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3章 乱舞するメス堕ち
47話 アイデンティティーが不安定な僕
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「よっ、と……」
パソコンとVRなチャットのアプリ、フルトラのアプリにVRゴーグルのセット。
僕の生きる今の時代……VRを楽しむには、まだまだハードルが高い。
一応ゴーグルだけでも楽しむことはできるけども、スペックが圧倒的に足りない現状、結局はそれなりのパソコンも用意しないと満足には楽しめない。
ヘッドセットを被ってしばし――僕はリアルの肉体からバーチャルの肉体へ移動する。
と言っても、物語のように意識を転送させるわけでもなく――むしろ顔と全身に機材をセットする分、余計に現実を感じつつのバーチャルなんだけどね。
「あ、あー。よし」
声も――日常でぎりぎり「随分声が高い男だな」って思われる程度で済ませているそれも、バーチャルに入った瞬間に――遠慮は要らなくなる。
いわゆる「甘え声」――アニメのキャラクターや、クラスでも居るぶりっ子な女子の出すような、くすぐるような声のことだ――を混ぜると途端に、ただ高くしただけの男の声から「女の子の声」になる。
……こういうのも、もはや抵抗なんてなくなっちゃったなぁ……。
落ち込むものは落ち込むけども、すでに今のアバターと似たような室内着の女装をしている以上、意味はない。
ま、いざとなればヒカリに責任取るよう言っといたからな。
メス堕ちした男でも生粋の男に戻せる素敵なプログラムでも考えておいてくれるだろう。
それが責任ってものだからな。
あれだけ押して押して押しまくって――あいつ自身から教わった技術を込めて詰め寄ってうなずかせたんだ、しぶしぶとでも探してくれるはず。
……けど、なんであいつあのとき顔真っ赤にしてたし、そのあともなんか変によそよそしいんだろうな?
勢い余って体に乗り上げちゃったけど、あいつがそんなことで動揺するようなタマじゃないのは僕がいちばん知っているし。
今日だって、普段なら部屋に押しかけてからかいながら僕をひん剥いて着せてるところを「いや、たまには……ね? 距離とか……ね?」とか、もじもじしながら言って帰ってった。
……もしやあいつ、責任が嫌で逃げようとしてるのか?
そうはいかないからな?
なぜかは知らないけどもあいつの両親の連絡先まで教えてもらってるし、いざとなれば突撃して窮状を何割増しで訴えれば、きっとなんとかなる。
そうだ、あいつの姉は恐ろしいらしい。
僕が被害に遭っているのを訴えたら、きっと酷い目に遭わせてくれるに違いない。
うん、すっきりした。
「~♪」
フルトラ機材の確認も兼ねて、いろんなポーズを取る。
――特にVR特有の動きづらさとかも考えての、可能な限りに女らしい体の動かし方などを考えつつ。
「……すっかり慣れちゃったなぁ……」
はぁ、とため息をつくも――ミラーに映っている銀髪紅眼ケモ耳の僕は、頬に手を当て、表情モーションも見事だった。
◇
「………………………………」
「? どうかしましたか?」
比較的新しいフレンドさんたちと円陣を組んでぽつぽつと話していたら、ふと視線を感じて顔を上げる。
「あ、いえ。 その……レイさんのリアルってどんなのかなって。あ、違うんです! 別に見たいとかじゃなくって!」
「リアルの詮索は――って、知ってますよねぇ」
「まぁでも、レイきゅ――さんは顔出しこそしてなくてもレイヤーさんなんでしょ? 普通にかわいいに決まってますよ」
「え?」
「え?」
なんだか聞き覚えのない表現をされた気がして、思わずでその人を見る。
「……男の娘アイドルをされているのでは?」
「していませんが?」
「夏冬の祭典とかで、カメラを向けられているのでは?」
「よく知りませんけど人前に出ることはないですね」
「でも、定期的にコス写真上げてますよね?」
「うぐ」
「え!? レイさん、自撮り上げてるんですか!?」
「レイさんの自己紹介欄のSNSリンクから飛べますよ」
あ、やばい。
つつかなくて良いところつついて、今まで興味持ってない人まで持っちゃった!?
