TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~

あずももも

文字の大きさ
67 / 167
5章 全世界にバレた僕の顔

67話 彼女たちの夜

しおりを挟む
「……こはねさん。私と同じくらいの、女の子……」

……かきかき。

天野ひよりは机に向かい……誕生日にねだって買ってもらったタブレットで、静かに絵を描いている。

「男の人の声は、ボイスチェンジャー……それは残念だったけど、でも」

かきかき。

少女の目は、手元に吸い寄せられている。

「……それでも、これまで聞いてきたこはねさんは、間違いなくこはねさん。私と同じくらいの歳に見えるし聞こえる体だけど、心は大人の男の人……そんな感じって、介護班のチャットで……」

かきかき。

少女の手は、無自覚で動いている。

「あれだけ大変なことになっちゃうほど、つらいことがあった……けど、そうじゃないときはすごく落ち着いてて、物知りで、でもいつも自分を卑下して……」

かきかき。

少女の口は、無自覚で動いている。

「ふぅ、ふぅ……」

その口からは、吐息が漏れている。

「そう……自分のことはいつも雑に言うくせに、私とか他の人へは優しくて……思いやりがあって……クラスの男子たちとは全然違って……ろくに話したこと、ないけど……」

かきかき。

「……そんな人が。かっこいい人が、あんな声で泣いて、あんな声で泣きわめいて……吐いて、漏らして」

かき。

そのイラストは――顔だけは普段の通りに緩い絵柄で整っていて、でも体は彼女が描いたことのないポーズとあってデッサンは壊滅的だが、その意図がはっきりと分かる――

「それを聞いてたら、なぜか――――――きゃあっ!?」

――「こはねちゃん」のイラストでTLに流れてきて目にしてしまったような、幼い少女が顔を赤くして股を抑えるも、そこからじわりと広がる布のシミとふとももをつたう液体が――

「だめだめだめぇっ!? こはねちゃん――さんに、こんなことさせちゃ!?」

彼女は一瞬で顔を真っ赤にすると、慌てて全部を選択肢してデリート――デジタルだったのが幸いして、彼女の過ちは瞬時にこの世界に存在しなくなった。

「……はぁ……」

へにゃへにゃと机へ倒れ込み、ぱさりと彼女の栗色の髪が流れる。

「うぅ……か、介護班さんへの『ご褒美』を聞いちゃってから、私……」

少女は――人生で初めて。

おぼろげながらも「R18なイラストが投稿されている理由」を、知ってしまった。

「………………………………」

そして……紅い顔のまま、数分。

彼女はおもむろに「ひとつ戻る」操作をし――デジタルのおかげで復活したイラストを――





「あ゛ー……よかったよかったぁ」

「うん……本当に、死んじゃうかって」

「こういうときはさぁ、古参として認知されてて『介護班』に入れてもらえて……よかったなーって思うよね」
「す、少しでも役に立てた気がする、かも……」

幸運にも会社を抜け出せた、社会人女子。

介護班の中でシミュレートしていたプランの中から自分を使ってもらえるようアピールをし――優花をバイクに乗せて、自宅まで送り届けた彼女。

普段は短めの勤務時間で会社勤めをし、夜や休日は「紅目ハルナ」――そういう演者名で、とある事務所――「箱」のVTuberとして活躍している女性。

人気商売なVTuberでありつつも自分はNo.1になれないポテンシャルとそもそものモチベーションやメンタルしか持っていないと割り切り、ほどほどのバランスでダブルワークをしている彼女が、親友との通話をしながら缶ビールをしゅこっと開ける。

すらりと伸びた手脚、今どきの女子としてもかなりの高身長――それに見合う胸がことごとくの男性の目を引くのが自慢でもあり、悩みでもあり。

控えめな赤に染めた髪を、ポニーテールよりは低い位置で結ぶ一つ結びな髪型の彼女は、バイクのキーを置く。

「ぷはぁっ……このときほど趣味でバイクやってたのを喜んだことはないなぁ」

「じ、事故だけは気をつけてね……?」

「だいじょーぶだいじょーぶ。他の人が信号とか操作してくれてたし、いろんな車両が……結果として渋滞は起きちゃってたけど、たぶん道を開けてくれてたから」

彼女――紅目ハルナ、もとい「はるな」は、昼間に自分の後ろにしがみついていた少女……いや、来年には大学生だから少女というほどの歳でもなかったが――「妹ちゃん」を思い起こす。

