29 / 47
▽29.礫帝、人間の軍勢を撃破する。
しおりを挟むそして、翌々日。
エルフたちが住まう森を抜けたところにある大平原地帯で。
「うはぁ……こりゃあ、相当の数の兵がいるな……」
森の出口で目を凝らして、俺は思わずつぶやいた。
その数およそ千か二千か。エルフを打ち負かすだけの先発隊にしてはかなりの軍勢だ。
多分、この戦いの後でさらに奥の領土へ侵攻するつもりなのだろう。
遠見の魔術を使わなくてもはっきりわかる。いくつもの野営地が設営され、多くの兵たちが突撃を今かと待ち構えていた。
「あれだけの数を相手に……一体どうするつもりなのだ、この御仁は」
立ち会いのためについてきてくれたエルフの族長の一人が、俺の後ろで不安げに言う。
「じゃ、魔王様。『拡声石』をお借りしてもよろしいでしょうか」
それをスルーして俺はロゼッタに尋ねる。
拡声石とは、魔石の一つ。声を遠方まで響かせる伝達用の魔道具だ。
彼女は頷き、手持ちの宝石箱から石を一つ取り出して、俺へと渡してくれる。
俺は口もとにその石を近づけ、やや演技がかった口調で平原に向けて叫んだ。
「──ハシュバールの兵に告ぐ! 我は魔王軍四天王の一人、クロノ・ディアマットである! 我ら魔王軍は、この森に住まうエルフたちと同盟関係を締結した! 故に貴殿ら人間がエルフの森を侵そうとするのであれば、それは魔王軍に弓引くのと同義である! ここから先はその旨を覚悟の上で歩を進められたし!」
警告の口上が快晴の空に響き渡った。
実を言うと、すでにハシュバール軍には同じ内容の書簡を前日に送っており、これは二度目の警告となる。
だが、兵たちは撤退する様子など微塵も見せない。
平原の小高い位置で将兵らしき男が騎乗し、兵に注目を促すよう右手を掲げる。
その男は声を張り上げ、こちらに負けないくらいの怒声をもって、全軍へと檄を飛ばした。
「馬鹿めが、魔王軍など何するものぞ! 我らには無敵の竜鱗がある! 恐れるな! この鎧がある限り、魔族どもの矮小な魔法が我らに届くことはない!」
「「「おおおおおおおおーっ!!」」」
兵たちは鬨の声をあげる。
続いてその将が突貫の号令とともに右手を振り下ろすと、それと同時にすべての兵士がこちらへと突っ込んできた。
「全軍、突撃せよ! 愚かな魔王軍を、エルフともども蹂躙し尽くすのだ!!」
「「「うおおおおおおおおおおおおっ──!!!」」」
ドドドドッ──と、無数の足踏みと怒号が地鳴りのように響き渡る。
それらはまるで巨大な津波のようだった。
騎兵が半分。残り半分が歩兵といったところか。
思わずたじろぐほどの勢いだ。おそらく正規の魔王軍でも、これをまともに受ければひとたまりもないだろう。
そう、まともに受けたなら──の話ではあるが。
「クロノ」
心配そうにロゼッタが呼びかける。
大丈夫だ。俺は我が主を安心させるため彼女の肩に手を置くと、そのまま木々の中から歩き出て、一人で敵軍へと相対した。
ゆっくりと歩を進め、自陣から少し離れたところで魔力を展開させる。
黄金色の魔力の光が体を包み、少しだけ地表から浮遊すると、徐々に全身が輝き出す。
コオオオ……
「──土魔法上級術式、起動。『母なる大地の精霊よ、すべての源たる命の息吹よ、我に力を貸し与えたまえ』──」
呪文の詠唱とともに、俺が立っている場所を中心として、小さな震動が起こり始めた。
兵士たちの表面的な足踏みとは違う、地の底から沸き起こるような揺れだ。
それは平原一面へと波及するように、加速度的に大きな地震へと変化していく。
ゴゴゴゴゴゴ……
「な……何だこれは……?」
「どうなっている……何故いきなりこんな地震が……!?」
突貫しながらも不意の震動に当惑し、ハシュバール兵は思わず歩速を落とす。
と、次の瞬間、ドォンという轟音とともに、平原の地面に亀裂が入った。
バキバキバキッ、ゴォッ──
「なっ──うわあああああーっ!」
あちこちで無数の地割れが発生し、兵士たちはそれに足を取られた。
否、足どころではない。亀裂は一瞬で拡大し、地表に巨大な穴が開き、彼らの全身がその中に飲み込まれてゆく。
それは上級土魔法、『大いなる大地の怒り』。
ここ数ヶ月で俺が行使した中で、もっとも規模の大きな土魔法だ。
局所的に地震を発生させ、地割れや陥没、そこから生じる礫岩によって物理的なダメージを与える災害魔法。
すなわちそれこそが今回の戦いの策。魔法を跳ね返す鎧など関係ない。圧倒的な物量をもって、多数の敵を一気に飲み込む広範囲攻撃こそが、竜鱗への対処を可能とする戦術だった。
兵も馬も、突如現れた割れ目になすすべもなく落下してゆく。
