、どこ……? ショタっ子相手ならめっちゃ嬉しいのにさぁ……」
「え、えっと……せ、性癖は自由だから……」
「うん、それはしょうがない。でもそれはそれ、これはこれ」
完全にリラックスし、表に出したらいろいろと――いや、彼女の「V」としてのキャラクター的には問題はないだろうが――まくし立てながら速攻で1缶目を飲み干す。
「でもさ、『みなみちゃん』も裏方でがんばってくれてたんでしょ?」
「うん。主にSNSでスクショとか上げるの、やめてって言って回って……」
「みなみ」と呼ばれた女性の声は、はるなよりも幼く――「弟をかわいがる系の姉」と評判の活発な声に比べると、よわよわしいもの。
だが彼女もまたVとして活動しているからか、それで聞きとりにくいわけでもなく、むしろウィスパーボイスが人気であって――彼女もまた、こはねと同じ「守護らねば」ポジションだった。
「……止めてくれない人のアカウントを掘って、その人が炎上しそうな過去の投稿を見つけて介護班総出で拡散して着火……あるいは複数の個人情報とかムェイスムックとかと連携してたりで名前と連絡先を突き止めて、介護班の怖い声の人に……それでもダメなときは、その投稿した地域一帯のネットを一時遮断……」
「改めて聞くとえっぐいわねぇ……ネットのスペシャリストが複数と、お偉いさんの権力と、数の暴力で凍結まで追い込んだりとか」
「……そうでもしないと、こんなに短期間で、収められなかったから。炎上は、ただの悪戯心で無限に広まっちゃうから」
「ま、そうねぇ。なにしろこはねちゃんの顔と姿……最後にちらっとだけど、妹ちゃんの学校の校章と妹ちゃんの顔も映っちゃったもんね。こはねちゃんはまだしも、あれだけは消さなきゃいけなかったから」
ほんの数時間……一瞬の大炎上、というよりは阿鼻叫喚の悲鳴だったが……が爆発していたにしては、現在のネットは驚くほど静かだ。
それはひとえに「よわよわすぎるかよわいいきものを守護らねば」という意思の元に団結した数十人――そして、それに同意した数「万」人の行動の結果だった。
「……でもさ。さっきの……聞いたよね?」
「聞いた……」
「……やばくない?」
「やばい……すごく、やばい……」
「正直……ねぇ……?」
「うん……この音声データ、家宝にする……大丈夫、妹様と交渉して権利はもらった……」
彼女たちは……一部切り取られた部分があるとはいえ、実質的に最上位ファン限定のコンテンツとなった「こはねちゃんからのお礼」を思い返す。
「……おもらし癖かぁ」
「いいよね……」
「ギャン泣きしながら妹ちゃんにすがりついて」
「いいよね……」
「配信ではあれだけしっかりしたお兄さんだったのに」
「実際には、あんなに弱くって……私よりも……」
「――んで、こはねちゃんが『女の子』――少なくとも肉体的には――って情報も、介護班だからこそ、もらえた。だから」
「……私たち、も、もう……」
「うん。『こはね様』に迷惑をかけちゃいけないっていう遠慮は――も、要らないよね……?」
――じとっ。
電話越しの彼女たちの周囲が、湿度を高めていく。
「……こはねさんがひよりちゃん先生――分かってはいたけど、やっぱり女の子だったね――を、『異性だから』って理由で意図的に突き放してのは、介護班になった私たちなら誰だって知ってる」
「それが、紳士的――そう思っていたから、今まではリスナーに徹してたけど……」
「うん。私たち、配信者だから――どこかでバレてリークされたら、一瞬でファンを全員失う危険があったし」
「それでも良いとは思ってたけど……やっぱり、迷惑かけちゃうかもって、だから。でも――」
彼女たちの瞳は――「獲物」を見すえている。
「……今後、こはねちゃんのリハビリとかさ、ゆっくりしてくんだって。あの子の検査とかしてくれた人からの情報共有」
「ん……こはね様――じゃない、こはねさんが嫌がらないんなら、少しずつ人見知りを改善……そう、妹様から……」
「――『同世代の範疇、かつ、肉体的な同性からスタート』って」
「……女に生まれて、良かったね」
「古参、やってて良かったね」
「うん。良かった」
彼女たちの振りまく湿度は――苔が繁茂し、キノコが生えるほどに密集していく。
「やっぱ登録者……一ケタは無理だったけど、二桁からの古参の特典ね」
「他の人が『ただ数字がないからつまらないはず』って理由で見向きもしないけど、魅力的な人――見つけたのは、私たち、だから」
「私たちが、最初」
「私たちだけのもの」
「……うふふふふ……」
「うぇへ、えへへ……」
彼女たちは――笑う。
「楽しみだね」
「楽しみ」
「あのときの恩を」
「死んでたはずの命を」
彼女たちは、詠唱する。
「「早く、捧げたいね」」
「男の人じゃなかったのは、ちょっと……いや、かなり残念だけど」
「でも、おかげで――殺し合わなくて、済むね」
「今の法律では、結ばれるのは男女で1人ずつだからね」
「でも、女の子なら……どの道、正式な関係じゃなければ」
「配信で聞いたもんね」
「女の子同士――百合は、好きな方だって」
「彼自身はユニコーンじゃないけど」
「できたら最初で最後の人になりたいって言ってた」
「だから」
「人気になったとたんにモテたのも、全部断ってきた」
「性癖も趣味も、何年もかけて蒐集した」
「私たちも、見た目をがんばって磨いて……『ニート』だったとしても、養える程度には……もうちょっとがんばれば、なる」
「彼の好きなゲームにも精通した」
「彼の好きな作品も、全部暗記した」
「「なら」」
「「――共有、しちゃえば良いよね」」
「「………………………………」」
「……まずは、あの真面目そうなお姉ちゃんに気に入られないとかぁ……」
「妹様……お姉様?のプロファイリングは完璧……それによると、実は……」
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