いやまぁ、隠してはいないんだけどさぁ……。
「……おぉ……」
「でしょ?」
「……なんか雰囲気、今のアバターと似てますよね。服とかポーズとか」
「あ、分かる」
「顔は出してませんけど、やっぱり雰囲気で分かりますよね」
「自撮り、何人か並べられても、たぶん分かりますよね、レイさんだって」
雰囲気。
……バーチャルの僕とリアルの僕が?
ないない。
だって、バーチャルの僕は――多分はプロのモデラーさんによるプロのアバターで。
そこを多少改変でいじったにしても、しょせんは素人の範疇で――つまりはほぼそのままで。
誰もがかわいいって感じる3Dアニメキャラで、毛穴ひとつない完璧なモデル体型で。
――それに比べてリアルの僕は――最近は多少綺麗にはなったけども、しょせんは男の体。
本物の女子に比べたらやっぱり筋肉はついちゃっているし、背も高いし、角張っいるし。
服で隠したりはできるけども――そもそも着替えるのを楽しむのは僕なんだ、だから自然、違和感の方もいちばん感じるのが僕自身なんだ。
「……そうだと、良かったんですけどねぇ……」
「? 違うんですか?」
「なんでもヒカリさんによると、もう瓜二つとか」
「あー、リアルのフレンドさんかー」
「いや、ない。ないです。あの人のことは信用しないでください」
「えー?」
「本当ですかー?」
今日の流れは――残念ながら、ヒカリ不在でも僕をからかうものらしい。
多少気心は知れてきたとはいえ僕が付き合えるフレンドさんたちだ、さすがにこれ以上は足を踏み入れてきたりはせず、少しずつ話題が変わっていく。
けども。
……そうだよね。
僕は、どこまで言っても男なんだ。
この、ミラーに映る「女の子の僕」にだなんて――なれっこないよね。
◇
「――とか、きっと自己肯定感低くてアンニュイなレイきゅんは思ってるだろうけど」
「『かわいい』はね? ――作るし目覚めさせるし演出するものなんだよ? 分かる? レイきゅん?」
パソコンとVRなチャットのアプリ、フルトラのアプリにVRゴーグルのセット。
僕の生きる今の時代……VRを楽しむには、まだまだハードルが高い。
一応ゴーグルだけでも楽しむことはできるけども、スペックが圧倒的に足りない現状、結局はそれなりのパソコンも用意しないと満足には楽しめない。
ヘッドセットを被ってしばし――僕はリアルの肉体からバーチャルの肉体へ移動する。
と言っても、物語のように意識を転送させるわけでもなく――むしろ顔と全身に機材をセットする分、余計に現実を感じつつのバーチャルなんだけどね。
「あ、あー。よし」
声も――日常でぎりぎり「随分声が高い男だな」って思われる程度で済ませているそれも、バーチャルに入った瞬間に――遠慮は要らなくなる。
いわゆる「甘え声」――アニメのキャラクターや、クラスでも居るぶりっ子な女子の出すような、くすぐるような声のことだ――を混ぜると途端に、ただ高くしただけの男の声から「女の子の声」になる。
……こういうのも、もはや抵抗なんてなくなっちゃったなぁ……。
落ち込むものは落ち込むけども、すでに今のアバターと似たような室内着の女装をしている以上、意味はない。
ま、いざとなればヒカリに責任取るよう言っといたからな。
メス堕ちした男でも生粋の男に戻せる素敵なプログラムでも考えておいてくれるだろう。
それが責任ってものだからな。
あれだけ押して押して押しまくって――あいつ自身から教わった技術を込めて詰め寄ってうなずかせたんだ、しぶしぶとでも探してくれるはず。
……けど、なんであいつあのとき顔真っ赤にしてたし、そのあともなんか変によそよそしいんだろうな?
