TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~

あずももも

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8章 崩れゆくTS生活

94話 元ゾンビさんと保護者さん

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「………………………………」

「あの……この前は……ご、ご迷惑を……」

ぼそぼそぼそ。

下を向いて、聞こえるぎりぎりの発声。

「………………………………」

優花が持っているのに似ている、かっちり目でお洒落なコートを羽織っていて、下にはタイツであったかそうにしている子。

そうだ、スカートとかいう下半身まるだしな格好は、寒くなってくると風によってはおまたまですーすーしんしんしてくるんだ。
そんなおまたを、ぱんつごとぴったり覆うタイツで守ってあげることで、下半身からおへそまでが一気にあたたかくなるんだ。

僕も寒いからもちろん優花に頼んで用意してもらったけども……日によってはなんだかふとももがちくちくするからあんまり好きじゃない。

なんでだろうね。

もっとも、風が吹いたとたんによわよわなタイツはあっという間に存在しないも同然の防御力になってひゅってなるんだ。

……やっぱり普通にズボンの方が良くない?
いやまぁ、タイツの見た目と、きゅっと締めつける感覚は好きだけどさぁ……。

「怖がらせちゃったから……ろうとしたけど、止められて……」
「………………………………」

そんなことよりも、だ。

ゾンビさんが……ゾンビさんじゃなくなっている。

青みがかった髪は、この前のぼっさりからしんなりとしていて生気を感じさせ、その下の顔もこの前とは違ってちゃんと寝たのか、それとも優花がやってるみたいに目の下の隈だけ時間をかけてぬりぬりして目立たなくしているのか。

そういやほっぺたも真っ白だったのがちょっと赤くなってるし、この前は見開いてて怖かったおめめも――物怖じする感じで、背の低い僕のことをうつむきながら上目遣いで見てきているけども、普通の範囲内。

いや、むしろひより先生を思い出させてほっこりする感じだ。

「いやー、ごめんっ! あの日は会社が修羅場で休めなくってねぇ」
「いえ、以前にもお世話になりましたし」

「ほんとは会社員とVの二足わらじはキツいんだけど、どっちもしたいことだからさぁ。あ、お詫びに私のおっぱい、揉む? 自慢だけど私の胸、女子にも人気なのよ? 包まれたいって」
「い、いえ……」

この前みたいに――良く覚えていないけども、たしかゾンビさんは体を膨らませて威嚇することができたはずだ――襲いかかってくるどころか、むしろこれからいただかれそうでびくびくしてる感じの、元ゾンビさん。

そんな彼女の肩を抱いて「この子が私の子供です」的な顔をしているのは、かなり背の高い――前の僕より高いかも――直視するのがためらわれる系の、つまりは強そうな女の子。

や、見た目は女の人だし、ちらりと優花が言っていたには僕と同い年――もちろん前のだ――くらいらしいから同世代ってわけで、んで20代中盤の女性のことを「女の子」と「女子」と「女の人」とのどの呼び方が適切かなんて社会人マナーは、僕には存在しないんだ。

「!」

あっ、目が合った……そしてとっさに逸らしてしまった。

「かわいい……!」

……しょうがないじゃん、最後に普通の同学年を見たのは大学の中盤までなんだから、社会人の女性=年上の大人って認識がまだ残ってるんだし……あと、今の僕は子供だし……見上げたらでかすぎるのが視界をさえぎってるから怖くってもさ。

「こはねさん? こちらの方は」
「紅目はるな。Vとしては……トップ層はともかく、まぁ中堅かな?」

名前とさばさばしたしゃべり方――そして、でっかいポニーテール。
その特徴は、どこかで……?

「……あ、赤い髪の……」

「!! もしかして観てくれてた!? 配信!」

「ひぅっ!? ……え、えっと、おすすめ欄に……」

怖い。
優花のおしりに隠れる。

「……そっかー。うんうん、それだけで嬉しいかな」

食い気味で襲ってきたでっかいの――あれは優花なんか目じゃない、僕の頭サイズはある……から優花の背中に逃げた僕へ、ちょっと残念そうな声。

けどもすぐに離れてくれる優しさは感じる。
ゾンビさんだったのとは真逆の顔合わせだ。

「……こはねさん? 吐き気の方は」
「あ……うん、無いみたい」

背が高いしでっかいから怖いけども。

「ということで、紅目さんも何回か会えば」
「いやー、初対面を乗り切れると楽だね!」

この中では最大のボリュームを――声も背丈も、あと胸元も――誇る、はるなさん。

……この人なんで、こんな寒空で怪盗が着るみたいなぴっちりスーツ着てるの……?

そのせいで胸元も腰つきもふとももも、全部見えちゃってるし……痴女なの……?
ゾンビさんの抑えは痴女さんなの……?

「まっ、今日はこの前ごめんねっていうお詫びついでの顔合わせだから。そのつもりでバイクで来たから、すぐ帰んなきゃだし」

「わざわざ……ありがとうございます」
「良いって良いって、お姉様――ちゃんが頭下げなくても!」

――すぐに帰るって言ったくせに、はるなさんとみなみさんは――みなみさんは相づち程度だったけども――結局10分くらい立ち話をして帰った。

僕?