「妹ちゃんね、すっごい美人さんだった」
「……はるなよりも?」

「あの子は清楚系って感じ。私は……ほら。視聴者たちの呼び方みたいに『姉貴』になっちゃうから」
「め、面倒見が良いお姉さん……だから……」

「でもさ、そう呼んでくれるうちの視聴者たちって、年上のおじ様たちがメインなんだけど」
「そ、それは……」

「……あと、私のえっちなイラストとか、ほぼほぼショタっ子相手にーってやつなんだけど……視聴者層、どこ行ったんだろうね? ショタっ子、どこ……? ショタっ子相手ならめっちゃ嬉しいのにさぁ……」

「え、えっと……せ、性癖は自由だから……」
「うん、それはしょうがない。でもそれはそれ、これはこれ」

完全にリラックスし、表に出したらいろいろと――いや、彼女の「V」としてのキャラクター的には問題はないだろうが――まくし立てながら速攻で1缶目を飲み干す。

「でもさ、『みなみちゃん』も裏方でがんばってくれてたんでしょ?」
「うん。主にSNSでスクショとか上げるの、やめてって言って回って……」

「みなみ」と呼ばれた女性の声は、はるなよりも幼く――「弟をかわいがる系の姉」と評判の活発な声に比べると、よわよわしいもの。

だが彼女もまたVとして活動しているからか、それで聞きとりにくいわけでもなく、むしろウィスパーボイスが人気であって――彼女もまた、こはねと同じ「守護らねば」ポジションだった。

「……止めてくれない人のアカウントを掘って、その人が炎上しそうな過去の投稿を見つけて介護班総出で拡散して着火……あるいは複数の個人情報とかムェイスムックとかと連携してたりで名前と連絡先を突き止めて、介護班の怖い声の人に……それでもダメなときは、その投稿した地域一帯のネットを一時遮断……」

「改めて聞くとえっぐいわねぇ……ネットのスペシャリストが複数と、お偉いさんの権力と、数の暴力で凍結まで追い込んだりとか」

「……そうでもしないと、こんなに短期間で、収められなかったから。炎上は、ただの悪戯心で無限に広まっちゃうから」

「ま、そうねぇ。なにしろこはねちゃんの顔と姿……最後にちらっとだけど、妹ちゃんの学校の校章と妹ちゃんの顔も映っちゃったもんね。こはねちゃんはまだしも、あれだけは消さなきゃいけなかったから」

ほんの数時間……一瞬の大炎上、というよりは阿鼻叫喚の悲鳴だったが……が爆発していたにしては、現在のネットは驚くほど静かだ。

それはひとえに「よわよわすぎるかよわいいきものを守護らねば」という意思の元に団結した数十人――そして、それに同意した数「万」人の行動の結果だった。

「……でもさ。さっきの……聞いたよね?」

「聞いた……」

「……やばくない?」
「やばい……すごく、やばい……」

「正直……ねぇ……?」
「うん……この音声データ、家宝にする……大丈夫、妹様と交渉して権利はもらった……」

彼女たちは……一部切り取られた部分があるとはいえ、実質的に最上位ファン限定のコンテンツとなった「こはねちゃんからのお礼」を思い返す。

「……おもらし癖かぁ」
「いいよね……」

「ギャン泣きしながら妹ちゃんにすがりついて」
「いいよね……」

「配信ではあれだけしっかりしたお兄さんだったのに」
「実際には、あんなに弱くって……私よりも……」

「――んで、こはねちゃんが『女の子』――少なくとも肉体的には――って情報も、介護班だからこそ、もらえた。だから」

「……私たち、も、もう……」

「うん。『こはね様』に迷惑をかけちゃいけないっていう遠慮は――も、要らないよね……?」

――じとっ。

電話越しの彼女たちの周囲が、湿度を高めていく。

「……こはねさんがひよりちゃん先生――分かってはいたけど、やっぱり女の子だったね――を、『異性だから』って理由で意図的に突き放してのは、介護班になった私たちなら誰だって知ってる」