勢い余って体に乗り上げちゃったけど、あいつがそんなことで動揺するようなタマじゃないのは僕がいちばん知っているし。
今日だって、普段なら部屋に押しかけてからかいながら僕をひん剥いて着せてるところを「いや、たまには……ね? 距離とか……ね?」とか、もじもじしながら言って帰ってった。
……もしやあいつ、責任が嫌で逃げようとしてるのか?
そうはいかないからな?
なぜかは知らないけどもあいつの両親の連絡先まで教えてもらってるし、いざとなれば突撃して窮状を何割増しで訴えれば、きっとなんとかなる。
そうだ、あいつの姉は恐ろしいらしい。
僕が被害に遭っているのを訴えたら、きっと酷い目に遭わせてくれるに違いない。
うん、すっきりした。
「~♪」
フルトラ機材の確認も兼ねて、いろんなポーズを取る。
――特にVR特有の動きづらさとかも考えての、可能な限りに女らしい体の動かし方などを考えつつ。
「……すっかり慣れちゃったなぁ……」
はぁ、とため息をつくも――ミラーに映っている銀髪紅眼ケモ耳の僕は、頬に手を当て、表情モーションも見事だった。
◇
「………………………………」
「? どうかしましたか?」
比較的新しいフレンドさんたちと円陣を組んでぽつぽつと話していたら、ふと視線を感じて顔を上げる。
「あ、いえ。 その……レイさんのリアルってどんなのかなって。あ、違うんです! 別に見たいとかじゃなくって!」
「リアルの詮索は――って、知ってますよねぇ」
「まぁでも、レイきゅ――さんは顔出しこそしてなくてもレイヤーさんなんでしょ? 普通にかわいいに決まってますよ」
「え?」
「え?」
なんだか聞き覚えのない表現をされた気がして、思わずでその人を見る。
「……男の娘アイドルをされているのでは?」
「していませんが?」
「夏冬の祭典とかで、カメラを向けられているのでは?」
「よく知りませんけど人前に出ることはないですね」
「でも、定期的にコス写真上げてますよね?」
「うぐ」
「え!? レイさん、自撮り上げてるんですか!?」
「レイさんの自己紹介欄のSNSリンクから飛べますよ」
あ、やばい。
つつかなくて良いところつついて、今まで興味持ってない人まで持っちゃった!?
いやまぁ、隠してはいないんだけどさぁ……。
「……おぉ……」
「でしょ?」
「……なんか雰囲気、今のアバターと似てますよね。服とかポーズとか」
「あ、分かる」
「顔は出してませんけど、やっぱり雰囲気で分かりますよね」
「自撮り、何人か並べられても、たぶん分かりますよね、レイさんだって」
雰囲気。
……バーチャルの僕とリアルの僕が?
ないない。
だって、バーチャルの僕は――多分はプロのモデラーさんによるプロのアバターで。
そこを多少改変でいじったにしても、しょせんは素人の範疇で――つまりはほぼそのままで。
誰もがかわいいって感じる3Dアニメキャラで、毛穴ひとつない完璧なモデル体型で。
――それに比べてリアルの僕は――最近は多少綺麗にはなったけども、しょせんは男の体。
本物の女子に比べたらやっぱり筋肉はついちゃっているし、背も高いし、角張っいるし。
服で隠したりはできるけども――そもそも着替えるのを楽しむのは僕なんだ、だから自然、違和感の方もいちばん感じるのが僕自身なんだ。
「……そうだと、良かったんですけどねぇ……」
「? 違うんですか?」
「なんでもヒカリさんによると、もう瓜二つとか」
「あー、リアルのフレンドさんかー」
「いや、ない。ないです。あの人のことは信用しないでください」
「えー?」
「本当ですかー?」
今日の流れは――残念ながら、ヒカリ不在でも僕をからかうものらしい。
多少気心は知れてきたとはいえ僕が付き合えるフレンドさんたちだ、さすがにこれ以上は足を踏み入れてきたりはせず、少しずつ話題が変わっていく。
けども。
……そうだよね。
僕は、どこまで言っても男なんだ。
この、ミラーに映る「女の子の僕」にだなんて――なれっこないよね。
◇
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