勇者の処分いたします

はにわ

文字の大きさ
11 / 54

キラの裏側では

しおりを挟む
一方、キラがシン達に詰められているとき、マリアの部屋に訪れてきていたのはキラと決別したばかりのバットンだった。


「バットン・・・?」


部屋に入ってきたバットンは仏頂面で、何やら威圧的なオーラを出していた。


(もしかして・・・)


バットンもずっと自分に思うところがあって、追放を機にぶちまけるつもりなのだろうか?と、マリアは思い身構えた。キラだけでなく、そこそこ付き合いのあるバットンにも詰られたら耐えられないかも・・・そんな風に考えていた。


「マリア、追放のことは・・・俺はさっき知った」


「えっ」


キラはバットンには知らせずに自分を追放したのか?どうしてそんなことを・・・
マリアは訳が分からずにいた。


「到底納得できるものではなかったのでな、俺もさっきパーティーを抜けてきたんだ」


「ええっ!?」


勇者キラのパーティーは四人だった。
それが二人も一気に抜けて大丈夫なのだろうか。・・・いや、自分は元々大した存在じゃないが、それでもバットンの抜けた穴は大きいはずだ。強力な剣士で、付き合いもあるから息も合う、代わりは簡単には埋まらないはずだ。
それはバットンにしても同じこと。波に乗っているキラのパーティーから抜けるメリットはないはずだ。


「どうして!?」


「マリアのことを追放したのが我慢ならなかったからだ!あんな薄情なやつだとは思わなかった」



バットンの表情は怒りに満ちていた。
マリアは彼が本気で言っていることを察する。


「マリア!」


バットンは突然マリアの両肩を掴む。


「キラとじゃなくて、今度は俺とパーティーを組んでほしい!」


悪鬼羅刹のような気迫ある表情のまま、バットンはマリアにそう叫んでいた。
表情は恐ろしいが、顔は真っ赤で声はやや上ずっている。それは緊張と恥ずかしさによるものであった。


「俺はずっとマリアが好きだった!パーティーのために身を削って頑張る君が輝かしく見えていた。だがキラと想い合っていると思い、この気持ちは我慢していたんだ」


「え・・・その・・・」


突然のことだかけで頭が追い付かないマリアだったが、それでも自分が愛の告白をされていることだけは理解できた。


「冒険者をやめて普通に暮らそうというのならそうしよう。冒険を続けたいというならそれでもいい。とにかく、俺と・・・二人だけのパーティーを組んでほしい」


「そ、そんな私なんて・・・」


元から自分に自信の持てない性格な上、キラによって更に心をへし折られたマリアはすっかり卑屈になっていた。


「私なんてなんて言うな!君は自分が思っているよりずっと素晴らしい人だ!俺には君が、マリアがいいんだ!」


卑屈になっていたマリアの心にずかずかと踏み込んでいくバットンの言葉に、マリアは瞳からこぼれるものを抑えきることが出来なかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

学園長からのお話です

ラララキヲ
ファンタジー
 学園長の声が学園に響く。 『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』  昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。  学園長の話はまだまだ続く…… ◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない) ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...