勇者の処分いたします

はにわ

文字の大きさ
3 / 54

勇者キラの告白

しおりを挟む
「リリアナ。初めて見たときから気になっていた。冒険を一緒にするうちに、今では強く恋焦がれるようになってしまった。好きだ。僕と恋人になってはくれないか?」


キラがマリアに追放を宣言する数日前、キラはパーティーメンバーであるリリアナを呼び出して、正面から愛の告白をした。

リリアナとの出会いは忘れもしない。ギルドで紹介されて初めて見たときは体に電撃が走った。見たこともないくらい綺麗な娘であると。
戦闘でも強力な魔法を使いこなし、戦況の把握も的確。天は二物を与えずというが、少なくともリリアナに限って言えばそんなことはないのだなと思ってしまった。

この子と一緒にいたい。自分のものにしたい。

そう強く思い続けた結果、我慢できずにリリアナに告白をしてしまった。
気持ちを伝えることさえ出来ればいい、最初はその程度に考えていたが


「嬉しいです・・・私もキラさんのこと、気になっていたから・・・」


リリアナからのその返事を聞いて、キラは有頂天になった。だが・・・


「キラさんの気持ちはわかりましたけど、それでもキラさんにどれだけ好きだと言われても不安があります」


「えっ?」


突如としてリリアナに言われた言葉に、キラは茫然とした。
なんだ?なんだというのだ?


「マリアさんのことです。あの人は、その、キラさんの恋人じゃないんですか?」


マリアの名前が出てきたとき、キラはハッとした。
確かにマリアとは、子供のときにちょっと先走ったことを言ってしまって以来、何でも世話を焼いてくれるので距離が近い・・・いや、近すぎるかもしれない。
だが、男女の関係にはなっていない。ちょっと距離の近い家族のような存在だ。
正直なところ女性として見ていたかなと思っていた時期はあったが、それもリリアナと出会ったことで全てがまやかしであるということに気が付いた。


「マリアは恋人じゃない。本当の恋を教えてくれたのはリリアナが初めてだよ」


勘違いをさせてしまったことを申し訳ないと思い、キラはリリアナの手を取ってジッと目を見つめてそう言った。
確かにマリアとは他人から見ると誤解を招くような距離感で接していたかもしれない。これからは考えないと。そう思っていた。

しかし、キラの言葉を聞いたリリアナはなおも表情が晴れることはなかった。


「そう・・・ですか、私のことを好きだと言ってくれるなら、その言葉を信じます・・・」


言葉では信じると言うが、それでもどこか釈然としないような雰囲気を出しているリリアナを見て、キラは反射的に言った。


「なら、マリアにはパーティーを離れてもらうよ。それなら安心して僕のことを信用してくれるかい?」


不安げな態度のリリアナを見て、キラは何か出来ることはないかと一瞬考え、次の瞬間こんなことを口走っていた。
愛し人と気持ちが通じ合った直後で浮足立っていたとはいえ、あまりにも薄情な男であった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

学園長からのお話です

ラララキヲ
ファンタジー
 学園長の声が学園に響く。 『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』  昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。  学園長の話はまだまだ続く…… ◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない) ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

処理中です...