「それが、紳士的――そう思っていたから、今まではリスナーに徹してたけど……」

「うん。私たち、配信者だから――どこかでバレてリークされたら、一瞬でファンを全員失う危険があったし」
「それでも良いとは思ってたけど……やっぱり、迷惑かけちゃうかもって、だから。でも――」

彼女たちの瞳は――「獲物」を見すえている。

「……今後、こはねちゃんのリハビリとかさ、ゆっくりしてくんだって。あの子の検査とかしてくれた人からの情報共有」
「ん……こはね様――じゃない、こはねさんが嫌がらないんなら、少しずつ人見知りを改善……そう、妹様から……」

「――『同世代の範疇、かつ、肉体的な同性からスタート』って」

「……女に生まれて、良かったね」

「古参、やってて良かったね」
「うん。良かった」

彼女たちの振りまく湿度は――苔が繁茂し、キノコが生えるほどに密集していく。

「やっぱ登録者……一ケタは無理だったけど、二桁からの古参の特典ね」

「他の人が『ただ数字がないからつまらないはず』って理由で見向きもしないけど、魅力的な人――見つけたのは、私たち、だから」

「私たちが、最初」
「私たちだけのもの」

「……うふふふふ……」
「うぇへ、えへへ……」

彼女たちは――笑う。

「楽しみだね」
「楽しみ」

「あのときの恩を」
「死んでたはずの命を」

彼女たちは、詠唱する。

「「早く、捧げたいね」」

「男の人じゃなかったのは、ちょっと……いや、かなり残念だけど」
「でも、おかげで――殺し合わなくて、済むね」

「今の法律では、結ばれるのは男女で1人ずつだからね」

「でも、女の子なら……どの道、正式な関係じゃなければ」

「配信で聞いたもんね」
「女の子同士――百合は、好きな方だって」

「彼自身はユニコーンじゃないけど」
「できたら最初で最後の人になりたいって言ってた」

「だから」

「人気になったとたんにモテたのも、全部断ってきた」

「性癖も趣味も、何年もかけて蒐集した」
「私たちも、見た目をがんばって磨いて……『ニート』だったとしても、養える程度には……もうちょっとがんばれば、なる」

「彼の好きなゲームにも精通した」
「彼の好きな作品も、全部暗記した」

「「なら」」

「「――共有、しちゃえば良いよね」」

「「………………………………」」

「……まずは、あの真面目そうなお姉ちゃんに気に入られないとかぁ……」
「妹様……お姉様?のプロファイリングは完璧……それによると、実は……」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

辺境ギルドの受付嬢ですが、冒険者の嘘は帳簿でぜんぶバレます

蒼月よる
ファンタジー
素材の重さが申告と合わない。鑑定書の書式がおかしい。冒険者が持ち込む報告書には、いつもどこかに嘘がある。 辺境の小さなギルド支部で、受付嬢ナタリアは今日も一人、帳簿を武器に冒険者たちの嘘と向き合っている。剣も魔法も使えない。でも素材を見る目と、数字の辻褄を見抜く勘だけは、誰にも負けない。 持ち込まれた棘鱗の産地が違う。新人冒険者の目が妙に鋭い。腕のいい薬師が素性を隠している。書類を処理するだけの毎日のはずが、カウンターの向こうには不思議な人々と、小さな謎が絶えない。 一話完結の日常謎解き。辺境の受付カウンターから覗く、冒険者たちの嘘と真実の物語。 この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。 ・世界観・設定の管理補助 ・プロット段階の壁打ち ・作者による執筆後の校正

しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる

長月 鳥
ファンタジー
町の電気屋として細々と暮らしていた俺、轟電次郎(とどろき でんじろう)。 ある日、感電事故であっけなく人生終了──のはずが、目を覚ましたら異世界だった。 そこは魔法がすべての世界。 スマホも、ドライヤーも、炊飯器も、どこにもない。 でもなぜか俺だけは、“電力を生み出し家電を召喚できる”という特異体質を持っていて── 「ちょっと暮らしやすくなればそれでいい」 そんなつもりで始めた異世界ライフだったのに…… 家電の便利さがバレて、王族に囲まれ、魔導士に拉致され、気が付けば── 「この男こそ、我らの神(インフラ)である!」 えぇ……なんでそうなるの!? 電気と生活の知恵で異世界を変える、 元・電気屋おっさんのドタバタ英雄(?)譚!