はるなさんの後ろに隠れる形になってたみなみさんと同じく、優花のおしりにへばりついてたけど?

まるで母親同士の立ち話に付き合わされた良く知らない子供相手な雰囲気で。
結構目が合ったおかげで、最後の方はお互いに気心が知れてきた気がするね。





「やばい、どうしよ……こはねちゃん、産みたくなっちゃった」
「分かる……」

「こう、母性本能?がね?」
「分かる……」

「もちろん孕みたい気持ちも捨てきれないけどさ」
「分かる……」

「どっちも行けるって……良いよね」
「分かる……」

大型バイクで綾瀬家を後にした2人は、タンデム――2人乗りで、お互いにヘルメットの中のインカムで外へ漏れない会話ができるのを良いことに、普段の会話を繰り広げていた。

「なにあのかわいいいきもの。生物として卑怯でしょ」
「あれならたぶん、オオカミ相手とかでも迷わず保護される……」

「どんな悪人でも速攻更生させるよねぇ、あんなの」
「分かる……」

「――でも、慣れてきたら」
「うん……配信での孕みボイスになってた」

――ぞわっ。

信号待ちで、何気なく――派手なバイクに乗る派手な美女とその連れを見ていた運転手たちは、得体の知れない吐き気を覚えた。

「じゃ、あの子が本当に」
「ん。間違いなく『救世主のこはね様』」

――みしっ。

信号機の寿命が、3年ほど縮む。

「守られた環境なら、言葉だけで他人の命さえ救える人……だけど」
「守られていないと、どんな存在でも命を投げ出して助けたくなる」

――信号が、青になった。

緩やかに――後部に座る、みなみを気遣ってバイクが発進する。
信号待ちのドライバーたちと信号機は、救われた。

「もっと秘密があるってのは如月ちゃんから聞いてるけど」
「私たちへも、話せない……もっともっと貢献して、信頼されないと」

「お金、人脈、信用……ぜぇーんぶ吐き出さないとね」
「す、住んでる場所と年齢と性別だけで、選ばれただけだし」

「何すれば良いかなぁ。Vとして全力で推し活かなぁ」
「でも、まだこはねさ――ちゃんの性別は、本人が断言してるのもあるし、半信半疑だから」

「そうねぇ……少なくともネット上では成人男性扱いされたいわけだし、そこへユニコーンたちを抱えてる私たちがおおっぴらにしたら」

「絶対、迷惑かかる……あの子たち、暴走しがちだから」

「だよねぇ。はぁ……コラボとかできたらなぁ」

「こはね」の、性別。

それは「声バレギャン泣き配信」と「顔バレマジ泣き配信」でオンタイムだった介護班&準介護班、それに一部の野良視聴者たちこそが実感したもの。

ボイチェンと言い張っていたけども周囲の環境音で確実に否定できたトラウマ級のギャン泣き配信、そしてトドメの、顔と体のサイズが完全に映っていた即死級のマジ泣き配信を耐え抜いた人々にしか……肉体的な性別を含めた外見のことは、確定事項にはなっていない。

なまじこはね自身が明確に男と言い張る以上、切り抜き勢――世の中の圧倒的多数は、半信半疑よりも「女声を出せるかもしれないし女装が趣味なのかもしれない男性」「男でも良いや」「養いたい」との認識が根強い。

「ま、あの語り口に話す内容を聞いてたら、フツーに20代の男の人よねぇ」

「うん……ガチ恋ファン、要警戒」
「それ、厄介ファンの私たちが言う?」

「敵は、少ない方が良いから」

――めこっ。

バイクが設置している道路の寿命が縮む音が響く。

「うーん……そうだよねぇ……こはね様が推されているひよりちゃん様とか何よりのお姉様はともかく、あと如月ちゃんもともかく」
「あんまり増えると……困る。取り分が……減る」

「あれで体が男で生えてたら骨肉の争いだったねぇ」
「貴重な1本を巡って、最後までのデスゲーム」

「でも、女の子だから」
「一緒に……ね」

――ちょうどこの瞬間、こはねの股間へ幻肢痛が走り、泣きわめき、よしよしされていた。

「……どうにかして、愛人になれないかなぁ。ううん、1回限りでも良いの」

「過去の発言で、自分から行くことはなくても女性にはそれなりに興味がある……む、胸の大きさとか顔とかはあまりに気にしないみたいだし……」

「私は……引きこもりとしての同情と、顔で」
「――私は、ちょっと抱えた闇と、胸と顔で」

「それくらいしか、ないの」
「それくらいしか、ないもんね」

「………………………………」
「………………………………」

「これで愛してもらえないかなぁ」
「女同士でも、ど、道具があれば」

「最悪、遺伝子だけ……ほら、最近の技術で」
「孕みボイスをたっぷり詰め込んだ、種を……」

ぶぅぅぅん。

重力を設定ミスしてしまったバイクは――本人たちにとっては祝詞、周囲にとっては呪詛となる会話を楽しみながら、「次」の予定を心待ちにしていた。
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