勇者の処分いたします

はにわ

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勇者キラによる追放

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「マリア、申し訳ないけど、ここらでパーティーを抜けてはもらえないか?」


冒険者ギルドに併設されている酒場の一席で、パーティーのリーダーである勇者キラは対面に座るマリアに向かって気まずそうな顔をしてそう言った。


「これからどんどん冒険も苦しく危険なものになるし、マリアが危険になる。それに国が助成金を出してくれるパーティーの仲間の人数ももう制限いっぱいいっぱいだし、マリアの分を空けて優秀な治療師を補充しておきたいんだ」


「・・・そ、そう・・・やっぱりね」



追放を宣言されたマリアは、ショックを受けていながらも、それでも心のどこかで準備は出来ていたようで、あまり反論はしなかった。

マリアは19歳。キラの2つ上の幼馴染で、同じ村の出身であった。
そのころからキラの面倒を良く見ており、やがてキラが村の教会のお告げにより勇者を目指す旅に出ることになったときも、非戦闘員でありながらも彼の役に立ちたいとついていった。食事、買い出し、情報収集、荷物持ち、サポーターとして全力でキラを支えてきたが、その甲斐あってかキラは王国より一年半前に勇者と認定されるに至った。

マリアはこれを自分のことのように喜んだ。キラもマリアに感謝の言葉を述べ、実際にその念を忘れることはなかった。
だが、キラが勇者となって旅に同行する仲間の質が上がってくると、やがてマリアの存在価値が薄れるようになった。
今後も敵のレベルは上がり、冒険はより危険なものになる。そんな場所にマリアを連れて危ない目に遭わせたくないという気持ちがある一方・・・「足手まといで邪魔」こういう気持ちもキラにはあった。
細々と雑用をこなしてくれるといっても、やはり非戦闘員。これなら雑用を皆で分担することにして、代わりに戦闘が出来る優秀な人材を入れたほうがいいのである。

キラは勇者として認定され、国から様々な特権を得られる。
強力な仲間が増え、以前よりも綿密な情報収集も必要ではなくなった。国からの助成金があるので買い物も欲しいものを欲しいものだけ買うことができる。
もうマリアがいたときのように財布の管理をお願いなんてしなくてもいいのだ。
これまでマリアがこなしてきた雑用そのものも、皆で分担すれば大した負担になるものではないとキラは考えていたのだ。




「ねえキラ。本当に、本当にもう私は必要じゃない?私がいなくて大丈夫?」


マリアは最後にキラにそう問いかけていた。
小さな頃から大好きだったキラの元を離れたくない、しかし、足手まといにもなりたくない。
決断し切れないマリアの未練がこれを言わせていた。


「大丈夫だよ・・・僕はもう子供じゃない。大丈夫さ」


キラのその言葉を聞いて、マリアは目にうっすらを涙を浮かべるも、すぐさまそれを拭って気丈に笑い、椅子から立ち上がった。


「そう!それじゃあ、寂しくなるけど、これからも頑張ってね。応援しているから」


「ごめん・・・」


立ち上がってから急いで店を出て行ったマリアには、顔を背けて小さく言ったキラの謝罪の声が届くはずもなかった。


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