無自覚に世界最強だった俺、追放後にチートがバレて全員ざまぁされる件

fuwamofu
ファンタジー
冒険者団から「役立たず」と追放された青年リオ。 実は彼のスキル《創造》は、世界の理を作り替える最強の能力だった。 追放後、孤独な旅に出るリオは、自身の無自覚な力で人々を救い、国を救い、やがて世界の中心に立つ。 そんな彼の元には、かつて彼を見下していた美少女たちが次々と跪いていく──。 これは、無自覚に世界を変えてしまう青年の、ざまぁと覇道の物語。

ダンジョン嫌いの元英雄は裏方仕事に徹したい ~うっかりA級攻略者をワンパンしたら、切り抜き動画が世界中に拡散されてしまった件~

厳座励主(ごんざれす)
ファンタジー
「英雄なんて、もう二度とごめんだ」 ダンジョン出現から10年。 攻略が『配信』という娯楽に形を変えた現代。 かつて日本を救った伝説の英雄は、ある事情から表舞台を去り、ダンジョン攻略支援用AI『アリス』の開発に没頭する裏方へと転身していた。 ダンジョンも、配信も、そして英雄と呼ばれることも。 すべてを忌み嫌う彼は、裏方に徹してその生涯を終える……はずだった。 アリスの試験運用中に遭遇した、迷惑系配信者の暴挙。 少女を救うために放った一撃が、あろうことか世界中にライブ配信されてしまう。 その結果―― 「――ダンジョン嫌いニキ、強すぎるだろ!!」 意図せず爆増するファン、殺到するスポンサー。 静寂を望む願いをよそに、世界は彼を再び『英雄』の座へと引きずり戻していく。

強制ハーレムな世界で元囚人の彼は今日もマイペースです。

きゅりおす
SF
ハーレム主人公は元囚人?!ハーレム風SFアクション開幕! 突如として男性の殆どが消滅する事件が発生。 そんな人口ピラミッド崩壊な世界で女子生徒が待ち望んでいる中、現れる男子生徒、ハーレムの予感(?) 異色すぎる主人公が周りを巻き込みこの世界を駆ける!

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

異世界で鍛冶屋をやってるだけのはずが、神々に最強認定されてハーレムができてた件

えりぽん
ファンタジー
平凡な青年リクは、異世界に転生して鍛冶屋として静かに暮らしていた――はずだった。 だが、彼が何気なく作った剣は竜を貫き、魔王をも滅ぼすほどの威力を秘めていた。本人はただの職人のつもりでも、周囲からは「神の使徒」として崇められ、王女や聖女、果ては魔族までが次々と彼の元に集う。 「俺、本当にただの鍛冶屋なんですが……?」 気づけば彼は、闇の勢力も聖なる教団も巻き込む世界最大の戦争の鍵を握る存在に――。 これは、無自覚に最強となった青年が世界を変える、“作るだけ無双ファンタジー”。

たとえ夜が姿を変えても ―過保護な兄の親友は、私を逃がさない―

佐竹りふれ
恋愛
重なる吐息、耳元を掠める熱、そして——兄の親友の、隠しきれない独占欲。 19歳のジャスミンにとって、過保護な兄の親友・セバスチャンは、自分を子供扱いする「第二の兄」のような存在だった。 しかし、初めてのパーティーの夜、その関係は一変する。 突然降ってきた、深く、すべてを奪うような口づけ。 「焦らず、お前のペースで進もう」 そう余裕たっぷりに微笑んだセバスチャン。 けれど、彼の言う「ゆっくり」は、翌朝には早くも崩れ始めていた。 学内の視線、兄の沈黙、そして二人きりのアパート――。 外堀が埋まっていくスピードに戸惑いながらも、ジャスミンは彼が隠し持つ「男」の顔に、抗えない好奇心を抱き始める。 「……どうする? 俺と一緒に、いけないことするか?」 余裕の仮面を被るセバスチャンに、あどけない顔で、けれど大胆に踏み込んでいくジャスミン。 理性を繋ぎ止めようとする彼を、翻弄し、追い詰めていくのは彼女の方で……。 「ゆっくり」なんて、ただの建前。 一度火がついた熱は、誰にも止められない。 兄の親友という境界線を軽々と飛び越え、加速しすぎる二人の溺愛ラブストーリー。

処理中です...