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勇者エクスの幸せ
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ラダーム国王城より遥か離れた田舎村。
行商も決まった人以外あまり通らないのどかな村の一軒家に、二人の若い男女が住んでいた。
「お待たせ。朝ご飯が出来たわよ」
女が呼びかけると、寝室から眠たそうな顔をした男がやってきた。
男の名はエクス。
ひと月と少し前に魔王を倒し、王城で行われた祝賀会から忽然と姿を消した勇者その人である。
「うん、うまい。ビアンの作る料理はいつもおいしいよ」
ビアンと呼ばれた女の作った朝ごはんを食べて慢心の笑みを浮かべながら、エクスは言った。
「もう、ほめ過ぎよ」
そう言いつつも満更でもなさそうなビアンはエクスの対面の椅子に座ると、彼の顔をじっと見つめていた。
「・・・なに?どうしたのビアン」
視線に気づいて問いかけてくるエクスに、ビアンはニコニコ笑いながら
「ううん。エクスと一緒に居られて幸せだなって思っただけ」
などと言うので、エクスはクスッと笑いながら「なんだよそれ」と返していた。
エクスは自分のことを勇者と知らぬほど情報伝達の遅れた田舎村に住んでいた。
近所でもエクスの正体を知る者はなく、エクス達は『最近流れ着いた若夫婦』としか認識されていない。
エクスはビアンと言う幼馴染と結婚していた。
とは言っても教会に届け出ると自分の素性と居場所が知られてしまうため、事実婚状態であった。
エクスは勇者でもなんでもない、一般人としての第二の人生を歩みたかったからである。
ビアンは幼馴染なのでエクスが勇者であることは知っているが、彼の意志を尊重し、こうして正体を隠しながらひっそり生きていく結婚生活にも納得していた。
エクスは魔王討伐の過程でいくつものダンジョンを踏破し、魔王城でも幾多もの宝物を手に入れていたこともあってかなりの財産を持っていた。
しかし、そんなものを持っているだけでもそうだし、派手に使えばすぐに目立つ。それを嫌ってエクスはビアンに断った上で財産を手放した。
今、彼はたまにフリーの冒険者として出稼ぎしてくることで生活していた。
かつて約束されていた王族としての生活を比べればあまりに地味な暮らしであるが、それでも二人は幸せそうに暮らしていた。
「今でも信じられないわ。まさか勇者様であるエクスが私なんかと結婚してくれるなんて」
唐突にビアンが呟いた。
「なんかってなんだよ。俺はビアンがいいからビアンと結婚したの」
「でも、私より綺麗な王族や貴族の人との縁談だってあったでしょう?どうして私なんか・・・」
ビアンはエクスと結ばれたことは嬉しかったが、それでも幼馴染というアドバンテージしかない地味で冴えない田舎娘でしかない自分が、勇者として名を轟かせときめいていたエクスの伴侶として選ばれたことがいまだに半信半疑であるといった感じであった。
「王族でも貴族でもない、ビアンがいいから俺はビアンを選んだんだ。ホッとして落ち着くんだ。やっぱりビアンといると・・・」
しみじみといったように語るエクスに、ビアンは口元を抑えながら目を潤ませた。
「私・・・!私、本当に嬉しい・・・!幸せだわ・・・」
「なんだよ、大袈裟だな」
感涙するビアンの肩をそっと抱きしめるエクス。
二人の間を幸せな空気が流れていた。
コンコン
そんなとき、二人の空気を吹き飛ばすノックの音が部屋に響いた。
行商も決まった人以外あまり通らないのどかな村の一軒家に、二人の若い男女が住んでいた。
「お待たせ。朝ご飯が出来たわよ」
女が呼びかけると、寝室から眠たそうな顔をした男がやってきた。
男の名はエクス。
ひと月と少し前に魔王を倒し、王城で行われた祝賀会から忽然と姿を消した勇者その人である。
「うん、うまい。ビアンの作る料理はいつもおいしいよ」
ビアンと呼ばれた女の作った朝ごはんを食べて慢心の笑みを浮かべながら、エクスは言った。
「もう、ほめ過ぎよ」
そう言いつつも満更でもなさそうなビアンはエクスの対面の椅子に座ると、彼の顔をじっと見つめていた。
「・・・なに?どうしたのビアン」
視線に気づいて問いかけてくるエクスに、ビアンはニコニコ笑いながら
「ううん。エクスと一緒に居られて幸せだなって思っただけ」
などと言うので、エクスはクスッと笑いながら「なんだよそれ」と返していた。
エクスは自分のことを勇者と知らぬほど情報伝達の遅れた田舎村に住んでいた。
近所でもエクスの正体を知る者はなく、エクス達は『最近流れ着いた若夫婦』としか認識されていない。
エクスはビアンと言う幼馴染と結婚していた。
とは言っても教会に届け出ると自分の素性と居場所が知られてしまうため、事実婚状態であった。
エクスは勇者でもなんでもない、一般人としての第二の人生を歩みたかったからである。
ビアンは幼馴染なのでエクスが勇者であることは知っているが、彼の意志を尊重し、こうして正体を隠しながらひっそり生きていく結婚生活にも納得していた。
エクスは魔王討伐の過程でいくつものダンジョンを踏破し、魔王城でも幾多もの宝物を手に入れていたこともあってかなりの財産を持っていた。
しかし、そんなものを持っているだけでもそうだし、派手に使えばすぐに目立つ。それを嫌ってエクスはビアンに断った上で財産を手放した。
今、彼はたまにフリーの冒険者として出稼ぎしてくることで生活していた。
かつて約束されていた王族としての生活を比べればあまりに地味な暮らしであるが、それでも二人は幸せそうに暮らしていた。
「今でも信じられないわ。まさか勇者様であるエクスが私なんかと結婚してくれるなんて」
唐突にビアンが呟いた。
「なんかってなんだよ。俺はビアンがいいからビアンと結婚したの」
「でも、私より綺麗な王族や貴族の人との縁談だってあったでしょう?どうして私なんか・・・」
ビアンはエクスと結ばれたことは嬉しかったが、それでも幼馴染というアドバンテージしかない地味で冴えない田舎娘でしかない自分が、勇者として名を轟かせときめいていたエクスの伴侶として選ばれたことがいまだに半信半疑であるといった感じであった。
「王族でも貴族でもない、ビアンがいいから俺はビアンを選んだんだ。ホッとして落ち着くんだ。やっぱりビアンといると・・・」
しみじみといったように語るエクスに、ビアンは口元を抑えながら目を潤ませた。
「私・・・!私、本当に嬉しい・・・!幸せだわ・・・」
「なんだよ、大袈裟だな」
感涙するビアンの肩をそっと抱きしめるエクス。
二人の間を幸せな空気が流れていた。
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そんなとき、二人の空気を吹き飛ばすノックの音が部屋に響いた。
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