突撃の叫びは、恐怖の叫びに。引き返そうとしても後に続く仲間たちに背中を押され、彼らは絶壁に身を投げる以外の道はなくなってしまう。
「とっ、止まれーっ! 全軍停止だ! これ以上進むなーっ!」
「やめろ、お、押すなっ、前に大穴があるんだっ!」
「ダメだっ、う、馬が動揺して、止められっ、おわああああっ!!」
目の前は一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図へと変貌する。
人間たちはゴミのように断崖へと落ちてゆく。ボロボロと、一人残らず。
その後は成り行きに任せるがまま。俺がほんの少しだけ魔力で傾斜を作ってやると、兵たちは地獄の口に転がり落ち、二度と上がってくることはなかった。
……ただ、竜鱗に洗脳されているとはいえ、これだけの人間を殺すのはさすがに気分のいいものではない。
(それでも、目をそらさないようにしないとな……。どこから不意の攻撃が来るかわからないし)
俺は顔をしかめながら、じっと目の前の惨状を見やる。
するとその時、不審な挙動の男がちらりと視界に入った。
不審というか、妙な動きの一将兵だった。あまりに軽やかで、その身のこなしは人とは思えない。
その男は騎乗していたが、一人だけ馬を乗り捨てて、跳ねるように兵たちの頭を踏みつけながら戦場を離脱していく。
(……何だあいつ……?)
さらに妙なのが、彼だけが竜鱗の鎧を着ておらず、ハシュバールの者とは異なる黒い詰襟の軍服をまとっていた。
一瞬、こちらと目が合う。
が、男は興味なさげな様子で、俺から背を向けて去っていった。
「なっ、何故だあっ、何故我が軍がこのような無様をっ……!」
その一方で、先刻号令をかけた敵将が、わけがわからないといった様子で混乱の叫びをあげる。
その敵将もまもなく地の裂け目に落ちていくと、地表に残っているハシュバール軍は一人としていなくなった。
俺は「『満たせ』」と念を飛ばして地面を閉じさせ、平原をもとの様相に戻していく。
さすがに生えていた草木まで元通りとはいかなかったが、何事もなかったかのように目の前は静かな平野の姿を取り戻した。
「……ま、こんな感じで、どうですかね」
振り返ってエルフの男族長に問い掛けると、彼はハッと目を見開き、「ははあーっ!」と大仰に頭を下げた。
その隣ではロゼッタが腕を組み、満面の笑みでうんうんとうなずいていたのだった。
2
あなたにおすすめの小説
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います
長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。
しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。
途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。
しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。
「ミストルティン。アブソープション!」
『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』
「やった! これでまた便利になるな」
これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。
~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
追放された最強ヒーラーは、美少女令嬢たちとハーレム生活を送る ~公爵令嬢も義妹も幼馴染も俺のことを大好きらしいので一緒の風呂に入ります~
軽井広@北欧美少女 書籍化!
ファンタジー
白魔道師のクリスは、宮廷魔導師団の副団長として、王国の戦争での勝利に貢献してきた。だが、国王の非道な行いに批判的なクリスは、反逆の疑いをかけられ宮廷を追放されてしまう。
そんなクリスに与えられた国からの新たな命令は、逃亡した美少女公爵令嬢を捕らえ、処刑することだった。彼女は敵国との内通を疑われ、王太子との婚約を破棄されていた。だが、無実を訴える公爵令嬢のことを信じ、彼女を助けることに決めるクリス。
クリスは国のためではなく、自分のため、そして自分を頼る少女のために、自らの力を使うことにした。やがて、同じような境遇の少女たちを助け、クリスは彼女たちと暮らすことになる。
一方、クリスのいなくなった王国軍は、隣国との戦争に負けはじめた……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる